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2016年10月07日01:50

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私をぶん殴ったおっさんの話。

数日前の話になる。
WEBショップの販売分を発送しようとしていたら、知らぬ携帯電話から着信があった。
普段なら取らない。
しかし、激烈に忙しい今、関わった人間の番号を全てケータイに入れるのは無理だった。
客かもしれない。
「もしもし」
「もしもし・・・私、えーと、あれ、えーと、あれです。わかりますか」
わかるか。
コントかよ。
「すみませんが、ケータイに登録していないんでわからないです」
「えーと、あれ、ほら、トラックの」
人生で何台トラック見たと思ってる。
最近親会社に出入りしたチャーター便か。
「えーとほら、トラックと自転車で。」
「えーと知多の?」
「知多?」
違うらしい。先日目の前で高校生を左折に巻き込んだトラックではない。
ごにゃごにゃと要領をえない会話を経て、ようやく思い当たった。
「あー茶屋ヶ坂の!」
「そうそう」
横断歩道を完璧に塞いで止まっていたトラックを注意したところ、逆上してわざわざトラックを降りて私をぶん殴った男だった。

今、改めて数えると6年ほど前になる。
もともと交通量の多い出来町通の茶屋ヶ坂の交差点に、無理やり頭を突っ込んだトラックがあった。
案の定、そのトラックは横断歩道を寸断して停止した。
私は抗議を込めてトラックをノックし、運転手を指差して注意を促した。
おっさんはそのノックが、私が蹴ったと思った、とのちに供述している。それが本気なのか、言い訳の出来損ないなのかは知らない。
渡った先でもう一度信号待ちをしていた私におっさんはかけより、私の頭を小脇に抱えて引き摺り回した。背の高いおっさんだった。
私は眼鏡を壊されないように植え込みの陰にそっと置くくらいには冷静だった。
お金の匂いがした。だからおっさんと罵り合いつつも、自分からは何もしなかった。
おっさんは通行人に止められて私を離したが、すぐにまた激昂して殴りかかってきた。
その右拳を私は左の掌で掴んで止めた。おっさんの驚いた顔は今でも印象的に覚えている。
供述調書を取った時も、その部分だけ警官に5回ぐらい聞き直され、最終的にはポーズまで再現させられた。
普段は活躍しないが、これでも元空手部なんだよ。

おっさんの会社はすぐにわかった。警察が動くよりも早く、勝手に調べて勝手に通報してあげた。
「文句があるなら会社に言ってこい」というおっさんの捨て台詞通りにしてやったら、
運転手がそうなら会社もまたさるもので、担当者とやらが全面的に争うという宣言をしてきた。
「うちの運転手はあなたに車を蹴られたと言っているので、うちもあなたを訴えます」
「車体に凹みでもあるんですかね?」
「まだ見ていません」
アホの子だろうか。それに目撃者多数のところで車を飛び出して歩行者に暴行を働けばどう転んだって覆しようはない。あっという間にその会社とやらはおっさんを見捨て、
「あとはドライバーと直接話をしてください、うちは関係ないんで」
と捨て台詞を吐いて舞台から消えた。今でも、おっさんよりもこの藤巻とかいう担当者の方にムカついている。
結局私は自転車と懐中電灯代として7万円を請求し、それで被害届を取り下げて終わった。
ちょっとおっさんに同情した部分もあったのだ。

そんなおっさんが今更私に何の用なのか。
「実は私、あの後すぐに会社を解雇されましてね」
でしょうね。あの短気ではトラブルまみれでしょう。
「職がなくて困ってるんで、あなたになんとかしてもらえないかと思いまして」
「そんなこと言われてもこっちも裕福な暮らしをしているわけではないんでね」
まっとうに答えつつも緊張が走る。逆恨みも甚だしいが、逆恨みとはそういうものである。
当初個人情報など教える気はさらさらなかったのだが、これは米沢とかいう、「今東北から来ました」みたいな巡査が勝手に教えたのだ。ちなみにこの米沢はほっとけば住所まで教えていた。
この事件、私含めてアホしか登場しない。

「まあ普通に考えればハローワークとかですよね」
人生相談に乗ることにする。
「ハローワークは行ってますがね。もう50過ぎなんで断られましてね」
事件後数ヶ月でクビになったとして、その後5年の無職期間を経て、なんで私に電話しようと思ったのだ。謎だ。実は最近、15年前の元カノからLINEで友達に追加されている。なんでお前はお前と付き合っている時とは違う私の今の電話番号を知ってるんだ。これも謎だ。
「まあハローワークは条件悪いとこしかないですしね。でも今長距離トラックはどこも人材不足ですよ。それなりに大手だったら年齢とか関係なく撮ってくれるんじゃないですか。事件事故のことなんか書かなくてもいいわけだし」
「どこかいいとこ知りませんか」
知るか。
「ちなみに、職歴はトラックだけですか」
「いやあと・・・フォークリフト」
「フォークリフトか、フォークリフトも今なら結構条件いいと聞きますけどね。ネットは使えますか」
「使えます」
私は港区にある大手の運送会社の名前を告げた。
「そこなら大丈夫ってわけじゃないんで、あくまでもダメ元で行ってくださいよ」
「わかりました。なんかあったらまたかけます」
「私としてはもうかけて欲しくないけど(笑、わかりました、また」
こうしておっさんとの会話は終わった。
今の所、着信はまだない。


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