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意味不明小説(ショートショート)コミュの飲んで!

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 風邪をひいてしまった俺は、素直に彼女に電話をした。

「もうっ!だからいつも言ってるのにぃ、エアコン効かせすぎだって!夏風は治りにくいから、最初が肝心よ……待ってて、今、風邪薬持って行くから、ちゃんと布団に入って寝てるのよ!私が行くまで」

 世話焼きの彼女、正直普段は、ちょっと辟易するほどなのだが、今日に限ってはその過剰なる世話焼きがありがたい。

*****

 12時間後。

「遅いなぁ……・ゲフゲフッ」

 ダルんと腕をもたげて、体温計を脇から指し抜く――熱は一向に下がっていない。

 pinpon pinpon

 ――彼女か?

「開いている……ゲフ……ドア開いているよー」

 大声を張ったつもりなのに、蚊がハミングしている程度の音量しか出ない……愕然とした――やばい俺、すげぇ弱ってる……

 ガチャリ、彼女が入ってきた。

「ちゃんと寝てた?」

「……見ての通り……ゲフッ」

「大丈夫?!」

「……大丈…夫……それより、遅かったな」

「遅い?私、大急ぎで来たのよ」

「……でも朝電話してから、かれこれ半日は経ってるぞ」

「まぁ、確かに手に入りにくい物とかあって、手間取っていたのは事実だけど……それより、ハイ、これ」

 彼女、何やら、粉の入った小さなガラス瓶を、僕に差し出した。

「何これ?」

「風邪薬」

「風邪薬?」

 ラベルも何も貼られていない透明なガラスの小瓶、中には粉末。

「これ、私が作ったの」

「え?」

「自家製風邪薬」

「え?」

「タカシのために特別に調合したのよ。さぁ飲んで」

「いや、ちょっと待てぇ!」

 僕は半身を起こして、彼女を見据える。

「……文学部文学科中国文学専攻だよな?お前」

「うん」

 ――薬剤師の資格なんて、持っているはずはない。

「実家が、薬局とか?」

「違うよ。実家は、普通のサラリーマン」

「……これ?本当に風邪薬?」

「うん。私が作ったの」

「……広島では、普通なのか?風邪薬は、各家庭で作るものだとか……そういう風習があるとか?」

「ないよー、なにそれー、受けるぅ」

「……いや、『受けるぅ』じゃなくて……どうして、市販の風邪薬を買ってこないんだよ?」

「どうしてって……市販のは効き目が薄いから……だから私、タカシに早く、良くなって欲しくって、思い切って自分で作ったんだ」

 ――バレンタイのチョコじゃないんだから……手作り=心がこもっているとう図式は、この場合には……

「いや……だから……ゲフッ……そもそも、どうして『風邪薬を作ろう』なんて、思っちゃうんだよ?そしてどうして作れちゃうんだよ……っていうか、これ、ちゃんと風邪薬としての効能あるのかよ?」

「効能あるに決まっているでしょっ!私が作った風邪薬だよ」

「……何の根拠があって……」

「ひどいっ!私のこと信じていないの?タカシのためを思って、精一杯作ったんだからね!」

 彼女、かつて無いほどに、キレている。

「熱がなかなか下がらないって言っていたから、作用の強いイブプロフェンを主成分にして、そこにピリン系最強成分イソプロピルアンチピリンをブレンドして、その他にもエテンザミド、アセトアミノフェン、イブプロフェンなんかもちゃんと配合して」

 ――血の気が引いていく、背中の汗も引いていく。こいつちょっと……

「私の気持ち、ちゃんと分かってるの?今私が言った成分に込められた私の気持ち……」

「分からない。そもそも成分のこととか……さっぱり分からない」

「敢えて、アスピリンを配合しなかったんだよ!分かる?アスピリンっていえば、どの風邪薬にも大抵はいっている成分だけど、私はそれを敢えて避けた……その意味が、タカシには分からないの?」

 ――俺は、どう答えていいか分からずに、半眼で、彼女の後ろのカレンダーを見据える。

「タカシのことを愛しているから!タカシのことが大好きだから私、アスピリンを配合しなかった。タカシにアスピリンの持つ数々の副作用、一例を挙げると、発疹・むくみ、胃痛,、吐き気、嘔吐、胃炎、消化管出血、めまい、頭痛、興奮、倦怠感、食欲不振……等を、味あわせたくはないから私」

 ――「一例」って言った割には、今、十個ぐらい言ったよな?……突っ込む気力も残っていない俺。

「私……日本では法的に認可が下りていないモノまで手に入れて配合したんだから」

「ちょ……それオマ……」

「さぁ、飲んで」

「いや、ちょっと待てぇ!『認可が下りていない』って……それ、やばくないのか?」

「ヤバイわよ、ヤバイに決まっているじゃない!非合法なルートで薬を手に入れた私もヤバイし、まだ動物実験の段階であるこの薬を飲むタカシにも、そりゃあほんのちょっぴりだけどリスクはあるわ」

「……おい!」

「でも薬にはリスクは付き物なの。タカシ、クスリを逆から読んでみて……リ・ス・ク……ほらねっ」

「……『ほらねっ』……じゃねぇよ」

「飲んで」

「……飲まない」

「な?」

「そんな得体の知れないモノ、飲めるわけない」

「酷い……」

「『非合法なルートで手に入れた成分』が入っている薬なんて、飲めるわけないだろう?」

「大丈夫よ!非合法なルートとはいっても、テイさんは信頼できる人だから」

「テイさん……なんだその、怪しさ満点の中華系の名前は?それに『動物実験の段階』って――」

「動物実験では今のところ大きな副作用も見受けられないという報告を得ているわ。この薬の成分、ハムスターで実験したんだって……タカシ、好きだったよね?ハムスター」

「……それが、今……どう……」

「ハムスターだって勇気を出して飲んだんだよ、この薬を。だからタカシにだってきっと飲めるはずっ」

「……論点が……」

「ハムスターに負けたくないでしょ?」

「いや、だから論点が……」

「飲んで」

「……飲まない」

「どうしても飲んでくれないの?」

「飲まない」

「じゃあもういい……この薬、私が飲むから」

「え?」

「タカシの前で、この薬を飲んでみせる」

「ちょっと待てよ里美。こんな恐ろしげな薬、絶対に飲んじゃあ駄目だ」

「いや、飲む」

「飲むなー!」

「……じゃあ飲んで」

「……だから、なんでそうなるんだ……飲まない」

「じゃあ私が飲む」

「それは絶対に駄目だ!」

「……タカシ……貴方って……私が飲もうとした時の方が、リアクション大きいのね」

 彼女、じっと僕を見つめている――確かに、そうだった。里美が「飲む」と言った時の方が、俺は強い拒否反応を起こした。

「私のことが心配なの?」

「……ああ」

「自分がこの薬を飲むことより、私がこの薬を飲んでしまうことの方が……タカシには恐いことなの?」

 …………

 小さな俺のアパートに、小さな沈黙が訪れて、俺達は、かつていないほどに、お互いを強く、意識した。

「……ああ、多分きっとそうだ。里美を危険な目に合わせるくらいなら……俺……」 

 夕日が赤々と、窓から差し込む、里美の顔、それに照らされて、天使のように優しく、俺に微笑んだ。そして――

「じゃあ、飲んで」

 私を危険な目に合わせたくないのなら……この薬を飲んで……

 お願い……

 この薬を……

「飲んで!タカシ」

コメント(2)

彼女のほうでも途中から引っ込みがつかなくなってしまったのでしょうか。
>>[1] いやぁ、どうなんでしょう?w とにかく薬を飲ませたいの一心、それは妄執に近いものなのかも知れませんw

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