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映画評論(ゲイのみ)コミュの「愛、アムール」

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部屋の扉が微妙に開いていて、向こうが見える構図は、思わずハンマースホイの絵画を思い出しました。
ハンマースホイの絵には、青みがかった色彩も相まって、微妙な不安をよぎらせるところがありますが、この映画も、冷厳なハネケ監督らしく、ひんやりした色彩で映す扉が開いた部屋は、不安と緊張感で強く漲っていました。

映画「愛、アムール」
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
撮影:ダリウス・コンジ
編集:モノカ・ヴィッリ、ナディン・ミュズ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・ニヴァ、イザベル・ユペール他

(ネタばれにつき、未見の方は承知の上で読んでください)







扉を開くことで始まるこの映画は、その実は、扉を閉めて密閉された空間の中で、ドラマは繰り広げられます。
この映画の密室性は、この夫婦の生き様を表すとともに、その内に入っていく頑迷さとも、夫婦の固い絆とも言える様相を見せます。

映画は前半、不吉な符号を、いくつも散りばめます。
幾度となく流れるシューベルトの即興曲、あるいは静かな浄化を感じさせるバッハのコラールも、まるで望むべき終わりはないと言わんばかりに、非情にも途中で中断されます。
老夫婦がピアノのコンサートから帰ってくると、家の玄関の鍵が何者かに、こじ開けれそうになっていることに気づきます。外からの闖入に対する警戒が暗示されます。
こうして、老夫婦は、中断する音楽が予兆するように、次第に自分たちの体に襲う老いがきっかけで、いつもの日常を過ごすことができなくなり、それに合わせて、自分たちの尊厳をより強固に守る行動へと変化していきます。
そこにおいては、ヘルパーなどの外部の人間はもちろん、身内である娘ですら寄せつけないほどに、この夫婦を内に篭らせていきます。
それが、部屋の密閉性、扉の開閉、鍵の施錠に示されているのです。


しかし、己の生き方、逝き方の処断は、所詮他人には理解できないということなのでしょうか。
家の外の世界は、自分たちの絆を理解することはできないと言わんばかりに、二人は二人だけの生活に収斂していくのです。
だからこそ、誰も寄せつけない家の中での、夫の献身的な看護の姿は、妻の老いに寄り添うという点で、夫婦の愛情を際立たせるものでした。


その密閉された空間での、あまりにも息苦しい愛情に、風穴を開け、次へと展開させるのが、唯一の外界の接点である廊下の窓、そこから入ってきた鳩でした。
鳩は、天上、昇天の表象であると同時に、無垢な存在として、子供に戻った奥さんを仮託しているとも思えます。その鳩を、夫は2度、窓の外に帰します。
無論、この解放は、二人が次に向かう世界を暗示しているのです。
それが、この夫が決めた最終的な判断でした。


しかし、その夫の最終決断をした後のシークエンスに、私は思わず心が震えてしまいました。
死んだはずの妻が、いつもの日常のように皿洗いをし、それが済むと、夫をせかすように外に出かけるよう促します。呆然としている夫は、上着も着ずに出かけようとすると、注意されて、慌てて羽織って、二人で家の「外」へ出かけてしまいます。
言うまでもなく、これは夫が奥さんの後を追って、永遠に結ばれる世界へと出かけて行ったのですが、しかし、なんという優しい眼差しを持った描き方でしょうか。

この監督のお得意の、固定したカメラでの長回しは、冒頭にも書いたように、ひんやりした色彩とともに、時に暴力的で、時に無感情な冷酷さを醸すこ とが多い中で、ここのシークエンスから湧き起こる柔和な表情は、対比として計算されたことなのでしょうが、正直驚くと共に、心が揺さぶられました。
むろん、往年の名優であるジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・ニヴァの凄みさえある演技があっての、素晴らしいシークエンスでした。


映画はその後、全て部屋の扉が開放された家を訪れた娘の佇む姿を映しますが、その開放の空間がより両親の不在を感じることになり、それはまたすなわち、あの閉塞した空間での老夫婦の「愛(アムール)」がより際立つのでした。

コメント(3)

昨日見てきました。
凄まじい演技に目を背けたい(自分の近い将来を思い)思いでしたが、二人の結末とアムールの意味を知りたくて画面を追いました。
監督の意図が散りばめられていたことを教えて頂き、この映画がより身近になりました。有り難かったです。手(パー)
観て来ました。
あまりにも短いエンドクレジット(end credits)の時 、会場に音楽が流れなかった。
一緒に観に行った友人に
「ふん、こんな映画!」
なんて言おうとした時、場内が明るくなって、シューベルトの即興曲が流れた。
何を勘違いしたのか、僕は
「嗚咽」
大きな声で。止まらなく、友人にもたれかかる。
会場の後ろまで行った時、友人に支えられながら壁に身を委ねた。
「あっけにとられていた掃除人の顔と視線があった。」
なんだかなあ、って感じでした。

深い事は書けませんが、退屈でなりませんでした。
すいません。

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