Brigitte Fassbaender
ブリギッテ・ファスベンダーは、クリスタ・ルートヴィヒのあとの世代のドイツのメゾの代名詞ともいうべき名花であろう。1939年ベルリン生まれ、ここ数年は活躍の声が聞かれないが、7〜80年代は各地で引っぱりだこの人気歌手の一人だった。父親が有名なバリトン歌手であっただけに、恵まれた環境と素質に恵まれ、生まれるべくして生まれた根っからの劇場の人。そして歌曲においても、味のある歌唱は印象深い。しかし、ファスベンダーといえば、オクタヴィアン、ケルビーノ、オルロフスキー、ブランゲーネ、ヴァルトラウテ、作曲家、セストなどの諸役が極め付きのように思い浮かぶ。配役と直にイメージが結びつく意味でも稀有の歌手かもしれない。ボーイッシュな外観もあったことから、舞台や映像で体験すると、彼女がその役の定番として、すり込まれてしまう。一方、CDで歌声だけ聴いても、彼女の声は強くて耳に心にビンビンと届いてくる。後輩のアンネ・ゾフィー・オッターが同じようなレパートリーだが、オッターはもっと淡白でアッサリ系。先輩クリスタ・ルートヴィヒは、広大なレパートリーに頭脳的なまでの適応力を持って取り組んだ、どちらかといえばドマラマティコ系。そしてファスベンダーの表現はドラマティックであると同時に、非常に濃厚で陰影に富んだものである。
困ったときには