今から12年前、日大相撲部から3人の若者が大相撲入りした。1人は野球賭博問題で角界を去った元大関・琴光喜。1人は幕内の人気者、高見盛。そしてもう1人が西幕下10枚目で、約6年半の苦闘を乗り越え再十両を目指している浜錦(追手風部屋)だ。技量審査場所(東京・両国国技館)9日目の16日に勝ち越し、十両昇進に大きく前進した。再十両が決まれば所要38場所のカムバックで、昭和以降では最長記録となる。幕内経験もある34歳は「地道に我慢してやれば報われる姿を見せたい」と意気込む。
16日の五番相撲は日体大時代に国体を制した妙義龍を右下手から転がした。
浜錦は熊本県出身。入門会見は同期3人で行った。「そんな時代もあったね」と懐かしむ。99年春場所、幕下最後位付け出しで初土俵を踏み、順調に出世。翌年名古屋場所で新十両、01年夏場所に新入幕。幕内を7場所務めた。
その後、十両と幕下を往復しながら再浮上を目指していたが、03年名古屋場所で右膝を故障し、05年初場所からは幕下に低迷。さらに06年秋に腰椎(ようつい)ヘルニアになり、07年初場所には三段目まで転落した。大学卒業時には電力会社に内定しながら、大相撲へ就職先を変更しただけに、「道を誤ったかなと思うこともあった」。腰の痛みは、一時は日常生活にも不自由するほどで、今でも湿気の多い日にはうずくが、相性の良い医師に出会ったことで、戦える体に戻った。
今回の八百長問題では日大の後輩力士4人が追放された。「先輩という立場からも懸命な姿を見せなければ」と使命感にかられている。
高見盛とは今でも食事をする仲。「土俵を降りれば同級生。セイケン(高見盛の本名・加藤精彦=せいけん)も昔と変わらない」。9年前には幕内で当たったこともある2人。再び土俵上でぶつかる日が来ることを願っている。
【2011/5/17 毎日新聞夕刊より抜粋】