ブルーノ・ワルターコミュのベートーヴェン交響曲第６番「田園」 名盤：曲の分割による解析表情とテンポの変化解析、指揮者の解釈 11 6. 9人の指揮者の解釈とその分類、音楽＆音の要素との関係 9人の指揮者につき、解釈の特徴とその内容を以下、３分類した。 分類1. 楽曲の意味・内容、特に状況・情感表現重視の解釈 分類2. 楽曲の意味・内容の全般重視に他の特徴も加わった解釈 分類3. サウンド重視の解釈 分類1. 楽曲の意味・内容、特に状況・情感表現重視の解釈（図12） �．侫襯肇凜Д鵐哀蕁次↓▲錺襯拭次↓�E.クライバー（第２楽章）、�ぅ據璽拭次Ε沺璽�、�ケЫ� �� フルトヴェングラー（’52年,ベルリンpo） 解釈はテンポを大きく変化させながら、楽曲の意味・内容を強く表現する彼独自のスタイルがここでも徹底されている。したがって、分類１をもっとも重視した劇的表現。具体的には、「田園」の雰囲気に浸る人の情感やその変化が非常に強く表現されている。しかし、変化があまりに劇的であるために、聴いた印象は「田園」の状況とはやや異なる。この点を考慮してY軸位置を決めた。X軸位置は、録音が古いためのサウンド上の不満と情感表現により音楽的要素から外れている箇所がある点を考慮した。 �� ワルター（58年,コロンビア響） 旋律主体に緻密にうたうことを基盤にしているが、その表情は状況・情感の内容も極めて緻密に表現されている。したがって、解釈は分類２主体であるが、表現されている内容は分類１をも極められた表現内容。この点を考慮してY軸位置を決めた。解析表情数からも明らかなように音楽的要素が極めて多く緻密に表現され、古い録音ではあるがサウンド上も最上級に近い。これらの点を考慮してX軸位置とした。 �� E.クライバー（’53年,RCO、第２楽章のみ）： 第２楽章が特に素晴らしい。聴き手が小川のほとりにいるかのような感情に陥る。第２楽章以外は旋律がよくうたわれている。第２楽章のみの評価によりY軸最上位とした。X軸は録音の古いサウンド上の不満や情感表現重視により音楽的要素から外れている箇所もある。この点を考慮した。 �� ペーター・マーク(’95年,パドヴァ・ヴェネト管) 「田園」の状況やその中の人の情感・その流れを独自の解釈で表現している。表情は小編成オーケストラであるため緻密で端麗。他演とは異なった趣向が感じられる。Y軸位置は独特の表現で難しいが個人的印象より決めた。X軸位置は小編成による迫力不足、情感表現による音楽的要素からの外れを考慮した。 �� 宇宿（2010年,フロイデフィル） テンポの変化幅はフルトヴェングラーほど大きくないが、変化の傾向は類似。すなわち、テンポの変化を状況・情感の変化による人の鼓動の変化と連動させている（個人的考察）。表情も澄み切った長閑さに感情も揺れ動き、心が洗われ、浄化される様。管弦楽も集中しており、感動した。ただし、表情の分厚さが若干不足している点を考慮したY軸位置とした。X軸も同様の理由により決めた。 分類2. 楽曲の意味・内容の全般重視に他の特徴も加わった解釈(図12) �� ザンデルリンク（’85年,ケルン放送響） 旋律を遅いテンポでうたいつつ、雰囲気や情感面は緻密独特な表現。ゆったりしたテンポによる大らかな雰囲気、大きく揺らぐ喜びやゆったりと膨らむ安堵の感情が実に丁寧に表現されている。暖かみのある表情に感動。Y軸位置は旋律を遅いテンポでうたいつつ、雰囲気や情感面も緻密独特な表情で表現され、分類１と２の中間あたり。個人的主観で決定。X軸はテンポが遅いためやや解析表情数は少ないが、音楽的要素は十分満足。サウンドも美しいため、比較的上位に位置づけた。 �� クレンペラー(’57年,フィルハーモニア管) 楽譜記載の各パートを生かした音楽的な造形を重視、この点を最適化しつつ、最も強く明確に表現、したがって解析表情数も多い（６３）。加えて状況・情感表現は解釈からは認められない、典型的な分類2。以上の理由によりY軸は分類２に上位。また、明確なサウンド表現よりX軸も上位。 分類３．楽曲の意味内容よりもサウンドを重視した解釈（図13） �� C.クライバー(’83年,バイエルン国立管) リズムを重視し、全体的にはやや速いテンポで音楽の流れがよい。一方、旋律は相対的に弱まり、解析表情数も少ない(29)。結果として、分類3。X軸は、上述のように旋律が相対的に弱く、解析表情数も少ないため、音楽的要素面で低位置とした。リズムに対して相対的に旋律主体のこの曲、C.クライバーにとって指揮台に立つこと自体苦痛であったのでは？と個人的に推察する。 �� カラヤン(’76年,BPO)： ここでは全盛期をカラヤンの代表盤、解釈の典型として評価。完璧な合奏、かつ究極のカラヤン流サウンド美より、分類３の典型例であろう。図１３のY軸最上位とした。X軸的には、カラヤン流の滑らかな表現により旋律が弱まり、解析表情数もやや少ない（41）。音楽的要素面で低位置とした。 7. まとめと感想 曲の分割とソニーの十二音解析、分割部の平均時間から相対テンポ（％）の算出、分割部の音楽的内容を楽譜や種々資料より調査、分割部の各演奏の比較試聴等によって、各演奏の各楽曲の表現の特徴をかなり細かく理解することができ、指揮者の考えている内容や解釈までたどり着けたように思う。 特に分類１の範疇は、解釈及び具体的表現がイメージできたのち、聴衆の心に響く水準にまで完成度を上げるためには、指揮者の優れた能力、経験、具体的な表現のための管弦楽との練習＆実演の積み重ねによる表現の細かな改良などかなりの時間と労力を必要とすることなど、素人なりにわかったように思う。したがって、不滅の名演と言われる演奏は分類１の範疇または、分類２であっても分類１の表現にかなり配慮されているものが多い。個人的に心に最も響いた演奏は、月並みかもしれないが、この曲の場合はワルターの演奏であった。他演も特徴ある解釈による演奏をとりあげたので、当然他の多くの人にとっては心への響き方も異なり、好みやお気に入りの演奏も分かれるであろう。 なお、ここでの記載はライブではなく、CDやLPなどの録音ソースにより鑑賞することを想定したものであり、他の多様な楽しみ方のあるライブ演奏は参考程度に考えて頂いた方がよいだろう。 ブログ：http://tkdclassic1.blog.fc2.com/blog-entry-278.html
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