不動産バブルがはじけた韓国 通貨売りと連動、複合危機に
鈴置高史
2022年08月29日
韓国でマンション価格の下げ足が一気に速まった。不動産バブルがはぜ始めたのだ。おりしも激化する通貨売りと絡み、複合的な危機に陥る可能性が高いと韓国観察者の鈴置高史氏は見る。
つるべ落としのマンション価格
鈴置:今年初め、韓国のマンション価格が頭打ちになりました。その後、じわじわと下げていましたが、6月になって突然、下げ足を速めました。今や、つるべ落としの状況です。
韓国ではマンションは投機の対象。ちょっとした小金持ちは借金をしてマンションを何軒も持つのが普通です。値上がりを見込んでの投機ですから当然、大きく下がれば金融システムにヒビが入ります。
グラフ「韓国のマンション取引価格の週間変動率」をご覧ください。政府系機関、韓国不動産院が調べたデータをもとに作成しました。
6月第1週までは全国、首都圏、ソウルとも先週比でマイナス0・01―0・02%程度の下げでした。その後、下げのピッチが速まり、8月第4週にはいずれもマイナスの0・14%、0・18%、0・11%を記録しました。
――原因は?
鈴置:直接の原因は利上げです。米国の相次ぐ利上げを受け、韓国銀行も基準金利を上げ続けています。8月25日に開いた金融通貨委員会でも0・25%引き上げ、年2・50%としました。
新型コロナによる景気失速を防ぐため韓銀は年0・5%まで基準金利を下げていましたが、2021年8月に引き上げに転じました。その後の1年間で合計7回に亘って上げたのです。金融通貨委員会は今年はあと2回開かれる予定ですが、いずれも0・25%引き上げるとの観測が多い。
本質は生産年齢人口の減少
――米国の利上げが止まれば、韓国の不動産価格は安定する……。
鈴置:それは甘い見方と思います。バブル崩壊の本質は生産年齢人口の減少による不動産需要の減少にあるからです。マンション価格の年間変動率を示したグラフをご覧ください。(図略)
日本でもそうでしたが、生産年齢人口がピークアウトする少し前にバブルが発生し、その前後にはぜることがある。韓国の生産年齢人口の頂点は2019年で、まさにこの年からマンション価格は下がり始めました。
ところが2020年に発生した新型コロナに対応するため、韓国のみならず世界中が金融を緩和しました。韓国にもホットマネーが流れ込み、しぼみかけたバブルに息を吹き込んでしまったのです。
現在、ソウル市内のマンション価格は標準的な広さの85平方メートルの物件で、日本円換算で1億円するのは当たり前になりました。小金持ちはこうした物件を担保に金を借りて、次々とマンションを買い増してきたのです。
もっとも2021年12月、米FRB(連邦準備理事会)がテーパリング(量的緩和の縮小)に動くと、2022年1月に韓国のマンション価格も下げに転じました。世界の金融が正常化に向かった瞬間、韓国の不動産バブルも化けの皮がはがれたのです。
本来、起こるべきバブル崩壊と比べ、2年遅れた形となりましたが。その分「山高ければ谷深し」ということになるかもしれません。
――生産年齢人口が減る直前になぜ、バブルが起きるのでしょうか。
鈴置:養われる人に比べ働き手が増えるためカネ余り現象が起きて、投機がはびこるのです。こうした仕組みや、韓国バブルの崩壊に関しては『韓国民主政治の自壊』第4章第3節「ついに縮み始めた韓国経済」で詳述しています。
韓国の「鬼平」は米FRB
――韓国では大騒ぎに?
鈴置:それが、全く騒ぎになっていないのです。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は8月17日、就任100日を記念して記者会見を開きました。冒頭発言で「暴騰した住宅価格とチョンセ価格(賃貸住宅を借りる際に家主に預ける保証金)を安定させました」と誇りました。
激しい不動産の値上がりに直面した人々は、下がれば思わず「ほっ」としてしまい、「これがバブル崩壊だ」とは思いません。日本でもバブル崩壊が始まったというのに、相次ぐ利上げでその引き金を引いた日銀総裁が「平成の鬼平」と持ち上げられたりしました。韓国の場合、「鬼平」は米FRBですが。
7、8年ほど前までは「少子高齢化による生産年齢人口の減少により、韓国経済も危機に瀕する」と警鐘を鳴らす韓国人も少数ですがいました。主に、韓国紙の東京特派員として日本のバブル崩壊を目撃した人です。
1980年代には米国を凌ぐかに見えた日本経済が、突然、ズブズブと沈んでしまった。それを身近で見守った特派員は、平均的な日本人以上に「なぜか」と考え込んだのです。ただ、それから30年たった今、彼らのほとんどが引退してしまいました。
そんな体験はしないものの、理屈では分かっているエコノミストもいます。でも、韓国人の多くが「日本を超えた」と有頂天になっている時に、実体験なしに「日本と同じ病に罹るぞ」と言い出す勇気は出ないものです。
韓国の少子化こそが急ピッチで進んでいます。韓国の合計特殊出生率は2017年の1・05から2021年の0・81に急速に落ちました。コロナの影響もあるのでしょうが、2022年第2四半期には何と0・75に。今年1年間も0・7台で終ると予測されています。なお、日本の2021年の合計特殊出生率は1・30です。
1997年の通貨危機も金融不安が根に
――不動産バブルの崩壊は何をもたらすのでしょうか。
鈴置:日本では金融システムが破壊されました。1990年代の日本で、不動産投機に貸していたおカネが回収できなくなっていくつかの銀行が消滅したのを記憶している人も多いと思います。
金融システムが破壊されれば、製造業にも資金が円滑に供給されなくなりますから経済全体が沈滞します。生産年齢人口の減少により消費も縮みますから、この面からも経済規模は頭打ちに陥りました。
韓国の場合、不動産投機の主体が企業ではなく個人ですから、様相は若干異なるかもしれません。1件当たりの貸し出しは個人ですからさほど多くない。
しかし韓国では、3ヶ所以上からおカネを借りている多重債務者が全人口の1割弱に達します。彼らの多くが不動産や株式、暗号資産(仮想通貨)でバクチを張っているわけで、バブルが崩壊すればどれだけの借金が踏み倒されるか、考えるだけで恐ろしくなります。
金融システムの破壊、あるいはその懸念だけで、通貨危機を呼び込みます。1997年の韓国の通貨危機も、根っこには金融システムの動揺がありました。
1997年、今は現代自動車の傘下に入って再生した起亜自動車など大手、中堅財閥の破綻が相次ぎました。財閥にカネを貸していた韓国の銀行に対する懸念が増していたところに、タイから始まったアジア通貨売りの嵐が襲いかかったのです。
最近もほとんどの通貨が売られる、ドル独歩高の時代に突入しました。ウォンも売られ続け、2020年12月には1ドル=1085ウォン前後だったのが24%程度下がり、今や1340ウォン台。
ついに8月29日の終値は先週末比19・10ウォン安・ドル高の1350・40ウォンを付けました。2008年の通貨危機の余燼(よじん)がくすぶっていた2009年4月28日の1352・80ウォン以来の安い水準です。
大統領が「通貨危機は起こさない」
――ウォン売りに対し韓国で警戒感は高まっていますか?
鈴置:韓国政府はかなり緊張しています。他の通貨、例えば円もかなり売られていますが、日本は通貨危機に陥ったことはない。一方、1997年、2008年と2回に亘り通貨危機に陥った韓国人は「デジャヴ」に襲われるのです。尹錫悦大統領も8月24日の「第2回マクロ金融状況点検会議」の冒頭発言で以下のように述べました。
・過去の危機の状況と比べ、我が国経済の対外債務の健全性は大きく改善されましたが、決して気を緩めるわけにはいきません。
・政府は6月に非常経済体制に転換し、毎週私が直接、非常経済民生会議を主宰し、民生の懸案をひとつずつ慎重に対処しています。
・金融・通貨のいかなる危機的状況も再び発生しないよう、また、民生の困難が深まらないよう、徹底的に点検し対応していきます。
この政権で、大統領がこれほど明確に通貨危機への警戒感を表明したのは初めてです。不動産バブルの崩壊が国内ではさほど注目されていない段階で、これほどウォンが売られているのです。
国民が過去の2度の通貨危機を思い出し、「政府はちゃんとやっているのか」と不安になるのは当然で、大統領もそれに対応する必要があったのです。
ことに韓国は通貨危機の特効薬と信じられている米国や日本との通貨スワップを失っています。米国との為替スワップは2021年12月末で終了しました。2022年7月にJ・イエレン(Janet Yellen)財務長官が訪韓した際、韓国では「スワップ再開」を依頼しようとの声が高まりましたが、色よい返事はもらえませんでした。
日本から通貨スワップを付けてもらおうとの意見も韓国メディアでしばしば語られます。しかし、極度に関係が悪化した日本が韓国とのスワップを再開する可能性は低い。
李明博(イ・ミョンバク)政権が日本から通貨スワップを得た途端に、掌を返して竹島に上陸したり、天皇陛下に謝れと言い出した実績もあります(「通貨スワップを仇で返した韓国」参照)。
自民党の外交部会には「2度と韓国にスワップは与えない」と息巻く議員が多いのです。いくら岸田文雄首相がお人よしでも、日本から通貨スワップを得るのは難しい。
怪しげな「楽観論」を唱える韓銀総裁
8月25日、韓銀の李昌�鼻淵ぁΕ船礇鵐茱鵝冒躡曚狼�者懇談会で「通貨危機は来ない」との楽観論を開陳しました。聯合ニュースの「李昌�鼻悒Ε�ン安は流動性のためではない…1997・2008年とは異なる』」(8月25日、韓国語版)から楽観論の根拠を拾います。
�〆廼瓩離Ε�ン安はドル高のためであり、韓国の流動性や信用度に問題があるからではない。
��IMF(国際通貨基金)が必要とする流動性の基準と比べ、韓国の外貨準備は少ないとの指摘があるが、韓国の外貨準備額は世界9位である。外貨準備の多い国にとってそんな基準は意味がない。
�J胴颪肇好錺奪廚魴襪鵑任い覬儿颪筌罅璽蹇▲�ナダの通貨は皆、ドルに対し安くなっている。スワップがウォン安を防ぐとの考えは誤りだ。
�,亮臘イ鰐簑蠅�ら目をそらす詭弁です。ドル高のためにウォン安が進んでいるのは事実です。しかし、ウォンが売られるほどに流動性や信用度が落ちる可能性が高まるのも事実なのです。
�△盒�引な議論です。通貨危機が起こるかは、外貨準備の規模そのものよりも、それと負債の兼ね合いで決まることが多いのです。
��も論点のすり替えです。韓国の問題は通貨安ではなく、通貨安が引き起こすであろう通貨危機にあるのです。スワップと通貨安の関係を議論しても意味はない。
韓国銀行総裁が理屈に合わない苦しい弁解を始めた――。これこそが、通貨危機の可能性が増していることを示していると思うのです。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08291850/
日本経済は韓国と違うので、今の所他人事で済みます。
しかし、人口減なのは同じなので、生産性の向上や人材の育成は早急の課題です。
先に確実に沈む韓国経済に手を差し伸べる事だけは絶対にやめましょう♬
ログインしてコメントを確認・投稿する