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意味不明小説(ショートショート)コミュのRoots

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やあ…久しぶりだな。…そうでもないか?

まあ、いいだろ、ちょっと、聞いてけよ。
それほど、時間は取らせねぇからさ。

…暇が無い?ならいい。


大して、難しい話じゃない、
…そうだな、まず一つ、聞かせて欲しい。

貴方は…君は…お前さんは、
自分の事を、なんて言う?

いや、名前じゃない。
あるだろ。「私」とか「僕」とかよ。
人称代名詞、って奴だよ。一人称、のな。

公式の場では「僕」、もっと堅いところなら「わたくし」、友達の前なら「俺」
とか、あるだろ。
貴方の…君の…お前さんの、自分なりの、ルール、みたいなもんがさ。
ま、普段は意識しないかもしれないが、一度言葉にしてみてくれよ。




ふむ…そうかい。

じゃあそのルール、出来たのは、いつだい。

だってそうだろう。
1歳の子が「母さん、貴方に僕は抱かれたい」なぁんて、急に言い出しはしない。

さ、いつだい。言えるかい?

言えるならいい。

…言えなくてもいい。

じゃあ、次の質問だ。


貴方が最初に「セックス」の正確な知識、或いは体験を得たのは、いつだい。
ああ、いや、何も下世話な話をしたいわけじゃない。
だから言葉に出さなくてもいい。

この種の鮮烈な通過儀礼ってのは、
その最初の瞬間を一番記憶として留めやすいからな、聞くことにしてるんだ。

…なんだって、まだ何も知らない?…まあ、それなら仕方が無い。
…ああ、中学の英語の時間に、「性別」という単語として知った、か。
はは、ひねくれてはいるが、それも立派な答えだ。

そう、それが貴方の、君の、…お前さんの、「セックス」のルーツだ。


じゃあ同じように聞こう。

「通過儀礼」という言葉を、初めて知ったのはいつだい。
あるいは知らないなら、調べてもいい。


次だ。最初に知った英単語はなんだい。

"I"か?"apple"か?
その瞬間を、覚えているかい?

覚えているならいい。

どちらにしても、次の質問だ。

1分は何秒だい?また、1時間は何分だい?


そんなの当たり前だ、もちろん答えられる。そう思うかもしれないな。
じゃあ、それを初めて知ったのはいつだい。

その自信は、どこからくるんだい。

1分が100秒じゃないと、いつ、誰から、どこで聞かれても、
違うと言い切れる理由は、そう、ルーツはどこだい。


もちろん、調べれば、こんなことはどこにでも載っている。
世界にはあらゆるdictionaryと、pediaがある。

…知っているか?pedia、とは教育、を意味するラテン語の接尾辞だ。
wikipediaでも良し、encyclopediaでも良し。

調べるまでもないことでも、
もちろん調べることでその自信は次第に何気なくなっていくわけだ。


少し、考えてみてほしい。

もしこう聞かれたとしよう。
「ツウカギレイの『ギ』の漢字って、何編だったっけ?」

なにをいまさら。人偏に決まっている。
そう思うかもしれないな。

だが、その自信はどこからくるんだ?

最初に「儀」を知った瞬間を、そのルーツを、覚えているか?

覚えているならいい。

…あらゆる言葉について、同じ質問を繰り返すだけだ。


簡単に言おうか。
貴方が、君が、…お前さんが使う、その言葉全てに、
ルーツなんて存在するのか?
考えてみてほしい。

初めて「考える」という単語を使ったのはいつだい。

…答えられやしないだろう。


その使い方が正しい、という確認は容易だ。
常識は蔓延っている。


にもかかわらず、いくら思い返しても、そのルーツは曖昧だろう。

お前さんは、それくらい、希薄で薄っぺらい存在なんだよ。



…あ?俺か?

俺は…そうだな、じゃあ俺についても話そう。
俺が持ってる、人称に対するルールについてはもう述べたな。

…あまり覚えてない?別にいい。
諳んじられるくらいはっきり覚えてる?それはすばらしい。

どちらにせよ、それは本当に正確に、一字一句、正しい記憶、ルーツなのか?
自信があってもいい、無くてもいい。

どちらにせよ一度スクロールアップして、その部分を読み直してみたらいい。
記憶とルーツとの境目が、よくわかるだろう。

ただしその前に一つだけ、人生では同じことは不可能だ。
それを忘れないでいて欲しい。

じゃあ、該当箇所を探して、また戻って来るんだ。









…読み直したかい。
じゃあ、話を続けよう。

そう、俺は。…はは、そうだな。そろそろ意地悪はやめようか。


僕は。その種のルールを明確に持っている。
それは、多分、貴方と同じに。

しかし、そのルーツもまた、明確に、持っている。
それは、恐らく、貴方と異なるだろう。

…なぜか?

あたりまえだ、僕は「架空の人間」だからだ。

そうだろう、人称代名詞についてやたら細かく、
pediaの知識を有する、「僕」という人間など、
どこにも居やしないんだよ。


つまり僕は、文字の並びが貴方の脳内に作り出した、
この世には存在しない、
希薄で、薄っぺらい存在だ。


希薄で、薄っぺらい。
どこかで見た表現だろう?


そう、僕と貴方に、どこか違いなんてあるだろうか?

ある?…はは、そうだな、貴方は「架空」じゃない。

それじゃあ、言い方を変えようか。
現実と架空に、どこか本質的な違いなんてあるだろうか?


ある、と言い切るのなら、
貴方が持つ言葉の、そのルーツを、どんな引用も無く、答えようとしてみるといい。

僕だって、この四角い限定された外側のルーツなど、
知りもしないし、持ちもしない。


そう、ただ違うのは、スクロールアップが許されている、ただそれだけだ。

それはお前さんだって、そうだろう。
昨日食べた晩御飯くらい、答えられるだろう。

…答えられない?はは、それでもいい。
ほんの5秒前、その耳が聞きとった音を思い出せるだろう?
それくらいは答えられるだろう。


だろう、本質的な違いなんて、僕と貴方の間には、ないんだよ。


…ただし、未来については違う。

貴方は…お前さんは、これからその根を新しく伸ばすことができる。
僕…俺と違って、お前さんはそうして、生命の樹を、成長させることは出来る。


ああ…別に、お前さんに憧れてるわけでも、自分に絶望してるわけでもない。
これは、ルールだからな。


…もちろん、不満がない、と言えば、嘘になるかもしれないが。



…時間を取らせて悪かったな、これで俺の話は、終わりだ。

つまり、俺はこれで、終わる。

じゃ、また今度な。



…次がいつか、だって?

お前さんも、野暮なことを聞くんだな。


…いつか俺がお前さんの頭の中に再び現れる、その時だよ。


その時が来るかどうかは俺の知ったこっちゃない。




とりあえず、俺の話は、

そう、俺は、これで終わりだ。

じゃ、またな。

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