ちょうど5年前にも私は同じ会場で“Us and Them-Tour”と題されたロジャーのライヴを見ましたが、今回は彼の反ユダヤ・キャンペーンに協力していたという過去の経歴を問題視されて、戦前のナチの時代の反省からことユダヤ人問題の扱いに関しては非常に敏感になっているこちらドイツでは「そういう人物のコンサートなどドイツでは開催するべきではない」という反対派の強い運動もあり、開催直前まで「本当に彼のライヴは開催されるのだろうか?」という不安な雰囲気が漂っていたために、私も前日までケットを買うのを控えていました。反対派の団体は裁判にまで持ち込んだそうですが、結局裁判所の判定では「そういう理由でアーティストの表現活動を阻止するのは不可能なので、ロジャー・ウォーターズのコンサートも中止にはできない」という判決が下されたために、彼のライヴは当初の予定通り無事に開催される運びとなりました。
今回は“This Is Not a Drill”と題されたツアーの一環として開催されたライヴですが、何やら彼のフェアウェル・ツアーの第一弾として開催されるもの、という情報がネットにも書いてあったことから、今年の9月でちょうど80歳になるロジャーはどうやら加齢の理由からか、これら一連のコンサート・ツアーを以ってライヴ活動から引退する意向であるように思われます。
このライヴではフロイド時代のレパートリーが主にアルバム「炎」、「アニマルズ」からの選曲が中心になっているような印象がありました。私が是非一度は聴いてみたかった“Have a Cigar?(葉巻はいかが?)”のロジャー・ヴォーカル・ヴァージョンや“Shine On You Crazy Diamond”などの曲が聴けたのが自分にとってのこの日の一番の収穫でした。「アニマルズ」の曲ではいつもは例のピンクのブタが会場の宙を飛ぶのが定番ですが、今回はブタではなく茶色いヒツジがアリーナ上空を一周するように飛ぶ、という少し趣向を変えた演出になっていました。
その他には中盤で“Money”や終盤で“Eclipse(狂気日食)”などアルバム「狂気」からの曲も若干演奏され、その合間にロジャーの近作である“Is This The Life We Really Want?”などのソロ曲も幾つか披露されるというレパートリーの構成でした。MCでは彼がボブ・ディランを敬愛しているという話や近年結婚した5人目の奥さんの話題なども語っていました。そして最後はドラマーが肩掛けスネア・マーチング・ドラムのリズムを叩きながらキーボード奏者がアコーディオンを、ギタリストがアコギを弾くというアコースティックな編成の演奏をしながらメンバー全員が一列になって行進しながらステージから退場するという演出でライヴは終了しました。
それはそうと、ツアー・タイトルの “This Is Not a Drill” って私も何を意味しているんだろう?、って少し気になっていましたけど、確かにそういう風にも解釈できますよね。歯に衣を着せず挑発的な発言はしても自分の作品についてあまり詳細な説明はしないで見る人・聴く人の想像に任せるところもロジャーらしいなぁ、という気がします。