中国「激怒」の制裁再び? 韓国・文在寅を追い詰めるTHAAD増強計画
Upgrading South Korean THAAD
2021年5月19日(水)21時31分
ユン・ソクジュン(元韓国海軍大佐、韓国軍事問題研究院客員研究員)
<2016年に中韓関係に大打撃を与えたミサイル迎撃システムが増強されつつある。文在寅は苦しい板挟みに>
朝鮮半島におけるTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備は、中国と韓国を対立させてきた。中国は、米軍が開発した地上配備型ミサイル迎撃システムであるTHAADが、中国のICBM(大陸間弾道ミサイル)を無力化することを懸念しているのだ。
韓国とアメリカは、THAADはあくまで北朝鮮のミサイルに対抗することが目的だと主張してきた。THAADのレーダーは探知距離が1000キロで、敵ミサイルの発射直後に探知する前進型ではなく、大気圏に再突入するときに迎撃する終末型であり、中国のICBMは探知できない。
だが、最近の米国防総省の報告書は、このレーダーをわずか8時間で前進型に変えて、探知距離3000キロ、視野角120度に拡張できることを明らかにした。
韓国のTHAADは慶尚北道星州郡にある。発射台は全部で6基あり、それぞれにレーダーと8発の迎撃ミサイルが備えられている。
今、このシステムのアップグレードが進んでいるようだ。在韓米軍のロバート・エイブラムス司令官が、3月に行われた米下院軍事委員会の公聴会で、米国防総省のミサイル防衛局(MDA)が「3つの特殊な」ミサイル迎撃能力を構築しており、その1つは既に韓国に配備されていると証言したのだ。
韓国国内では激しい抗議の声が
エイブラムスは明言しなかったが、これはTHAADを指している可能性が高い。その第1段階は、レーダーと発射台を切り離して運用することのようだ。これは現在、韓国以外の世界6カ所で配備されているTHAADシステムには見られない運用方法だ。
第2段階と第3段階は、最新型の地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)を、THAADのレーダーおよび発射台と統合して、適切な脅威に対して、適切なタイミング、適切なミサイルで対応する能力を確保することだ。
韓国メディアがエイブラムスの議会証言を報じると、韓国国内では激しい抗議の声が上がり、星州郡のTHAAD施設前にはデモ隊が詰め掛けた。だが韓国政府は、この「アップグレード」は従来の施設の不備を補うためであり、中国のICBMを視野に入れたものではないし、その経緯は「中国に十分説明している」と言い張っている。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、THAAD問題について「戦略的曖昧さ」を維持する政策を取ってきたから、これ以上のコメントはなさそうだ。
2020年以降、米軍はより大きな政策の一環として、THAADの拡張を熱心に進めてきた。だが、今回のことで韓国国内では新たな論争が起こりそうだ。21年の米国の国防予算案に、韓国のTHAAD拡張が韓国の費用負担で行われることが示唆されているから、なおさらだ。
さらにジョン・ヒルMDA局長は20年、在韓米軍の「統合緊急作戦要求(JEON)」に基づく調達が完了すれば、THAADアップグレードの準備は整うと述べた。
JEONとは、米軍の緊急能力獲得プロセスのうち、現場の司令官が不測事態対応作戦のために不可欠と認めた要求をいう。在韓米軍の場合、これはTHAADと米軍のパトリオットミサイルを1つの防衛システムに統合することを意味する。
これは米軍が通信システムをネットワーク化して、THAADの遠隔操作能力を獲得し、レーダー等を星州に残したまま、発射台を非武装地帯や在韓米軍の司令部(米軍基地キャンプ・ハンフリーズ)に移す可能性を示唆している。ビンセント・ブルックス前在韓米軍司令官は数年前、JEONは、北朝鮮のミサイル脅威に適切に対処するためのTHAADのアップグレードが目的だと述べている。
計画を知らされていたのは明らか
韓国政府は、一貫してこれを否定してきた。3月にソウルで米韓外務・国防担当閣僚協議(2プラス2)が開かれる前にも、星州以外でのTHAADの運用や、THAADのアップグレードについてアメリカと協議したことはないと断言した。だが、その主張も近く変わるかもしれない。
実際、アメリカが韓国政府にTHAADのアップグレード計画を知らせていたことは、分かりきっている。なにしろ米軍の21年度予算案には、星州のTHAAD施設における建設作業に4900万ドルがかかるが、「韓国側の費用負担案件」と書かれているのだ。
在韓米軍は、北朝鮮のさらなる軍事力増強という問題に直面している。これには不規則な軌道を取る新型短距離弾道ミサイルのKN-23や、600ミリもの口径を持つ超大型放射砲KN-25が含まれる。
KN-23は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)で、THAADのレーダーをかいくぐるとみられることから、THAADを別の兵器とりわけパトリオットミサイルと統合することが最善策となる。28年に完成予定の新型イージス駆逐艦と組み合わせてもいい。
日本のミサイル防衛システムとグアムにあるTHAADが韓国と同じような形でアップグレードされるならば、その3つをアラスカにある米軍の司令部を通じて結ぶこともできるだろう。
ロイド・オースティン米国防長官は、2プラス2協議のとき、星州施設の不備は容認できないと発言したとされる。だが、文は難しい立場にある。THAADに何らかの変更を加えていることを認めれば、中国の猛反発に遭う恐れがある。16年のような激しい不買運動が再び起これば、韓国経済にも、文の政治生命にも大打撃となるだろう。
その一方で、中国としても、韓国を痛め付け過ぎれば、アメリカの中国封じ込め戦略に一段と加担させる恐れがある。
THAADを取り巻く状況は、文政権の幅広い外交政策と同様に、極めて細やかなバランスが取られている。THAADが遠隔操作もできるようになれば、北朝鮮の脅威に対する防衛は確実に強化されるだろう。それに文は、米韓同盟を堅持する姿勢を示すためにも、計画への同意を表明したいと考えるだろう。
これは、軍事とは無関係な国内問題のために支持率が下がっている与党・共に民主党にとっても重要だ。しかも来年は大統領選挙が控えている。
その一方で、文が唱える「朝鮮半島和平プロセス」のためには、THAADは現状のままにしておいたほうが賢明だろう。だがジョー・バイデン米大統領は4月末の施政方針演説で、北朝鮮に対して厳しい姿勢を示し、文の提案を応援する気配はなかった。
文政権がこのままTHAADのアップグレード問題を巧妙に避けていれば、中国は今までどおり沈黙を維持するだろう。だが文は、いつまでも「戦略的曖昧さ」政策を続けることはできないはずだ。

2021 The Diplomat
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/thaad-24.php
いよいよムントラへの国内外からの締め上げは、ピークを迎えておりますw
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