マウスの発明者として知られるダグラス・エンゲルバート(Douglas Carl Engelbart)氏(1925〜)は、マウスというその画期的な発明のみならず、現在のパーソナルコンピュータで当たり前のように使われているワードプロセッシングや、アウトライン処理、ウィンドウシステム、テキストリンクといった技術を世界で最初に紹介した人物である。
●すべては1945年に収束する
現在、ダグラス・エンゲルバート博士は、米カリフォルニア州フリーモントのLogitech(日本法人名はロジクール)本社の一角に、作業スペースを提供され、近郊のアサートンという街からそこまで、約16kmの道程を毎日通勤している。スペースの提供は、彼の偉業なしには、現在のLogitechはありえなかったという同社のはからいによる支援だ。今回のインタビューも、米Logitechのはからいで実現したものだ。
さかのぼれば、テッド・ネルソンも、エンゲルバート博士も、さらには、アラン・ケイでさえも、そのルーツを、1945年に発表されたヴァネバー・ブッシュ(1890-1974)の"As We May Think"という論文にさかのぼることができる。「思考のおもむくままに」(『ワークステーション原典』浜田俊夫訳、アスキー出版局、1990年所収)、「われわれが思考するかのごとく」(『思想としてのパソコン』西垣通編著訳、NTT出版、1997年所収)など、歴史的論文として繰り返し訳出されている名論文だ。
●コンピュータと対話することが笑われた時代
1986年1月、カリフォルニア州パロアルトにおいて、A History of Personal Workstationと称するカンファレンスが開催された。ワークステーションの歴史を作り上げた人々が招待され、それぞれが歴史的な業績に基づいた講演を行なったもので、その内容は、前述の『ワークステーション原典』として出版されている。原著はまだ入手が可能だが、アスキーから出版された浜田俊夫による日本語訳は残念ながらすでに絶版となっている。
エンゲルバート博士もこの会議に招かれ、彼の仕事であった『知識増大ワークショップ』に関して振り返っている。この研究こそが、1962年、SRI(スタンフォード研究所)勤務時代に博士が著した画期的な論文『Augmenting the Human Intellect: A conceptual framework(人の知性の増大−概念フレームワーク)』として知られるものだ。この論文に関しては、やはり前述の『思想としてのパソコン』に「ヒトの知能を補強増大させるための概念フレームワーク」として訳出されている。
With a "pointer," he indicates two points of interest, moves his left hand rapidly over the keyboard, and the distance and elevation between the points indicated appear on the right-hand third of the screen.