日銀の大規模な量的緩和に賛成する経済識者、政治家、メディアなどは、「アメリカは金融危機から立ち直り、安定した経済成長を続けている。だから、アメリカの経済政策を見習ったほうがいい」という類の発言をよくしています。
しかしながら!
アメリカの2000年以降の通貨安に伴うインフレの歴史が証明しています。
2000年を100とした場合のアメリカの名目賃金、実質賃金、消費者物価指数のそれぞれの推移を見てみると、2013年の名目平均賃金は97.5と下がっているのに対して、消費者物価指数は135.3と大幅に上がってしまっているのです。名目賃金はまったく伸びていないのに、インフレ政策によって物価だけが伸び続けてきたために、驚くべきことに実質賃金は72.4まで下がり続け、アメリカ国民の暮らし向きは悪化していく一方であったわけです。
住宅バブルの崩壊後に、アメリカ国民の名目賃金は1995年の水準に下がってしまっているにもかかわらず、2013年の時点でガソリン代が2.4倍、電気代が1.6倍、食料価格が1.4倍に跳ね上がってしまっては、庶民は余裕を持って生活していくことなどできるはずがありません。
いくら自由主義経済を旗印に掲げているアメリカであっても、2011年にウオール街で大規模なデモが起こったのは当然のことだったと言えるでしょう。
それでは、安倍政権が誕生してアベノミクスが始動したあとの日本では、国民の実質賃金はいったいどのように変化してきているのでしょうか。
厚生労働省の毎月勤労統計によれば、実質賃金(2010年平均=100)は、2013年7月から直近の2014年11月分まで17カ月も連続して減少しています。2013年前半に名目賃金が少しだけ上がったところで、急激な円安によるインフレが進み、実質賃金を大幅に引き下げてしまっているのです。
実質的にアベノミクスが始まった2013年以降の実質賃金がどのように推移しているのかを見てみると、2013年1〜3月は0.1%増、4〜6月は0.4%増となりましたが、円安による輸入インフレの影響を受け始めた7〜9月には1.5%減、10〜12月には1.4%減、2014年1〜3月は1.7%減、4〜6月は3.4%減、7〜9月は2.6%減と、減少傾向に歯止めがからなくなってきています。
以上の推移を見てわかるように、消費税の増税が行われた2014年4月以前の数字をありのままに受け止めると、そこで明らかになるのは、デフレの時よりもインフレの時のほうが実質賃金は大きく落ち込んでしまっているという事実です。
「アベノミクスは消費税5%でも失敗していた」でも指摘したように、「もしアベノミクスが失敗したら、それは消費税を増税したからである」と、リフレ派の経済識者たちがそろって保険をかける発言を繰り返していますが、そのような発言は実質賃金の推移を見れば真実ではないことが、誰の目から見ても明らかなのです。
確かに、消費税増税実施直前の2014年1〜3月期のGDP成長率がプラス6.0%であったのに対して、4〜6月期がマイナス7.1%に落ち込んだのですから、そういう理由付けをしたくなるのはわからないでもないですが、実のところ、高成長を達成した1〜3月期においても実質賃金1.7%減となっていたわけです。
これはどういうことかというと、誤解を恐れずに申し上げると、アメリカのケースと同じように、日本でも一般国民の所得が富裕層と大企業の所得に移転しているということなのです。
マスメディアで、いい加減な情報が跋扈しているなかで、本当にアベノミクスが成功しているのか否かを見極めるためには、アベノミクスが本格的に始動した2013年以降の実質賃金と、それ以前の実質賃金の推移を比べるのが、いちばん正しい方法であると考えられます。
そこで、アベノミクスが始まる前の2010年〜2012年の3年間、すなわち民主党政権時代の実質賃金はどうだったのかというと、2010年が1.3%増、2011年が0.1%増、2012年が0.7%減となり、結果的には実質賃金は0.6%増となっています。
正直言って、民主党政権時代の経済政策は目も当てられないほどひどかったのですが、それでも安倍政権下での2013年の実質賃金が0.5%減、2014年が2.7%減(1月〜11月の数字)となり、暫定的ながら2年間の成果が3.1%減となっている(この減少率はリーマンショック直後に匹敵する)ことを考えると、アベノミクスがあまりにも筋が悪すぎる政策であったことが露見してしまったのです。
ただし、私は「安倍首相は本当に運がいい人だ」と思っています。
原油価格の急落は、アベノミクスによる景気低迷や国民生活の痛みを緩和してくれるだけでなく、アベノミクスの失敗から政権が退陣に追い込まれるリスクまでも軽減してくれるからです。この件については、また別の機会にでも話したいと思います
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