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【新】鈴木そ○子の心霊怪奇話コミュの第73話 あと

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 知り合いのまた知り合いというにすぎないのだけど、Mさんという三十代半ばの女性がいる。今年に入って離婚したばかりで、結婚するまでは小学校の教師をやっていた。
 水曜日の昼下がりに急に降りだした雨のために駆け込んだ喫茶店にMさんがいたのだった。僕たちはなんとなくだけど、窓際の席で向かい合って世間話をしていた。それから、どこでそういう話になったのか、わからないのだけど、「復職を考えてるんですけど、ためらいがあるんです」とMさんが言った。
「え?」と僕がききかえすと、Mさんはなんだか恥ずかしそうに小さく顔を伏せた。
 Mさんは僕がインターネットで「百物語」というページを作っているのを知っていたので、だからたぶんそれようの話をしてくれたのだと思う。
 つまり、経緯としてはそういうことで、以下はMさんが話してくれたことを僕なりに再構成したものだ。
 窓の外は雨がおもしろいように降りつづいて、いつもはにぎやかな商店街も人通りがぱたりと絶えてしまっていた。そういう雰囲気は断っておいたほうがいいかもしれない。冷房は少し利きすぎの気味。ちなみにMさんはかなりの美人である。

 もう何年も前のこと――そうMさんは話しはじめた。
 Mさんが教師をしていた最後の年に、受け持ちのクラスの女の子が殺されるという事件があった。A美ちゃんという四年生の女の子で、とても可愛らしい女の子だった。一月の終わりに市街地から離れた山の中で、車から投げ捨てられるようにして死んでいるのを発見された。性的な暴力の痕跡もあって、ひどく陰惨な印象の事件だったという。その当時は連日マスコミを賑わせていたが、結局、犯人は捕まらずじまいだった。
 あれは、三学期が終わって、春休み入った日のことでした――とMさんは言う。職員室の自分の机を片づけていて、それで、いつだったかA美ちゃんが学校に持ってきて、Mさんが取り上げたマンガの単行本が出てきた。
 昼休みにA美ちゃんがたった一人で教室に残っていて、読んでいたのだった。その日、Mさんがどうして受け持ちの教室へ行ったのか、実のところはよくわからない。学校ではマンガを持ってくるのを禁じていた――そういう小学校って多いんですよ、とMさんは言って、くすりと笑った――し、Mさんとしても、A美ちゃんが一人で教室に残って本を読んでいるのはなんとなくよくないことのように思えたので、ダメでしょ、マンガを持って来ちゃ、と叱ってみせた。
 A美ちゃんは恥ずかしそうに、ちろりと舌を出した。Mさんはこれは帰りまで預かっておきますから、校庭でみんなと遊んでらっしゃい、と言ったものだった。
 その日の帰り、MさんはA美ちゃんに、職員室までついていらっしゃい、マンガを返してあげるから、と言った。
 A美ちゃんは「あのね、あれ、おもしろいから、先生に貸したげる」と言った。
 ああ、この子は最初からわたしに本を貸したかったのかな、って思ったんです――そう言って、Mさんは微笑んだ。
 それで、わたし、A美ちゃんの家に電話をかけたんです。A美ちゃんのお父さんが出て、午後はずっと家にいるというので、伺うことにしたんです。学校を辞めてしまう前にもう一度、A美ちゃんの位牌に焼香したいと思っていましたから……
 その日は朝からぐずついた天気だった。
 Mさんは傘を持って、バスに乗って、出かけた。
 A美ちゃんの家は町外れにあった。バス停の隣は神社で、人通りはいつも少なく、おそらくそこで犯人の車に誘われるか、無理矢理連れ込まれるかしてしまったのだろう。……目撃者は皆無だったが。
 A美ちゃんの家はそこから五分ほど歩いた一軒家だった。
 父親が一人でいて、迎えてくれた。Mさんがマンガの単行本を渡すと、父親は、わざわざすみませんと深々とおじきをしてみせた。前よりいくぶんやつれてしまったように見えた。家の中は静かで、奥の部屋に仏壇があり、その横に骨壷を納めた紫色の箱があった。その横に笑っているA美ちゃんの写真が立てかけてあった。Mさんはやはり涙ぐんでしまった。
 今でも、とMさんは言う。受け持ちの生徒たちを考えると、まっさきに浮かんでくるのはA美ちゃんのことなんです……
 奥さんは体調を崩して、実家に行っているということだった。そのためか、家の中はなんとなく埃っぽくて、それからしめやかだった。
 父親が自分でお茶を淹れてくれた。
「学校にはいつまで?」Mさんの退職を知っている父親が言って、Mさんは明日までなんです。田舎に帰りますので、今日が最後……
 そうですか、最後まで気にかけていただいて……
 帰る頃合いだった。暇を口にして、玄関まで送ってもらうと、雨が降ってきたのだった。
 大降りの雨だった。

 そう、こんな雨……とMさんは言う。
 僕たちは二人とも煙草を吸っていて、その紫の煙がゆらりと揺れていた。
 雨はそこかしこを叩きつけるように降りつづいていた。
 ザーッと……。

 ザーーーーーーーーーーーーッ

「車で送りましょう」と父親が言った。
「ええ。けれど、傘も持って参りましたし、バスを待ちますわ」
「この時間には市街地に向かうバスはないんですよ」と父親は言った。
 そうして、MさんはA美ちゃんの父親の運転する車に乗せてもらうことになった。
 黒いセダン。ごく普通の、とMさんは言う。まだ新車だといってもよかったんじゃないかしら。座席のビニールもまだとられていなかった。
 雨は強く屋根を叩き、ワイパーがひっきりなしに行き来して、けれども視界は少しもよくならなかった。
「この春に三人で旅行へ行こうと思っていたんですよ」と父親が言った。「あの子、すごく楽しみにしてくれていましてね……」
 あたりは夕方で、すっかり暗くなっていた。うっすらと田植え前の田圃がずっと広がっているのがわかった。ぽつんぽつんと街灯の明かりだけが前方につづいていた。
「あの子が死んだなんていまだに信じられないんです……今もあの子がすぐそばにいるような気がするんです」
 Mさんはそっと顔をそむけるように助手席の窓を見やった。窓ガラスはくもっていた。手で拭こうとして、ふと……

「『せんせい』って……」とMさんは言って言葉を切った。それからひとつひとつ確認するように言い直した。「ひらがなで……くもりガラスに、誰かが指で書いたように『せんせい』ってあったんです……小さな子どもの字でした。それから、すーっと見えない小さな手が窓ガラスを拭ったように文字が消されたんです。……それからその隣に『もっとあそびたかったよ』って。……それも、すーっと消されて、その下に『ありがとう』って……」

 それから、さようなら……って……

 A美ちゃんの父親は私鉄の駅まで送ってくれた。
「今日はどうもありがとうございます。A美も先生に会えて嬉しかったと思います」と父親は言った。

 これが起きたことのすべてなんです、とMさんは言った。やはり、信用してくれてませんね、と言って、小さく笑った。
 考えようによってはいい話だとも思うし……ほんとうは……
 それから、Mさんは長いこと黙りこくった。
 窓の外はいく分小降りになっていた。よく見ると、通りの向かいのあちこちの軒下に人々が雨宿りをしているのがぼんやりと浮かんで見えてくるようだった。なんだか幽霊みたいだ、と僕は思った。
 こんなこと、ほんとうは話しちゃいけないんですけど、とMさんは言ってため息をついた。

 A美ちゃんのお父さんのあのときの笑顔が頭にこびりついて離れないんです。
 あのときの奇妙なほどににこにこした笑顔が……。
 あのとき、彼、見てたと思うんです。A美ちゃんの字とそれから、あたしが驚いているの、絶対気がついていたと思うんです。でも、そのことを一言だって言わなかった……。

 A美ちゃんを殺した犯人はまだ捕まっていないのだという。


コメント(8)

その子の独り言

その子『A美ちゃんは、今私の隣にいます。インタビューしてみますね』

その子『A美ちゃん、実際どうだったの?』

A美『・・・・・。』

その子『A美ちゃん、黙ってても苦しいだけだよ、答えてちょうだい。』

A美『・・・ママ。』

その子『ママ?ママは実家に帰ってるんでしょ?』

A美『・・・もう(母方の)おばあちゃんもおじいちゃんも死んじゃってるよ。』

その子『???じゃあ実家って?』

A美『・・・。』

その子『いる?誰もいない実家にいるの?』

A美『・・・ううん・・・・』

その子『ううんじゃなくて・・・・??』

A美『いるよ・・・・・・。』

その子『どこにいるの?』

A美『・・・・・。』

その子『教えてちょうだい』

A美『私のママ、このコメントを見てる人の背中におんぶしてるよ』

その子『・・・・。』
・・・・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)・・・・・ ギャフン・・・
もんママへ

今、そっちに行きましたよ
ええええええええ!!!!!!(涙)

アタヽ(´Д`ヽ ミ ノ´Д`)ノフタ ・・・


ど、どっちが来るの?ママ?そのこ?
ウウウ…どっちも嫌〜〜〜〜〜〜〜!。・゚・(ノД`)・゚・。オオ〜ン
 
。。。。。(* ̄m ̄)ノ彡☆バンバン

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