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妄想小説家たちの集いコミュの悪い子にはオシオキ。【長文注意】

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目の前に広がる人ごみを見つめながら、いい加減諦めはじめていた。


朝のラッシュの時間から駅前のベンチに座って、今はサラリーマンがすぐそばで弁当を広げている。
周りから見れば営業回りの途中で休憩でもしているように見えるはずだ。


「なんだってこんなことになったんだよ」


今日は、自分の担当している企業との打ち合わせを断ってまで来ている。
他人の目を気にして、常に低姿勢に振舞う性質のショウである。
今の保険会社に勤め始めて丸七年になるが、欠勤したのは今日が初めてのことだった。
ぼんやりしながら、そういえばこの辺りは保険の契約者数が多いな、などと考えている。


おかしなものをみた。
昨日の夜、駅からの帰り道のこと。
電信柱の影に、女、のようなものが立っていた。
街灯がパチパチと点滅する。
女のまわりだけ闇が凝るようになっていて、目を凝らしてもどうしても女の輪郭を捉えることができない。
女は、ノイズが混じったような声で呼びかけてきた。


「明日、**駅であなたは、あなたの真実を見ることができる。行かなければならないわ」


どうかしている、と思う。
もちろん自分のことである。
見も知らない奇妙な女の言うことを信じて、朝からこの調子である。
日差しは暖かく、鳩が餌を求めてせわしく歩く様子はいかにものどかであるというのに、自分の周りだけ暗い影が落ちているようだ。
頭の中は昨日の女と遭遇した場面を繰り返し幾度も再生し、自分自身の意識は、未だ昨夜の中にある。
なにか呪いにでもかかっているような気がした。


「いいかげんにしてくれよ」


自分にそう毒づいて、ゆっくりと立ち上がる。
どんなに改札から出てくる人ごみを見つめたところで、いつも通りの風景だけがそこにはあった。


くたびれたスーツの裾を払い、痺れかけた足をもたつかせながら立ち上がった時。
瞬間、悪寒が体を支配する。
さっきまであんなにも人通りの激しかった駅前の広場には、なぜか今では人が殆どいない。
暖かな陽光も、いつの間にか妙な色をした雲に隠れ、気味の悪い暖かさが漂っている。


何か、が、そこに、ゆっくりと


ショウは混乱していた。
瞬きをすることさえ忘れていた。


なぜ、どうして―
たしかに みんな しんだはずだ。
全身が痙攣したようになり、動くこともできない。
しかしショウは、そのことにすら気付いていない。
ただ、呆然としてしまっている。


保険金を依頼人と折半で受け取る。
そう悪くないと思った。
簡単に人は死ぬ。
ちょっと延命装置をいじるだけで、数千万円手に入る。
濡れ手に粟とはこのことだ。
「いつもお見舞いありがとねぇ」
可愛いおばあちゃん。これが俺の仕事なんだ。
行く度におやつに薬を混ぜる。
罪悪感が生まれないのは自分でも不思議だったけど。



目の前には、これまで手に掛けてきた人々の死体が広がっていた。

コメント(3)

こちらのコミュを愛読させていただいております、Qたんと申します。みなさんのを読んでいて、なんだか自分も書いてみたくなってしまいました(^^;

最初は恋愛のお話を書こうと思っていたのに、自分でびっくりしています。。

皆さん、これからもいろんなお話を、どうぞよろしくお願いいたします。

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