ニューヨーク。3流の酔いどれ新聞記者だったピーター・ファローは、ある事件をキッカケに「忘れられた子羊(ラム)と真実」という本を上梓し、ピューリッツアー賞も獲得してまさに<時の人>となった。今夜は本の発売記念パーティで、もう会場についたときからベロンベロンだ。しかしそんな千鳥足でも、彼は回想し、彼に栄誉を与えてくれた英雄、シャーマン・マッコイに惜しみない賛辞を贈るのだった。
シャーマン・マッコイは、まだ30そこそこだが、ウォール街で活躍する腕利きの証券トレーダーだ。美人の妻ジュディ、幼い娘キャンベル、そして気難しい犬マーシャルと共に、マンハッタンの超豪華マンションで生活している。一日の稼ぎは最高170万ドル。ハイソの証メルセデスを乗り回し、美人の人妻マリアと情事も楽しむ、まさに<全てを手に入れた男>だった。ある日、海外から戻ったマリアを空港に迎えにきたシャーマン。そのままマリアが所有するアパートの一室に向かい、セックスを楽しむつもりであったが、今夜は事情が変わってしまった。空港から高速に乗るつもりが、道を間違えてブロンクスに入ってしまったのである。何とか高速に入り直そうと街を抜けたら。今度はランプ下に古タイヤが落ちていて先に進めなくなっている。シャーマンはクルマを止めてタイヤをどかそうとするが、そこに運悪く、黒人のチンピラ二人が現れ、絡んできた。逃げようとするシャーマンを押さえ込むチンピラたち。マリアはそれを見て助手席から運転席に移り、猛スピードでクルマを発進させる。シャーマンが助手席に飛び乗り、何とか高速に逃げる事に成功したが、そのとき、どうもチンピラの一人をはねたゴツンという音がしたのに、二人は気付いていた。
さて翌日。ブロンクスでは昨夜のひき逃げ事件が問題となっていた。白人の乗ったメルセデスが黒人の青年ヘンリー・ラムをはねて昏睡状態に陥らせたという事件だ。高校を卒業したばかりで大人しい若者だったラム君が、横暴な白人に殺されかけた・・・ということになっている。ブロンクスの地方検事ワイスは、選挙戦を見据え、黒人票獲得のためこの<メルセデスの白人>を逮捕するよう部下に厳命する。ブロンクスの黒人コミュニティを牛耳るベイコン牧師は、新聞社と結託し、この事件を世界的/大々的に報道させようと思いつき、社でくすぶっているピーター・ファローに白羽の矢を立てた。ファローはラムがチンピラだったことをいち早く掴み、真相は違うんじゃないかと思いつつも、ベイコン牧師の意に添うように、<メルセデスの白人>を極悪人のように書き立てた。数日後、マンハッタン中のメルセデスをシラミつぶしに当たっていた刑事たちが、とうとうシャーマンの元にやってきた。ちょっとクルマを見せてくれという刑事たちに対し、あからさまに動揺して「べ、弁護士呼びます」と答えてしまったシャーマンは、クロと断定され、ついに逮捕されてしまう。その頃、マリアは新たな恋人とともにイタリアへトンズラ、シャーマンの妻ジュディも彼に三行半をつきつける。ファローの記事のおかげで、<ラム事件>は全米が注目する所となり、黒人たちのデモも活発化。シャーマンが懲役刑を喰らわなければ引っ込みがつかないところまで状況は進んでしまう。何とか1万ドルで保釈されたシャーマンだが、記者たちに追われすっかり疲弊してしまった。そんな彼を見かけたファローは、身分を隠して接近、地下鉄に逃がして酒をふるまってやるのだった。あまりにショボくれたシャーマンを見てどうしても極悪人に見えないファローは、去り際にシャーマンが残した「・・・運転してたの、ほんとはボクじゃないのになあ」というセリフに強く反応する。もしシャーマンが無実なら、俺はトンデモナイ金脈を当てたことになる!
その後、ファローは幸運と記者としての資質によって、メルセデスを運転していたのが実はマリアであった事実を突き止めた。その証拠をどう使うのかはシャーマン次第。愛人を愛したまま、愚かに自滅して行くのか。それとも、自分の誇りと真実のために、マリアを糾弾するのか。その結果如何によっては、ファローの人生も変わるのだ。やがて判決のときが訪れ、シャーマンは証言台に立って偽証するマリアと醜い争いを展開。そして何とか無罪を勝ち取るのだった。シャーマンは、この馬鹿げた騒動のおかげで財産も家族も失ったが、魂は捨てずに済んだ。反対に、この事件を機にファローは本を書き、財産を手に入れた。今は人生で絶頂の時。魂を捨ててもいいのではないか?
「虚栄のかがり火」。
昔見た時に、サスペンスとしてもベツに盛り上がらないし、特にカタルシスもないしで、「つまらんな」と思いました。
そんなムカシの俺に、蹴りを喰らわせてやりたい今日この頃です。
・・・いやあ!!!これ、モーレツに面白いですよ!
ニューヨークのスノッブな連中が右往左往しているだけの話で、事件は起きるけどサスペンスも謎解きもカタルシスもない映画なんですけど、既婚男性・愛人絶賛募集中の身としては、まあトム・ハンクスのバカ哀れっぷりに大爆笑できましたよ。そう、これは人種差別ネタも入った実にブラックなコメディなんですよね。バカ(ハンクス)とヤリマン(メラニー・グリフィス)と酔っぱらい(ブルース・ウィリス)が主人公で、周囲は揃って間抜けばかり。ハンクスの父を演じたドナルド・モファットと裁判長モーガン・フリーマンだけが良心を持っているという配役です。酷評されましたけど、いま観直すと、狂ってるとしか思えない80年代の喧噪を体感できるかも。
また、この映画はデ・パルマ作品としては物凄く重要な一本と言えるかも知れません。私の知る限りの<デ・パルマ・タッチ>が全て投入され、その全てが、物語上必要な演出として機能しているというのが凄いんです。「ミッション・トゥ・マーズ」のように、あからさまに<デ・パルマ・タッチのためだけに作ったシーン>というのが無くて、デ・パルマ・タッチが必然、という場面ばかりなんです。そんな映画は、デ・パルマのキャリアの中でも珍しいんじゃないでしょうか。
1:長回し
オープニング、ファローがホテルの地下駐車場に到着し、そこからレセプション会場までの移動を1カットの長回しで見せます。飲みまくり、つまみ食いをして、おねーちゃんを口説きながらシャツを着替えるファロー。この長回しだけで、奴がどんなキャラなのかを全て説明しています。
2:階段
デ・パルマ映画で象徴的に登場する<階段>。判りやすく、シャーマンが下にいて、嫁が上から文句を言うって構図なんですが、その位置関係が、その後の二人の人生を暗示しています。
3:天井俯瞰
シャーマンが顧客に国債を買わせるためハンズフリーで電話している場面。ぐるぐる回るカメラとシャーマンのテンポよい会話のやりとりで、彼の仕事のめまぐるしさも表現しています。
4:スプリットスクリーン
画面左がベイコン牧師のTV出演画面。それを冷ややかに見ているファロー。二組の熱の差を、並べて表現しています。
5:ディープ・フォーカス
有罪になりそうで苦悩するシャーマンと、その脇で電話をかけている弁護士のショット。二人の表情を同時に見せる効果があります。
6:360度パン
保釈されてマンションに帰ったら、なぜか部屋の中でパーティが始まっていたというシーン。帰ってきたシャーマンを客たちが祝福し、それに驚く様を360度カメラ回転で見せています。
7:1人称カメラ
裁判所の前から入口に向かうまで、シャーマンの目線カメラで進んでいきます。記者たちの質問攻めをかいくぐり、ゴールはドア前で迎える検事補クレイマーでした。
・・・どうです、人が死なない映画でこんなにデ・パルマ・タッチが盛り込まれた作品ありました?サスペンスじゃなくても、デ・パルマは通用するのです!!!
また、裁判所で傘をさす記者たちが群がる場面は「海外特派員」のパロディでしょう。そんなデ・パルマの遊び心も楽しめる一本なのです。
(通算974タイトル)
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