社員「在宅勤務続けたい」 出社は強制できるか
瀬川 奈都子 法務・ガバナンス 編集委員
2020/6/20 2:00 (2020/6/20 5:24更新)
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除され1カ月近くが経過し、オフィス街にも人出が戻りつつある。だが、企業のなかには社員から「在宅勤務でも仕事はまわっているのに、出社しなければならないのか」と聞かれて対応に苦慮するところも多いようだ。企業は社員に出社を強制できるのだろうか。専門家への取材をもとにQ&Aでまとめた。
Q 在宅勤務を続けたいと主張する社員がいる。出社を強制できるか。
A 法的には企業は、業務命令として出社を命じる権利はある。労働者は労働契約上の労務提供義務を負っており、そこには、契約で定められた就業場所で就労する義務も含まれている。「労働者が就業場所を要求する権利はなく、会社の出社命令を拒否することは原則としてできない」(今津幸子弁護士)とされる。
雇用契約上、原則として出社することになっているにもかかわらず出社を求めても拒否した場合は、会社としては欠勤扱いとし賃金を支払わないという対応も可能だ。出社による感染リスクが高いといえる特段の事情もないのに出社拒否を続ける場合には、懲戒規定に基づき懲戒処分を行う余地もある。ただ、その場合にも懲戒処分の相当性の観点から、まずは厳重注意や軽めの懲戒処分から行う。「出社拒否による解雇は最終手段として慎重に検討すべきであり、安易に解雇すると解雇権の乱用として裁判で無効と判断されるリスクがある」(川久保皆実弁護士)ためだ。
Q 出社を強制すると社員のやる気をそがないか心配だ。
A 緊急事態宣言が解除された今、社員に出社を要請すること自体が、法的に問題となる可能性は低くなった。だが「出社命令は業務に必要で相当な範囲で行うべきで、嫌がらせ目的であったり、労働者に不当な苦痛を与えるなどと裁判所が判断した場合には業務命令権の乱用で違法、無効となる」(倉重公太朗弁護士)点には留意すべきだ。
また、たとえ法的には命令の正当性がある場合でも、社員に納得してもらう努力は必要だ。出社しなければならない合理的な理由、業務上の必要性を説明できなければ、社員のやる気も企業の評判も下がるだろう。例えば、オフィスで顧客と対面で接することへのニーズがあるといった説明はあり得る。一方、「情報セキュリティーを担保する設備が整っていない、勤怠管理が難しいという、企業が解決すべきことがらは理由として説得力が乏しくなる」(倉重弁護士)。むしろ在宅勤務を認めつつ、無駄な会議の削減やデジタル化の推進など、業務の効率化を図る機会とできれば理想的だろう。
Q 出社させる場合の注意点は。
A 緊急事態宣言は解除されたが、感染リスクがゼロになったわけではない。厚生労働省は4月下旬に出した通達で、業務が原因で新型コロナに感染した場合は、原則として労災補償の対象になるとの見解を示した。企業は安全配慮義務の観点から、感染予防対策を行う必要がある。
ただ、新型コロナへの感染を防止する安全配慮義務をめぐる判例はまだなく、何をどこまで行えば企業が免責されるのか線引きはあいまいだ。小売りやエンターテインメント業界などは、業界団体が対応指針を公表している。キャバレーなど接待を伴う飲食店、ライブハウス、ダンスや音楽を楽しむナイトクラブなどについても、各業界団体が専門家らの助言を受けて指針を作成し、政府が発表した。
指針がある業界は、それを順守することが安全配慮義務を果たしたことの一定の証明にはなるだろう。だが、オフィスでの業務は企業の規模や仕事内容も様々で、画一的な指針は存在せず、作ることも困難。各企業が「3密」を避けるために、できる工夫をする必要がある。
Q 欧州には「在宅勤務権」を法的に導入する動きがある。
A ドイツのハイル労働・社会相が2020年秋に新たな法案を提出する構想を明らかにした。労働者が在宅勤務を企業に要求できるようにするとともに、長時間労働の抑止策なども盛り込む。ただ日本ですぐに同様の制度を導入するのは難しそうだ。
人事評価制度や雇用システムに違いがあるほか、労働契約の権利義務の前提も日本とは異なる。日本は労働時間に応じた給与体系が一般的なほか、成果主義の徹底も不十分。毎年、一括採用した新入社員を社内で育成する「就社」システムともなじみにくいだろう。
加えて日本では判例上、一般的には労働者に「就労請求権(労務提供の権利)」がないこともネックだ。労働契約において、労働者には会社の指揮命令に従った労務提供の義務と賃金の請求権があるだけだ。特約のある場合や特別の技能者である場合を除いて、労働者は就労請求権を持たないとした1958年の東京高裁決定がリーディングケースとされている。つまり日本では、どう働かせるかは原則会社の自由で、「在宅でなら業務を遂行するから、その形で私の労務を受け入れて」という権利は存在しないことになる。ドイツなどで「就労請求権」が認められている欧州とはこの点でも開きがある。
新型コロナを経て在宅勤務を経験した従業員が増えたことをきっかけに、国はより時代に合った働き方ができる制度整備をし、企業は柔軟な働き方を率先して導入することで自社の魅力向上につなげることが望ましい。
(編集委員 瀬川奈都子)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60486350Y0A610C2000000/
>欧州には「在宅勤務権」を法的に導入する動きがある。
本来なら働き方改革の目玉にすべき法案です。
さらに、中共肺炎でダメージを受けた日本経済を早期に立て直す政策でもあります。
在宅勤務に成功した会社は、通勤時間が減り、交通費の支給や事務所の維持費が減少するので、生産性が向上します^^
家で子育てしながら仕事が出来るので、共働き夫婦にありがちな、待機児童の問題を軽減出来ます。
>加えて日本では判例上、一般的には労働者に「就労請求権(労務提供の権利)」がないこともネックだ。
労働組合の支援を受けている野党が、なぜ国会で取り組もうとしないのか不思議です^^;
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