鄭蘋茹-テン・ピンルー

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詳細 2022年8月31日 21:09更新: ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

抗日組織『藍衣社』の女スパイ－鄭蘋茹(テン・ピンルー)

1918年(一説には1914年ともいわれる)生まれの日中混血の美しい中国人女性。兄と姉、弟と妹の5人兄弟の次女。彼女の父鄭鉞（テン･エツ）は清時代末期に日本に留学し、明治維新を成功させた日本に学び、新しい中国の国作りに燃えていた。彼はやがてピンルーの母となる木村花子という日本女性と知り合い結婚。東京に本拠を置き孫文の流れをくむ「同盟会」という中国人組織に入り、勉学のかたわら民主化運動に従事することになる。

明朗活発なピンルーであったが、反日精神の強い時代の中国社会の中で、中国と日本との混血であるピンルーは級友から陰湿ないじめを受け学校を退学。上海のフランス租界にあるダンスホールなどで人脈を作り、次第に社交界に入りこむようになった。そこで国民党の中央執行委員会調査統計局の上海方面の責任者、陳恭樹と知り合う。日本語を流暢にあやつり日本人の人脈と情報を持つピンルーは陳から重宝がられ、いつしか情報料をもらうようになり知らずのうちにスパイへの才能を開花させていった。そう、この男こそがピンルーを冷酷な女スパイへと作り上げていった張本人なのだ。

その後彼女は蒋介石政権の特務機関である藍衣社の一員となりその美貌で幾人もの男を手玉にとり確実に任務をこなしていった。
そして最大の命令が下されることになる。
藍衣社つぶしのために日本軍が作った地下組織「ジェスフィールド76号」の親玉である丁黙邨（ティンモートン）の暗殺であった。

ピンルーは偶然を装い丁黙邨と街角で再会。丁黙邨はピンルーが民光中学（高校）に通っている時にたまたまそこの校長を勤めており、顔見知りだったのだ。
黙邨はピンルーの誘いにまんまと掛かり、愛人となった彼女に自分の秘書の肩書きを与え、76号内への出入りを許した。

そして運命の１２月２１日－
藍衣社の暗殺部隊は静安寺路のシベリア毛皮店近くに待機していた。ピンルーの役割は黙邨をこの店に連れて行き、暗殺部隊の目の前に丁黙邨をさらすことである。
「クリスマスプレゼントが欲しい」とねだるピンルー。そして二人は例の店まで車で向っていた。店に着き、好きなものを選ぶように言ってお金を渡した黙邨は彼女を店に残して車に戻る。何も知らない黙邨に向かって手を振るピンルー。と、その瞬間、車に向かって銃弾が次々と撃ち込まれたのだった。丁黙邨はからくも現場から脱出した－そう、暗殺は見事に失敗したのだ・・・。

ピンルーはジェスフィールド76号に監禁された。76号の中での扱いは柔らかく、汪精衛側に付かせて利用できないか検討していた。しかしピンルーを汪精衛側に付かせるのは無理だという判断が下された。ピンルーの再犯を恐れていた汪精衛側はもはや彼女を処刑するよりほか仕方なかった。

1940年2月1日、処刑が決まるとピンルーを抵抗なく連れ出す口実として映画を見に行く話を持ち出した。ピンルーは黙邨が許してくれたのだと思い久々の外出ということでおしゃれをし化粧をして嬉々と車に乗り込んだ。しかし南京路を過ぎても車は止らず映画館のある繁華街から遠ざかっていった。次第に荒涼とした郊外へと景色が移ってゆく。はめられたと悟ったピンルーは車内で泣きながら抗議をするが受け入れられるはずもなかった。次第に刑場が近づいてきた。数々の大物男を籠絡してきたピンルーも22歳(一説では26歳)のうら若き女性－死の覚悟はまだできていなかった。。

やがて観念したのか刑場で静かにひざまずくピンルー。宣告文が読まれ後頭部に銃が突きつけられた。眼前には自分が落ち込むであろう四角い壕が大きく口を開けている。

「私は中国人として　悪いことをしたのでしょうか」

彼女は最後まで、自分が何者だったのか、何のために生まれてきたのか分からなかったのであろう。しかし自分は中国人でありたい－そのためにここまで利用し利用されてきた。結局どちらの側にも正解を見つけられず、認められず短い生涯に幕を下ろした。

「顔は傷つけないでください」

日中混血とその美貌ゆえ、生涯を翻弄された鄭蘋茹の最期の言葉であった。