「どうしても…行くのね」
瞳を潤ませながら女は言った。
その言葉に男は立ち止まり、背を向けたまま言った。
「やらなきゃいけないことがあるから」
わざと冷たい言い方をしていることに女は気付いていた。
それがこの男の優しさだということを。
「帰ってくる?」
そんなことは誰にも分からないことも女は知っていた。
愚劣、過失、貪欲が住みつく地獄のような戦場に、
男は旅立たなくてはならない。
百千の、億兆の苦難が男を待ち構えていることだろう。
「ンフー・。・」
そう言って、男は港を出たのだった。
トンブリに乗って、バイエルンの護衛を引き連れて。
困ったときには