かつて、それは確かに存在した。
あの歌…、戦慄すべき旋律、色んな液が…、そう、体液の混ざったものが目一杯入ったペットボトルみたいな声で、喋んないように、とめどなく降り続ける雨のように、空(クー)を撃ち、この地上を撃ち続けた奇妙な言葉(そう、まさに、雨に撃たえば…! 硝煙につつまれて、水滴は広角レンズ…!)、その感性、その姿勢、その存在自体に対する共感? 共鳴? 同化(どうかしてるよ…)? リアリティ? ファンタジー? マイノリティ? 思い入れ? 思い出? 思い込み? 重いゴミ? 拘泥? そんなんじゃないよ。熱狂? 終わらない今日? も?う?ど?う?し?よ?う?も?な?い?位?に?恋していた? …そのどれでもなくて、それら全部のようでもあり、全部足してもまだ足りない気もして…、やっぱり「それ」としかいいようのないもの、そんなおばけみたいに不確かなものが確かに存在した…。
…昔々のことです。あるところに(即興昔話)…、蜃気楼から蜃気楼、何もない砂漠を何万キロ? 決して立ち止まることなく歩き続ける旅人がいました。
その涙目は、いろんなものに対して開かれていて、キラキラ乱反射していました。底に映った「現実」は鈍色に色あせながら、その歪んだフィルターを通して初めて唯一の本物の「幻実」になりました。
「おまえは鳥じゃない。…僕もね、鳥じゃない。」と分かっていながら、それでもニセモノの天使の羽根をばたつかせ、もがき羽ばたき続け…そしてとうとう旅人はありふれた、ありえない天国にたどり着いたのです…、めでたし、めでたし。
けれど、お話はそこで終わらなかった。
詩的ではなくごく私的な、知的ではなくただ痴的な、素敵な幻実を乗り越え、「現実」へと帰還した七尾旅人は、不自然から産み捨てられ、掃き溜めから飛び立った戦闘機を乗り捨てて、ボーイング何型とかF15とか、音よりも速いジェット機に乗り換えて、ありもしない天国のその上へ、なお上へ、飛んで行ってしまった…。
音楽を説明し、歌を弁護するために、一方的にお話を始める…。
音楽は奏でられ、歌われ、お話が誰かに聞き入れられ、受け取られたとき、その瞬間に、初めて生まれるものだと思います。僕らはいつもそんな瞬間に、ドキドキしながら立ち会っている…。ただの音や声や言葉に魔法がかかる、恋に落ちるような瞬間を。レコードが魔法のわっかなんじゃない。魔法をかけるのは僕たちで、レコードでもCDでも、なんでもそれと出会わなければ、それを自分自身でかけてみなければ、そんな瞬間は訪れない。
まるで、カミにでもなったかのように、カミのように薄っぺらく、大きくなり過ぎたガリバーみたいに、広い世界にその翼を広げるように、視野を拡大し、あらゆる物事を縮小して、そんな蜃気楼に安住し、ちっぽけな現実とやらを俯瞰して見下ろしている。…なあ…! おれらの間の、超微細な時差が、サビシサやカナシサやウレシサの…うっせぇな、うっせぇよ…と、そんなささいな差異を、まるでそんなもの初めから存在しなかったように、本当に踏み潰して、揉み消して、「灰、地〜図!」の合図とともに、過去現在未来が入り混じった色とりどりの混沌としたこの瞬間を、もっともらしい額縁の中に切り取ってしまう、新聞紙の政治経済欄みたいな、週刊誌のスクープみたいな白黒の世界地図、…ダッセエな(←とても悪い意味で)。
だが、彼が残していったその飛行機雲は、全部が全部というわけではないけれど、亡霊のように確かにまだ存在する。飛行機雲にとって、当の飛行機がどこへ飛んで行ったのか、それはどうでもいいことだ。迷い、ためらいながら蛇行し、レールをそれていくその「軌跡」は(♪まちがってる、ぼくはおおきくまちがってる、それてるそれてるそれてるそれてる…)、倒壊した高層ビルの瓦礫だらけの「遺跡」を飛び越えて、かけがえのない今日、世界の終わりすら焼き尽くす、まさに「奇跡」に変わる。わぁ。(驚きに満ちたちいさな悲鳴)
There is no ghost here...
There is no ghost here...
Everything is illusion...
Why don't you understand?...
正確無比な機械の声が、繰り返しそう言っても、そんなこと分かりたくもない。それはもう過ぎ去ったことだと、思い出の中にしまって、忘れてしまいたくはない。「それ」は確かに存在したというだけじゃなく、今もまだ存在するし、これからもきっと存在しうる。おばけは確かに存在する…。
だから、♪灯りを…そう、灯りを…そう、灯りを…そう、消そう。
何℃も何°も、オモヒデ オーヴァ ドライヴが再起動する…、そして僕らは何度もCDを再生する…、蘭曜日の昨日まで、オルゴールを巻き返す、キリキリとバネが弾けるまでまわす…、アルコールで巻き返す、ギリギリのバネが弾けるまでまわす…、過去にがんじがらめに縛られたボンデェジ・サイボーグ、鳴り止まない告白ヴォーグ、僕は機械だった…、思い知る、重い汁、溶けてこぼれる細防具で守り固めてボウギョしろ。
♪おれがね、守ってあげるよ、そのファンタジー、物語。だって、すごい。
今ここで(now here)、どこでもない場所で(nowhere)、沈没したはずの幽霊船が浮かび上がる…、集まれ、さまようおばけたち。全ての君のとなりの部屋で、僕らだけのパーティーをやろうよ! …ひざこぞうがくだけちる瞬間に。ぼくたちはとてもうざい。
『僕たちは…』トウメイな存在!?
好都合じゃないか…
肯定→浸入→ひたせ…!
ああ…優しい涙目で見透かせ。
ヒョウメンチョウリョクで留まるそいつは
全ての時と場所をえぐりとるだろう。
レンズ レンズ レンズ