ブラジルのアウグスト・ボアールが1970年代に始めた、社会変革や個人のエンパワメント(様々な力を引き出す)のために演劇を活用する手法。
主な手法は3つ。
・フォーラム・シアター(討論劇)
?観客の共感を呼ぶような問題を描いた劇を用意する。
劇はハッピーエンドではなく、問題が未解決のまま終わってしまうようにする
?観客に対して1度目の上演。
「あなたなら登場人物の代わりに、どう行動するのか?」・・・ということを、考えながら観てもらう。
?2度目の上演。
「登場人物の代わりに、私ならこうする!」というアイデアがある観客は、手を上げて、劇を途中で止めることができる。
手を上げた観客は舞台に上がって、登場人物に成り代わり、自分のアイデアを試す。
周りの役者は即興で対応する。
どうすれば問題が少しでもマシになるのか、あるいはひどくなるのか、観客たちは試行錯誤することを通して問題解決の糸口を探っていく。
・見えない演劇
街角や電車の中やお店の中など、様々な人々が集まる空間で、役者たちが即興的な芝居を繰り広げる。
その場に居合わせた人々を、それが演劇だとは気づかれないままに巻き込み、社会的な問題について考えるように仕向ける。
・イメージ・シアター(人間彫刻)
人間の身体を使って、彫刻のようにポーズを取る。それが人間彫刻。
複数の人間彫刻を組み合わせれば、止まった状態の場面が表現できる。
そんな人間彫刻を活用して、
?「問題」が起こっている場面
?問題が解決した「理想」の場面
?問題が解決に向かうためにはどんなことが起きる必要があるのか・・・という「過程」の場面
といった場面を表現することを通して、問題に対する理解を深めていきます。
止まった状態の彫刻に、少しずつ感じていることを言葉にしてもらったり、どう行動したいのかという動きを加えてもらうことで、場面展開させていくことも行なわれます。
イメージ・シアターを応用したものとして個人の内面を表現するような次のような手法もあります。もともと社会変革を目指してスタートした「被抑圧者の演劇」ですが、セラピーに近い部分も出てきています。「個人的な問題は社会的な問題とつながっている」という前提で、個人的な問題解決のサポートも行なわれています。
・「欲望の虹」
個人の中には、「こうなってほしい」という欲望や、「こうなってほしくない」という恐れが、複数同時に存在することがよくあります。
個人が問題に直面したときに、内面に存在するそんな複数の欲望や恐れを、人間彫刻として表現し、様々な手法で場面展開させることで、問題解決に役立てます。
・「頭の中の警官」
「ああしなさい」「こうするべきだ」「あれはしてはいけない」という様々な指示や禁止の声が、いつの間にか個人の中に内面化されて、その人の行動を縛っていることがよくあります。
そんな「声」を人間彫刻として表現することで、自分の内面の声に気づき、問題解決に役立てます。
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これらの手法は、演劇とは普段縁のない人にも活用してもらえるように工夫されています。
普段演劇に縁のない人が、いきなりこのような手法についてくるのは難しいので、徐々になじめるように工夫された、身体を動かしてコミュニケーションを深めるゲームの数々が工夫されています。
それらのゲームは交流を深め、知らず知らずのうちに身体で表現することになじめるようになっている楽しいものです。
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現在「被抑圧者の演劇」は世界の様々な国々で実践されています。
「フォーラム・シアター」をTV中継して視聴者参加型にしたり、WEB中継して世界中から参加できるようにしたり・・・という試みもされています。
議会や行政と連携して「フォーラム・シアター」を行なうことで、そこで観客から提示された解決策を、実際の法律や社会制度を変える試みも広がっています。
このように、非常に楽しいものでありながら、社会を変える大きな可能性を持った手法です。
(写真は創始者アウグスト・ボアールと管理人です)