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怖い話スキーコミュの踊る指先

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雨の国道を、私はヘッドライトの光を追い越す勢いで飛ばした。
大きな仕事がようやくまとまり、同僚と打ち上げの飲み会の帰りだった。
この仕事が終れば、会社の借金も一息付けるほどの利益があがると思うと、私は気分よくちょうど金曜日だった事もあり、同僚に付き合って4次会まで飲み続けたのだった。
 時計はすでに午前2時を回っている。

酔いがかなり回っているが、この時間帯なら片道2車線の国道に他の車はほとんどいない。
スピード違反も飲酒運転の検問もないだろう。
アルコールのせいで眠気が襲ってくるたびに、私はガムを噛んだり煙草を吸ったりしては、その本能的な誘惑を押し返した。ラジオからは深夜放送のお笑いタレントが下品なギャグを連発している。おもしろくもないが、とにかく人のしゃべる声を聴いているのは、眠気覚ましにはなる。濡れたアスファルトに写る信号機は、もう黄色の点滅に変わっているので、信号につかまることもない。
 別に誰がまっている訳でもない気ままな一人暮しだったが、それでもとにかく、一刻も早くアパートに帰って、ベッドに身を投げ出したかった。



 大きくカーブした道路に沿って向こうの信号機に視線をやり、やはり黄色の点滅だなと思った瞬間、突然私の目の前に黄色の物体が現れ、同時にドンと鈍い音と共に車に強い衝撃を感じた。


「しまったっ! やったかっ。」


 人をはねたのは明らかだった。
私は急ブレーキで車を止めると、おそるおそるバックミラーに視線を移した。
雨で良く見えなかったがそこは横断歩道で、明らかに人間と分かる黄色い物体が、道路の上に不自然な形で横たわっていた。
私は車から出ると、足に震えを覚えながら横断歩道に横たわる黄色いレインコートに近づいた。
酔いはいっぺんに覚めていた。


 横たわっていたのは髪の長い若い女性だった。
呼吸をしている様子はない。足は不自然な形に折れ曲がり、体は上を向いているが、顔はほぼ道路に伏せたように真下を向いている。
おそらく、顔は原形を留めてはいないだろう。その体は到底人間のとれる姿勢では無い。
かなりひどいダメージがあったに違いない。
車はかなりのスピードを出していたから、それも当然に思えた。
 地面に突っ伏した顔の下から、おびただしい血が雨の中に流れだし、側溝に流れこんでいる。
長い髪がまるで扇を広げたように道路に広がって、雨水の流れに沿ってうねり、その髪の中から黒く光る血が後から後から溢れ出していた。
遠くの黄色い信号の点滅が、その異様な光景を浮かび上がらせていた。


 私は雨にうたれながらも、自分でも驚くほど冷静だった。
近所に民家は無い。
通りすぎた車も無い。
私は車に戻ると、車の傷を調べた。
ボンネットにもフロントガラスにも幸い事故の痕跡は無かった。
おそらくバンパーで跳ね飛ばされてガードレールに叩き付けられあのような不自然な形になったのだろう。バンパーがかなりにへこんでいるが、これなら電柱にでもぶつければカモフラージュできる・・・。



 その時私の中で、悪魔の声が聞えた気がした。


 万が一発覚した場合でも、横断歩道上での事故とそうでないのとでは、罪の重さがはるかに違う。
私は彼女の所へ戻ると、その死体を見ないように目をそむけながら、そのゆがんだ両足を持ち横断歩道から離れた場所へズルズルとその体を引きずって行った。
彼女は、体はあお向けになっているのに、顔だけが下を向いているのでちょうど彼女の顔をアスファルトにズルズルとこすり付けるような形になった。哀れに思えたが、到底原形を留めていないであろうその顔を上に向けて、その顔を見ながらは到底できない作業だった。
体を引きずった後には、どす黒い血がまるで道路に線を引くように残り、雨がそれを押し流していた。
いずれこの血もすべて雨で流されるだろう。


と、突然その黄色いレインコートの両腕がバネ仕掛けの人形のように真上にピンと伸びた。


「うわっ」


 てっきり死んでいるものとばかり思っていた私は、思わず声をあげると、両足を放り出して後ろに飛びのいた。
その両腕はまっすぐに天に向かい、白くボンヤリと雨の中に浮かび上がる濡れた手が奇妙な形で動いている。
まるで踊っているかのように、その手は奇妙な動きを続けた。そのあまりに不気味な情景に私は、恐怖で体を動かす事もできず、雨に打たれながら、その両手の動きを凝視していた。
 真っ白な両手は何度も何度も、同じ動きを繰り返していたが、やがて力尽きたのか徐々に動きを止めると、その両腕はアスファルトの上にバタリと落ちた。
そしてそのまままるで作り物の人形のように全く動かなくなった。
 私はびしょ濡れのまま車のシートに飛び乗ると、急いで車を発車させた。
そして車を首都高速に向け、わざと遠回りしてからアパートに向かった。
やがてアパートの近くの人通りの無い道に入ると、私はわざとパンパーの傷の部分を電柱にぶつけた。
グシャッとやけに大きな音がしたが、雨音にかき消されたせいかどの窓も明かりが点く気配は無い。
それからアパートの駐車場へと、私は静かに車を入れた。





 眩しい光で私は薄く目を開けた。
激しい頭痛と喉の乾きでそれ以上眠りを続ける事ができなかった。
私は上半身を起こすとベッドに腰掛けた。上半身はYシャツ、下半身は下着のままだった。
帰宅したあと、どうやら背広の上下だけを脱ぎ捨てそのままベッドに倒れこんだらしい。
玄関とベッドの間の床に、ぐっしょりと濡れた背広が貼りついている。


 台所で一気にコップの水を飲み干すと、私は昨夜の事を思い出した。
あれは夢だったのだろうか?それとも実際に起こった事なのだろうか?
頭痛が激しく、意識どうもがハッキリしない。
時計を見るとすでに10時を回っている。
私は玄関で朝刊を取ると居間のソファーに腰掛けテレビのスイッチを入れた。新聞を広げ、ざっとみた限りでは、特に人身事故の記事は無い。


「やはり夢だったのか・・」


考えてみると、死体の腕が踊り出すなどちょっと現実離れしている。しかしテレビのニュースが始まると、私の体は震え出した。確かに昨夜のあの横断歩道が、画面に写っていた。


「昨夜未明、○○区の女性会社員 ○○××さんが、帰宅途中に何者かにひき逃げされた模 様です。現在捜査中ですが、深夜だったのと激しい雨のため、ひき逃げした車の痕跡も目 撃者も見つからず、捜査は難航するものと思われます。 被害者の○○さんは耳が不自由で、そのため車を発見するのが遅れたための不幸な事故だ と思われ・・・・」


私は思わずテレビを消した。
体の震えが止まらなかった。


「やはり。・・・現実だったのか。俺は人を殺してしまったのだ。これは現実なんだ。 ・・・しかし証拠は無いんだ。目撃者もいない。ばれるはずが無い。」


私は無性に喉の乾きを覚え、水を飲むために台所に向かった。


 夕方になり、私はようやく空腹を覚えたので、食事をとるためにアパートの部屋を出た。
駐車場に行くと、私の車の前で同じアパートの住人の男性が二人、なにか話しをしていた。
「まさか? もう見つかったのか?」
私は恐る恐る、しかし平静を装いながら車に近づいた。
「池谷さん、やりましたね?」
「えっ?」
私は足が震え始めるのを感じた。
「ご自分からきちんと警察に届けた方が、警察の印象もよかったでしょうに。 もう、電話をかけてしまいましたよ。すぐに警察の方が来るでしょう。」
私はガックリと肩を落とした。
こんなことならつまらない細工などせず、すぐに携帯から110番すればよかったのだ。
深い後悔の念が沸いてきた。体中の力が抜け、私は両手をヒザに乗せると首をガックリと落とした。
「申し訳・・・ありませんでした。ご迷惑をおかけしました。」
私は半分涙声になっていた。すると二人は目を見合わせると、驚いたように言った。
「池谷さん。何もそこまで落ち込まなくても。私たちもそう責めているわけではありません よ。ただこういう事は早めに対処して頂きたかったと言っているだけですから。こっちが なんだか悪いことをしたみたいじゃないですか。」
二人は苦笑いしながら言った。

「えっ?」
「この傷ですよ、バンパーの。そこの角の電柱が半分壊れて倒れそうになっているんですよ。 今ちょうど工事の人が来て修理を始めましたがね。一応警察にも届けておこうと思いまし て」
「はぁ。」
「覚え、あるんでしょ? あの壊れた電柱。このパンバーのひどい壊れ方から見てもこの車 がぶつかったとしか思えなかったんですが。」
「・・・あっ。はい。そうです。確かに私です。昨夜雨がひどかったものでつい曲がりそこ ないまして。」


 私は体が軽くなり、フワフワと浮きあがるような感覚を覚えた。
ひき逃げがばれたわけでは無かったのだ。
そうだ、それにこれで堂々と車も修理に出せる。
なにしろ警察が電柱とぶつかったと証明してくれるのだ。
私は思わず顔がほころんだ。
そんな私の態度を、二人は不思議そうに見ていた。


 あれから2ヶ月・・・・
もうテレビも新聞も、あの事故を取り上げるものはない。
警察も手掛かりが全くないあの事件にばかり、そうそう力を入れているわけにもいかないだろう。
車の修理も、何の問題も無く無事に済ませた。
電柱の修理代はちょっと痛かったが、そんなものは刑務所に入る事に比べれば何でもない。
ようやく私は普段の生活を取り戻したのだった。


  しかしそんな普段の生活の中で、以前と少し変わったところがあった。
特に不自由をするわけでもないのだが、自分の手が、どうも自分の手では無いような感覚が時折あるのだった。
例えば朝、洗面所で顔を洗うとき両手に水を溜め顔を洗おうとするといきなり両手が私の顔に激しくぶつかってくるのだった。
まるで自分で自分の顔を叩くように。
また、こんなこともあった。
会社で書類にサインしようとペンを持つと、紙の上に書こうとしたペン先が、自分の左手を突き刺すのだった。
意識している時には起こらなかったが無意識な行動をしている時に、時々それは起こった。
しかしたまに起こるだけで、特に生活に不自由も感じなかったため、どうせストレスのせいだと思い病院にまで行く必要もないだろうと放っておいた。


 そんなある日夕食を済ませのんびりビールを飲みながらテレビを見ていると、テレビの画面にうっすらと自分の姿が写りこんでいるのに気が付いた。
そして私は髪の毛が逆立つほどの恐怖を感じた。
そのテレビに映る自分の両手が・・・・・
あの夜、黄色のレインコートの女がしていた両手の動きをそっくり真似していたのだった。
私は思わず顔を引き、自分の両手を見た。するとそれまで無意識に動いていた両手がパタリとヒザの上に落ち、そのまま動かなくなった。
ゆっくりと両手を持ち上げてみると、両手は別に何の違和感も無く自分の意思のままに動いた。
私はおもわず自分の両手をじっと見詰めた。
両手の平を自分に向けてジッと見つめていると、何かそれ自体が意思を持って私の方を見つめ返している感覚に襲われた。
私は思わず両手の平を、テーブルに叩き付けた。
痛みは確かに自分の手から伝わってきた。


 それ以来、その手の動きは何度も起きた。
次第に私はその手の動きを覚えてしまい自分でもそれができるようになっていた。
ある日会社のデスクでお茶を飲み一息ついていた時、私は何気なくその手の動きをしてみた。
すると同じ部屋の女子社員の一人が、気味悪そうに私を見ているのに気付いた。


「どうしたの?」
「あの、それやめて頂けませんか」
彼女はかなり不機嫌な表情で言った。
「あ、この手の運動のこと? 別に意味はないんだよ。ただなんとなくやってるだけさ。気 にしないでくれよ」
「気にしないでって、池谷さん。それ、私に対する嫌味ですかっ?」
どうやら彼女は本気で怒っている様子だ。
「いやいや、誤解しないでくれよ。これは君とは全然関係ないんだから。意味なんて、本当 になんにもないんだってば」
「意味が無い、ですって? それ、立派な手話じゃありませんか」
 私は訳も分からず謝ったが、彼女は席を立つと部屋を出ていってしまった。
その日の夜、私はいつものようにソファに座りテレビを見ていた。
しかし、その夜の私の両手はどうも変な感じだった。
自分の手であり、物を持ったりする感覚は確かにあるのだが、まるで両手がなにか無償に勝手に動きたがっているようなムズムズする感じなのだ。
その感覚は徐々に強くなっていき、ついに自分で意識的に両手に力を込め、両足の太ももに押し当てていなければ、勝手にあの両手の動作をしてしまうようになってしまった。
私は怖くなった。

何かおかしい。

昼間、同僚の女子社員が言った言葉を急に思い出した。
確かにこの動きは手話だと言っていた。しかし私には手話の経験など全く無い。
もし知っているならば、無意識にその動きをしていたのかもしれないが、全く知識の無い手話の動きを正確に行えるはずがない。
私は両手に力を込め、勝手に動く両手をなんとか意思の力で押さえ込みながら彼女の電話番号を押した。


「はい。」「あ、池谷です。昼間はどうも」
「・・・どういうご用件でしょうか」
どうやらまだ昼間の事を怒っているらしい。
「こんな時間にすまない。実はちょっと聞きたいことがあってね。君、今日の昼間に私が手 話をしていると言ってたよね?」
「ええ。私大学の手話サークルにいたから、手話ができるんです。でも昼間のはあんまりだ わ。ちょっと嫌味が過ぎると思います」
受話器を持つ手が、勝手に動き出しそうになるのを必死でこらえながら私は聞いた。
「それで、あの手話の意味は、どういう意味だったんだい?」
勝手に動こうと暴れ出す両手を壁に押し付けながら、私は平静を装った。
全身から汗が噴出し、恐怖で足に力が入らず立っていられなくなった私は床にしゃがみこんだ。体がブルブル震えているのが分かる。
「池谷さん、知らずにやってらっしゃったんですか?本当に?」
私の両手はもう自分の意思とは全く関係無く、あの動作を激しく繰り返していた。
「もしもし?池谷さん?聞こえてますか?」
「あ ああ。聞いているよ」
私は、床に寝そべり激しく暴れる両手を体の下にいれ、押さえ付けながら床に転がった受話器に向かって言った。
「あの手話の意味は・・・その・・・、言いにくいんですけど・・・」
「かまわなから、言ってくれ。さあ早くっ」
今では両腕を両足ではさみ、勝手に暴れまわる両腕を押さえ付けもだえながら、私は受話器に向かって叫んだ。


「あの・・・あれは、『恨みは忘れない。お前を殺す』って意味です。 もしもし? 聞いてますか? もしもし? ・・・・」



私は返事ができなかった。自分の両手が信じられない程の力で、その時自分の首を締め付けていたのだった。

                                                 おわり

コメント(83)

いやーホントに文章力が プロ級でした。映画を見てる様に 次から次へと 場面が脳内にわいてきましたあせあせ(飛び散る汗)
お見事です!
ゆらゆら〜…。

私の指先が動き出しそうな勢いでしたげっそり
怖あぁぁ!
布石の拾い方もすごいです!
文章表現が本当にうまいです。どこかカフカや乱歩のような名作を読んでいる感じで、楽しめました。
文章力がとてもあり読みやすかったですぴかぴか(新しい)

めっちゃ怖かったです指でOKげっそりあせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)
トピが立った時に読んで、今日来てみたら・・・
えぇ?!
フィクションだったんですかっ!!
創作・・・・?
今の今まで、なんて怖い人だろうなんて真剣に思ってましたあせあせ(飛び散る汗)
>>50

いぁ・・・


フィクションじゃなかったら盛り上がってる場合じゃないっす指でOKたらーっ(汗)
はぁー。
危うく警察に電話するところでした走る人
こんにちは 作者のAUGです。なんだか、私が通報されそうなのであせあせ(飛び散る汗)、ヒントを暗号で出しますね。
一言言っておきますが、これはかなり昔の話で、すでに時効が成立しています。



SUDENNINAMENONNZENNZEGAKESAOHASHITAWA

あはは・・・あせあせ
確かに盛り上がれませんよねぇあせあせ(飛び散る汗)


で、ヒント?暗号?
時効???
えぇ??
ヒントが解けないのですが・・・あせあせ
ローマ字読みしたら いいんですかね?
でも言葉になんないしもうやだ〜(悲しい顔)
ダメだっ
違う意味で寝られそうにないですたらーっ(汗)
怖かったですがく〜(落胆した顔)
世にも奇妙な物語とかにでてきそうですね!!
また読ませてください♪
暗号までお出しになるなんてサービス精神旺盛な方ですね(*´∀`)

それならこの話の主人公にはなれませんよね>暗号
暗号、わっかりましたぁ〜〜〜〜exclamation ×2exclamation ×2

ふぅ〜
これで安心して眠れます眠い(睡眠)

65さん、やっぱりローマ字読みでしたよっウインク
暗号わかったー!!
でも、それがどうゆう意味なのかよく分かんないやふらふら台風
おもしれー

世にも奇妙な物語でやってほしい感じですね!

100%自作だとしたら天才ですわーい(嬉しい顔)

ぱくらせていただきます(恥)
暗号、わかりました。
ほっとしました。
暗号にものすごく悩まされましたよっ。すっきりしたー…w
ちなみに私もです。><
暗号>

オイラは車もろくに乗れないっす(汗)w
やぁー…ッッと暗号分かりましたうれしい顔ぴかぴか(新しい)
私は仕事上毎日です(;∀;)
本文は怖かったけど、暗号で笑ったわww

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