我を知らずや其の昔、葛城山に年経りし、
土蜘蛛の精魂なり。
此の日の本に天照らす、伊勢の神風吹かざらば、
我が眷族の蜘蛛群がり、六十余州へ巣を張りて、
疾くに魔界となさんもの。
汝知らずや、我れ昔、
葛城山に年を経し、土蜘の精魂なり。
なお君が代に障りをなさんと、頼光に近づき奉れば、
却って命を絶たんとや
土蜘蛛とは古代日本における、天皇への恭順を表明しない土着の部族の豪傑・首長などに対する蔑称。陸奥、越後、常陸、摂津、豊後、肥前等、各国の風土記等で頻繁に用いられている。
古代,ヤマト王権の勢力に従わない在地土着の首長ないし集団を呼んだ名称。土雲とも書く。
その内容については土窟に住む農民説,蝦夷説,国津神説,などの諸説がある。土蜘蛛の所伝は大和をはじめ,東は陸奥から西は日向におよぶ広範囲にみられ,ヤマト王権の征討伝承の中に抵抗する凶賊として登場し,土窟に穴居して未開の生活を営み,凶暴であるとして異民族視されている。
征討伝承は《古事記》《日本書紀》にあり,常陸,豊後,肥前の各風土記や摂津,越後,肥後,日向諸国の同逸文にも各地土着の土蜘蛛の記事がみえる。《日本書紀》神武即位前紀は土蜘蛛の身が短く手足が長いとしており,同景行紀では石窟に住み皇命に従わなかったとある。また《常陸国風土記》は土窟に穴居したとし,《摂津国風土記逸文》にもつねに穴居することから土蜘蛛と賤称したとする。
各地の土蜘蛛。
肥前。
大山田女、狭山田女、打猴(うちさる)、頸猴(うなさる)、海松橿姫(みるかしひめ)、大身、大耳、垂耳(たりみみ) 、八十女(やそめ) 、大白、中白(なかしろ)、小白(おしろ) 、速来津姫、浮穴沫姫(うきあなわひめ)、鬱比表麻呂(うつひおまろ)。
豊後。
五馬姫(いつまひめ)、打猴(うちさる)、八田(やた)、國摩侶、土蜘蛛の賊(あた)、小竹鹿奥(しのかおさ)、小竹鹿臣(しのかおみ)、青、白。
大和。
新城戸畔(にきとべ)、居勢祝(こせのはふり)、猪祝(いのはふり)、八十梟師(やそたける)。
常陸。
國巣。
陸奥。
黒鷲、神衣姫(かむみぞひめ)、草野灰(かやのはい)、保々吉灰(ほほきはい)、阿邪爾那姫(あざになひめ)、栲猪(たくい)、神石萱(かむいしかや)、狭礒名(さしな)。
奈良の高天彦神社ちかくの蜘蛛窟、一言主神社境内の蜘蛛塚なども参考にされたし。
古代日本を語る上で外すことはできない重要項であることは間違いない。
時代を経るに随って、土蜘蛛は妖怪と見なされるようになり。、14世紀の「土蜘蛛草子」では、大蜘蛛の怪物として登場し、源頼光と渡辺綱によって退治されている。
参考文献
『平凡社世界大百科事典』
各地『風土記』
『日本書紀』