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意味不明小説(ショートショート)コミュのラスト・ワルツは私と

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ペトゥラ・クラーク『ラスト・ワルツは私と』を聴きながら、私は秋空の下、
赤レンガの並木道を歩く。黄や紫に色づいた落ち葉の僅かな間隙を
軽やかなステップと共に。
真っ赤なダッフルコートにカシミアのマフラー、ポリー・マグーみたいな髪型に山吹色のニット帽なんて被ったりして
――まるで風邪薬のCMみたいね。
いつの日か、奇蹟がわたしの肩を叩くまで。

そう律子に告げた時、彼女はいかにも怪訝な顔を見せるものだから、
私はなんだか悲しくなってしまった。嗚呼わたしたちの友情の賞味期限は
とうとう切れてしまったのね、ってしおらしく。

「で?」と、くぐもった調子で律子はいう「実際にはどぉいうことなのよ、
奇蹟が肩を叩くって」

私は一つ肯き、慎重に言葉を選ぶ。わたしは専ら口下手なタイプなのだ。
「あ、うんそれはね、つまりね、決まりじゃないんだけどぉ、叩く方の話で――」

「叩く方?」そう言葉を遮った律子。なんてぶっきらぼうな言い方。「手短に」

「わたしの肩を叩いてくれる人っ」

「ふ〜ん。アンタの肩を叩くのは『人』なんだ。それ、男?」

「うん」そういって私はかぶりをふる「でもどっちでもいいの、女の人でも男の人でも、ただ肩を叩いて優しく声を掛けてくれさえすれば、誰だって」

「声って例えばヤァ!とかナンパシテイッスカァ!とかオッスオラゴクウゥ!みたいな?」

「ん〜それはちゃんと決まってるんだぁ、
その人はね振り返ったわたしの目を見てこう囁くの、さぁ僕と踊りましょう、って
春の息吹みたく心に沁み渡るような声色で」

すると律子は、あっそ、と簡単に切り捨ててしまう。
自分から聞き出したクセにあんまりだ。

「サキは踊りたいんだ。そんなバカみたいな王子様と一緒に」

「違うの、ホントにそれが男の人かなんて関係ないのよ、ワニでもトカゲでも、
カエルでもぉヤモリでも……あと、あと〜カメ?とか、オザークヘルベ――」

「もういい。てか爬虫類、喋らないし」

「うぅ単なる言葉のアヤだもん」

「でもさ、踊るなら、お若い方の方が見てくれがよくてよン、サキちゃん♪」

「ね律子、あのね聞いて、あのねわたしね、なにも踊りたいわけじゃないのよ」

「何んなのよっ!」片眉を持ち上げた律子は、いかにも美人にありがちな
ヒステリックな金切り声で、「アンタさっきダンスに誘われたいっていってたじゃん!」

「え?え?待って、怒んないでよ律子、だってね、絶対ムリだよ踊るなんて、
これっぽっちも習ったことなんてないし、わたし……わたしね、ただ誘われるだけで充分なの」

「ふぅ……」深い溜息が律子の口から零れた。それは沈黙が空間を満たす前触れだ。


程なくして重たい口を開いた律子は、サキ、アタシ、と切り出す。
「アンタが何考えてるのかさっぱりわかんないんだ。ねぇ、わかるでしょ?
このままじゃおかしくなるよ、アタシたちぜったい」

私は黙って律子の顔を見つめている。
少し体が震えているけれど、それは笑いを堪えているせいだ。

「アタシね、いまでもアンタのこと好きよ、ポリー・マグー。
でも結局のところアタシたちって、ちょっとしたボタンの掛け違いだったのよ」

この言葉をきっかけに、私は予め用意されたキーワードを投げ掛ける。
「わたしたち、お友達でいられないのかな?」

律子は表情ひとつ変えない。
「アナタが望めばいくらでも裁縫道具くらい貸してあげられるから」

私は自分の両手をチューリップの花のように重ね、ひとつだけ、うなずく。
そして手元に残された『沈黙』のカードを切る。

「……じゃあね」
それだけいい残すと律子はくびすをかえして歩き始める。

私はなす術なくこの場に立ちすくんでいる。

彼女の背中を目で追っている。

こうして律子が私の、この雨に濡れた哀れな子犬のような、ひどく女々しい泣き顔を、遠くの片隅に置き去りにして、くっきりとした闇の中にスクッ!と飲み込まれてしまう――までが、私の仕事ってわけ!

ふぅ〜う…………………………ねぇ律子、あんたってホント面倒臭いわ! 事ある毎にシミュレーション、シミュレーションって、私イイ加減ウンザリなわけ、小芝居染みたセリフだってもう沢山なわけ、セックス関連は勘弁なわけ、たまには桃井かおりにだってなってみたいわけ〜!

でもさ、それは仕様のないことなのよね。私はその為にあなたによって、あなたの頭の中で作られた、都合のいい偶像なんだもの。私には選択権がないんだもの。

最後まで、私はあなたと、踊り続けていくしかないのよ。(了)

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