温泉・秘湯・名湯を巡る旅コミュの鉄輪は民宿がいい！

別府の二泊目はぶらりと行って泊まれる民宿がいい。鉄輪はどこをほっても温泉が脇出すので、民宿もみな源泉を持っている。迷路のようにいりくんだ裏路地には、外国人観光客の姿はない。２０年たっても先ずかわらない風情を残す雰囲気が旅愁を誘う。蒸気機関車がそこかしこに停車して蒸気を勢いよく吹き出しているような先ず全国でも見られない光景が鉄輪の良さだ。かつて寅さんのロケ地にもなったそうだが、ひなびた民宿の玄関の引き戸を開けると、大きな柱時計に姿見用の鏡がかかった帳場がひろがり、一瞬で心が溶ける。浴場もこじんまりして、他に入っている人がなければそのまま家族風呂に札一枚かけ直せばよいだけ。本当におおらかそのものだ。鉄輪のお湯も空気に触れずに湯槽に落とすため、鉄分を含んでいても、色は赤くない。だからガツンと効く。かつてはここに新婚旅行にきたつつましやかな日本のカップルもいたのだろう。彼らの時代には贅沢はないのだが、しみじみとした愛の歓びをかみしめ、それを世知辛さや日々の憂いを払う術に変え得る幸せの達人であったのかもしれないと思う。また、別府の人は温泉の効能を最大にする入り方を知っているのだ。沸騰した高温の源泉を直に引き入れ、アツ湯のまま風呂一杯に汲み、そのまま覚まして入る。それでもどうしようもなくて水でうめる。水を止めて入っているうちに源泉がさらに追加されて温度を上げていく。5分で茹でタコになってしまい、ホウホウの体裁で部屋へ戻る。畳の部屋でグウグウ寝る。目が覚めると今度はお腹がすいてグウグウ鳴る。胃腸に効く源泉を軽く飲んで食事をする。これを繰返していると、からだの疲れがすっかりとれて軽くなる。胃痛も不思議となくなる。もっともこれには何日かかかるが。本当の意味での骨安めになる。夜更けて静まり返った温泉街をひとり歩けば、なんとも言えず思い出が込み上げてきて泣けてくる。別府のくれる自然のエネルギーは心の感度も回復させるようだ。人間らしく素直に生きていいんだ、誰憚ることあるものか。鉄輪のお湯は心に沁み入る味がある。