『1475年、メーゲンベルク「自然の書」にはヨーロッパではギリシャ以来インド地方には様々な怪物がいるとされ、その観念は十八世紀まで続いた。そこには、コロンブスの大西洋横断航海前夜のヨーロッパにおける異人観、異郷観が存在していた事が歴然とうかがわれる。ユネスコの調査では少なくともこの十年以内に地球上に存在する五千の言語が消滅すると警告を発している。コロンブスの新大陸の発見以来、人類は急激な勢いで民族の交流、混交を繰り返す事になる。その結果、多くの固有文化が消滅して行った。この状況はもはや止める事は出来ないだろう。
この十年間、私は写真という記録を撮る事にとり付かれていた。人間の肉体の中で最も神秘な部分は顔ではないだろうか?正確には顔の筋肉が作り出す無限の風景。人間の顔の表情は数学や科学では永遠に解析できないだろう。私は世界の辺境と呼ばれる地域で肖像写真を撮り続けた。私が何故このようなポートレートに執着するのか良く理解できなかった。ただ彼等の顔を見る時、私の中の何かが私自身を動揺させた。シャッターを切る瞬間、私は彼等が持っている或る重要な何かを傷つけているような気がした。彼等が近代化という無差別な潮流に流される時、彼等の肖像は消えてゆく。彼等の顔の中に映っているのは彼等の言葉であり、彼等の文化そのものだった。彼等の顔に遭遇する時、私は私自身の危うさを感じない訳には行かなかった。彼等のポートレートが我々に語りかけている現象は私達自身の問題でもあるかもしれない』
Hibiki Kobayashi