絵画表現研究室 内海信彦
本講座は、絵画表現の現代的な可能性をともに探求し、現代美術を僭称する軽薄短小な商業美術に抗して、歴史意識を持つ主体を対象とする。矮小なアマチュアリズムを廃し、本講座では作家活動を持続する意思を育んでゆく。
20 世紀芸術は美術の歴史性と社会性を解体し、美術の霊性を喪失させて惨憺たる終焉を迎えた。9・11以後も時代に応えることもできない燃えないゴミ化した美術が産み出されてきたが、ギャンブル経済とマネーテロによって強欲資本主義の終焉が加速されアメリカ経済の破綻と金融資本の崩壊とともに 20 世紀の解体が始まった。これはアメリカ文化一元主義の終わりの始まりであり、失われた40年が幕を閉じて新たな現代芸術の変革期が訪れたのだ。
アメリカに追従しコロニアルアートとして商人に育成されてきた国産似非現代美術の終わりは近い。美術に寄生する走狗たちの周章した醜態を見よ。国家破綻を目前にした美術官僚の不能を笑え。アカデミズムを自称する下流化大学の無内容に戦慄せよ。
わたしたちが直面する絵画の危機は、実に深い。だが、まだあきらめるわけにいかない。再度、絵画の必然性を人類史の初源に遡り、絵画の科学としての深遠さを学習し、絵画の思想表現としての能力を回復させよう。人間存在としての目的を喪失して絵画技術を自己目的化したり、魂の力を鍛錬することなく芸術を妄想することは、もうやめにしよう。創造し、制作するものにとって、作品が秀逸であることをめざさねばならないが、同時にその作品が、しっかりとした理論と展望に裏打ちされていなければならないだろう。終末に近づいたこの国で、これはすでに、もうひとつのレジスタンス活動なのかもしれない。
講 座は、講義、演習、制作、発表の4つで構成される。最短 2 年間の在籍を求めたい。前半5〜7月は講義と基本演習を中心におこなう。講義では、作家活動を持続し、国際的な活動を展開する上で求められる、歴史的認識と理論的構想力を高めることをめざす。研究室ではサンプリングを重ねることで、抑圧的な恐怖観念から自己を解放することをめざしたい。文章表現、写真、映像などもあわせて試みる。
2004、2005 の夏は、アメリカ、ニューメキシコのタオスでのネィティブアメリカンとのワークショップを行い、2006 年はフランス、スイス、スペイン、2007 年はアメリカ東海岸、2008 年はドイツ、ポーランドでワークショップを行った。本年はドイツ、ギリシャ、イタリアで予定している。後半9〜12月は実作を基軸にしつつ、表現の可能性を確実にしたい。
また、作家としての問題意識を深めるための講義を平行しておこなう。1〜3月は制作に専念しながら、作家活動のプロセスと、発表の方法論を学びたい。こうして制作した作品を4月に発表する。個展開催も同時に行なう。さらに多様な特別講師を招き、講義を発展させたい。
教場は神田にとどまらず、内海スタジオでの合宿において常時制作を基本にする。
内海信彦