4世紀のギリシア教父ニュッサの司教グレゴリオス(ca.335〜395?)のコミュニティーです。
カッパドキアの三教父(他に、ナジアンゾスのグレゴリオス、バシレイオス)の一人です。尚バシレイオスはニュッサのグレゴリオスの実兄にあたります。
《思想》
神へと向かう動的存在である人間のエネルゲイア(働き)のことをエペクタシスという言葉として位置づけたのはおそらく彼であろうと思われます。(神へと向かう不断の運動とも解される)
またその壮大な神理解、神認識を知ることにより、カトリシズムの源流へと遡ることができるでありましょう。源流として、大いにアレキサンドリアのクレメンス、オリゲネスから示唆を受けています。「エウノミオス」論駁など、ポレーミック(論争的)著述も見られます。
また「モーセの生涯」ではそのエペクタシス論が展開されます。
教義学的著作:
『エウノミオス反駁』(Contra Eunomium)全12巻
『アポリナリオス反駁』(Adversus Apollinarem ad Theophilum episcopum Alexandrium)
『プネウマトマコイ(魂中心主義者)つまりマケドニオス派反駁』(De spiritu sancto contra Macedonianosu)
『教理大講和』(Oratio catechetuca magna)
『聖三位一体』(Ad Eustathium de trinitate)
『三神が存在するのではないこと』(Ad Abrabium quod non sint tres dii)
『普遍的に承認されている理性の真理性に基づいて、ギリシア人への反駁』(Adversus Greacos ex communibus notionibus)
『父・子・聖霊の信仰』(De fide ad Simplicuim)
『魂と復活』(De anima et resurrectione):兄を失い、また姉まで死のとこにある状況から書かれている。
『運命反駁』(Contra fatum)
『早世した幼子』(De Infantibus):早世した幼子は天国にいけるのか?いけるのだったら、われわれが徳を積み上げることに意味はあるのか、と問いかける。
修道的著作
『処女』(De virginitate)
『マクリナの生涯』(De vita Macrinae)姉マクリナの生涯
釈義的著作
『人間の創造』(De hominis opificio)
『六日の業についての弁証論的注釈(へクサメロン)』(Explicatio apologetica in Hexaemeron)
『モーセの生涯』(De vita Moysis):エペクタシス論を展開する。
『エンドルの魔女』(De Pythonissa)
『詩篇の表題』(In Psalmorum inscriptiones)
《研究史》
このたび日本においてもグレゴリオスの研究が盛んになってきました。
欧米では、教会史家やグノーシス主義研究者らにより主にフランスとドイツでおおいに研究され続けてきました。特にプラトン主義の思想の受容の観点から研究されてきました。
フランス語では、ジャン・ダニエルー(Jean Danielou)、ハンス・ウルリヒ・フォン・バルタザール(Barthasar)
ドイツ語では、ディカンプ(Diekamp)、ミューレンベルク(Muehlenberg)、フェルカー(Voelker)、イヴァンカ(Ivanka)
英語では、ファーガソン(Ferguson)などの研究者が代表的です。
(尚、フランスとドイツでは研究史を巡る対立が起こっていた。)
その他弱冠のイタリア語、オランダ語の研究論文があります。
(オランダ語の大著『グレゴリオスの人間学』De Anthropologie van Gregorius van Nyssa,を書いたデ・ボーア(De Boer)は有名です。英訳のサマリーがついています。)
そしてまた、東方正教の礎を築いた大思想家として注目され続けています。
特にJ.ペリカンやオリヴィエ・クレマンやロースキィーなどの正教の研究者によってもおおいに取り上げられました。
カトリック教義学者のカール・ラーナーやハンス・キュンクなどもその思想的重要性を自らの著で説明しております。
日本においては宮本久雄、水垣渉、谷隆一郎、大森正樹、秋山学、土井健司らの本格的研究書が刊行され、書店でも手に入るようになりました。
こうしてオリゲネスとアウグスティヌスに並ぶ勢いで、活発に研究され続けています。
昨今ドイツ語で新たな研究書が刊行されました(Ethik und Christliche Identitaet bei Gregor von Nyssa, Sandra Leuenberger Wegner, Siebeck.2008)
また、前世紀よりギリシア思想の大家イエーガーによって集められた、写本を厳密に査定し全集が刊行され、GNOにまとめられました。(Gregorii Nyuseni Opera)
その他ミーニュ版ギリシア教父著作集(Patorologia Greaca)にて読むことができます。
日本語で読めるもの
篠崎榮訳『教理大講和』平凡社、秋山学訳『人間創造論』平凡社、谷隆一郎訳『モーセの生涯』教文館(部分訳)、大森正樹訳『雅歌講和』新世社、宮本久雄訳『雅歌講和』平凡社
(尚平凡社は『中世思想原典集成』で、教文館は『キリスト教神秘主義著作集』である。)
また、そのほかに、土井健司訳『司教と貧者-ニュッサのグレゴリオスの説教を読む』(新教出版社、2007)で3つの説教が収められています。
「施し」、「『説教これらの一人にしたことは私にしたこと』について」、「高利貸し論駁」。そして、訳者の詳細な解説が付されています。
尚、英語、ドイツ語、フランス語でも多く読むことができます。
英語:Nicene and Post-Nicene Fathers,Grand Rapids,Michigan(対訳なし)
フランス語:Sources Chretiennes(ギリシア語とフランス語の対訳)
ドイツ語:Fontes Christiani(ギリシア語とドイツ語の対訳)
管理人は今、早世した幼子を訳しています。
ゆくゆく全訳をアップしていく次第です。
どうぞ多くの人がこのコミュニティーに来てくださり、そしてキリスト教の草創期の思想に触れていただきたく存じます。
よろしくお願いします。管理人より。