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オリジナル小説を目指せ!コミュの魔法の鏡 作/ショウセイ

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 鏡よ、鏡、世界で一番美しいのはだぁれ?
 それは白雪姫です。
 怒った継母は白雪姫を殺そうと何度も企みます。
 しかし、全て失敗に終わり、白雪姫は王子様に助けられ幸せになりました。継母は白雪姫と王子の結婚式で真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされてしまいました。
 
***
 
 彼とケンカした私はムシャクシャした気持ちで歩いていた。最近、彼とはうまくいかない。私が会いたいといえば我が儘ばかり言うなと怒る。昔はケンカをしてもすぐに仲直りしたのに、今では2,3日連絡を取らないことも多くなった。
 ふと、私はある店の前に立ち止まった。店は質屋で、ショーウインドウに不思議な鏡が飾ってあった。大きさは首から上が写る程度のごくありふれたもの。私は思わず足を止めて鏡を見つめた。勿論、見つめたところで写っているのは私自身でしかありえないのだけど、その鏡の装飾は変わっていた。縦長の楕円形、シンプルにあしらわれた蔦の装飾、そして下の部分にはなぜか鍵穴がついている。別に扉がついているという訳ではない。ただそこに鍵穴が存在し、その穴は上が丸で下が縦長の長方形というありきたりのものだった。値札を見ると5,000円とある。古ぼけた鏡が5,000円。見るだけならいいか、と思ってふと店まわりを見てみる。古ぼけた看板には「質屋 博識堂」と書いてある。よくみるとショーウインドウ以外は古ぼけた日本家屋で、周りのアパートやらマンション、ビルに囲まれたこの店は明らかに異質だった。気が引けたけれど、特に用もない私は思いきって古びたガラス扉を開けた。いや、惹きつけられたといっていいかも知れない。
 
 店の中は想像していた感じとは違った。てっきり店の佇まいと同じように、ドラマに出てくるみたいにあちこちに得体の知れないものが置いてあると思ったのだ。ガラス棚にきちんと並べられた時計やカメラ、ラックにはオーディオやテレビ、電話などが置かれていた。そして天井からはギターがぶら下がっている。出入口の正面にはガラス棚とレジが置いてあり、頭が丸坊主で丸眼鏡をかけた老人が椅子に背を持たれて、口を半開きにして眠っていた。なんとも間抜けな寝顔だけれど、変に気を遣われるよりはマシだった。
 数々の商品は思ったよりも安かった。ざっと見た感じでも、一番高い品物がブランド品の財布が2万円。恐らく他の質屋なら倍はするはずだ。もしかしたら、ここで寝ている老人はそれほどブランドに詳しくは無いのかも知れない。
 ショーウィンドウに置いてある鏡の裏側を見ると、何か文字が彫ってある。
「その鏡に興味があるかね」背後から不意に声がして、私は心臓が止るほど驚いて振り返った。
「あ、お、起きていらしたんですか、すみません。勝手に見てしまって・・・」私は何を言っていいかわからずに謝った。
「いや、商品だから好きにみてくれてかまわんよ」
「あ、はい」私は文字を再び見た。英語だった。
 
 It is to know oneself to know the truth.
 However, the truth is feared.
 Fear always uncovers the real intention.
 
 なんて書いてあるのかはわからない。英語が読めるほど、勉強した覚えはなかった。
「そこにはこう書いてある」老人はいつの間にか、私の隣に立っていた。さっき、口を開けて寝ていた時の印象からは程遠く、がっちりとした体つきとよく通る声は嫌みがなかった。
「“真実を知る事は己を知る事だ。しかし、真実は恐怖にもなる。恐怖は常に本心を暴く。”」
 いまいち、わかりそうでわからない言葉だった。恐怖は常に本心を暴く?自分の心は自分にしかわからないじゃない。
「この鏡についている鍵穴には意味があるんですか?」私は思いきって尋ねてみた。老人は目だけを動かして私を見つめたあと、レジに戻ると手に1本の鍵を持ってきた。
「これが鍵だ。鏡に自分の知りたいこと、そうだな、例えば好きな人間の本心を知りたいと願いながら鍵をまわすとそれが見ることが出来る。わしは試したことがないがね」
「人の心の中を見ることができるんですか?」私は驚いた。あり得ないことだけど、なんとなくそうかもしれないと思わせる雰囲気がこの鏡にはあった。
「そういう話があるというだけだよ。言ったとおり、わしは試したことがないので、本当のところはわからん。書かれている英語の意味も気になるのでね、どうかね、試してみては?」
 私はその言葉に心が揺れ動いた。誰かの心の中を見ることが出来る・・・その話が本当なら、私は恋人の心の中を見たい。もし、彼の心が私から離れているのなら、踏ん切りがつくというもの。心臓の鼓動が早まりながら、私は老人に言った。
「ください」と一言。
 
***
 
 部屋に戻り、決して安くはないその鏡を部屋の壁に立てかけた。老人が言うことが本当なら・・・額に汗が流れ、手は震えた。
 あの人の心が知りたい。本当のことが知りたい。震える手で鍵を差す。
 後悔するかもしれない。でも、私は彼がどんなに冷たくしようと、まだ修復できると思っていた。本当はそんなこと、もう無理かもしれないという絶望が心のどこかにありながらも。だけど、ケンカばかりして会うこともなくなるようなつまらない関係を引きずり続けるくらないなら、例え心の闇を覗いても決着をつけるべきなんだ。
 思い切って鍵をまわす。
 彼の心の中は、どうなっているのかと願って。
 
 洗面台に向かって吐いた。何度も吐いた。胃液が逆流し、喉を焼いても吐き気は一向に収まらない。彼の心の中は違う女を見ていた。それも私の親友だ。心は記憶そのもので、彼女とのデートやセックスまで全てが鏡に映った。リアル過ぎてどうしようもない。親友は私を馬鹿にしていた。
 あんなつまんない女、早く別れちゃいなよ。
 俺もそうしたいんだけどさ、あいつストーカーになりそうで怖いじゃん。
 言えてる〜。
 
 ひどい頭痛と焼けた喉、シャワーを浴びて何度もうがいした。それでも、腹の中からわき上がる憎悪は決して薄まらず、それはますます大きくなっていた。
 シャワーを浴び終えて、髪の毛を乾かさずにベッドに倒れ込んだ。壁に立てかけられた鏡を見る気にはなれなかったけど、ある気配に気が付いた。
 鏡だ、あの鏡にまたなにか写っている!
 フラフラな頭を支えてベッドから起きあがり、鏡を見つめた。
 黒く渦巻くそれは何かわからない。だけどそこに写ったのは紛れもなく、彼と彼女を見つめている何かで、2人はこちらを見て後ずさりしながら倒れ込んでいく。その恐怖に引きつった顔が私にはたまらなく快感だった。
 憎悪は快感に変っていく。
 憎悪は快感に変っていく。
 憎悪は快感に変っていく。
 
***
 
 世の中には知らなくていいことがたくさんある。
 白雪姫の継母は鏡になんか問いかけるべきじゃなかったのだ。
 そうすれば、自分が美しいと思いこんだまま幸せに暮らせたかもしれないのに。
 私は冷たく固いベッドに腰掛け、コンクリートの壁に向かいながら、鏡の裏に書いてあった言葉を思いだした。
 
 恐怖は常に本心を暴く、と・・・。


***

ちょっとホラーテイストにしてみました。
http://www.geocities.jp/bebopstyle20/

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