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芝田進午の人類生存思想と現実コミュの安倍内閣の総括 アベノミクス 憲法改正 「道半ば」の幻想が本質 中島岳志

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安倍内閣の総括 アベノミクス 憲法改正 「道半ば」の幻想が本質 中島岳志
2020年10月1日 07時00分東京新聞「論壇時評」

 安倍内閣は長期政権だったにもかかわらず、看板に掲げた政策が実現しないまま終わった。

 アベノミクスは当初、「トリクルダウン」という理論を掲げた。これは、富裕者がより豊かになることで、低所得の貧困層にも富がしたたり落ち、利益が再分配されるという経済理論である。しかし、いくら時間がたっても、庶民層に滴は落ちてこなかった。実質賃金は上がらず、預貯金ゼロ世帯は増加した。非正規雇用の数は増え、格差は拡大した。

 憲法改正も折に触れ主張され、右派の期待を集めたが、まったく達成されなかった。

 しかし、ここに安倍長期政権の秘訣(ひけつ)があったとみるべきであると私は思う。安倍内閣の本質は、「実現しないことによって支持を獲得する」というカラクリにあった。安倍が選挙の度に言った言葉がある。――「道半ば」。まさにこの言葉が、安倍内閣を象徴している。

 多くの庶民は、アベノミクスの恩恵を全く感じていない。しかし、一部の人間が株価上昇によって利益を上げ、一部の大企業が内部留保を肥大化させていることを、私たちは知っている。「あの利益がもう少ししたら、自分の所にもやってくるかもしれない」「もう少し支持を続けていれば、自分も恩恵にあずかれるかもしれない」。そんな思いが、安倍内閣に一票を投じる動機付けになったのではないか。

 憲法改正も同様である。コアな右派支持者は、「安倍首相でなければ、悲願はかなえられない」と思い、懸命に支え続けた。北方領土を巡るロシアとの交渉も、拉致問題を巡る北朝鮮との交渉も同様である。彼らは「もう少しで自分たちが主張してきたことが実現する」と期待感を募らせたのだ。

 ポイントは「道半ば」だ。安倍内閣に一票を投じてきた人たちは、ぶら下げられたニンジンを追い続けてきたのだ。重要なことは、ニンジンには決して届かないということ。もう少し、もう少しと思いながら届かないが故に、馬は走り続けるのである。

 武田砂鉄は「安倍晋三首相が辞めたからといって」(ウェブサイトcakes 9月2日)の中で、安倍政治の本質を「『明日からダイエットをやろうと思っています』政治」と評している。安倍は辞任を発表した記者会見で、実現できなかったこととして拉致問題の解決、ロシアとの平和条約の締結、憲法改正を並べ、「痛恨の極み」と述べた。これに対し武田は、「あたかももう少しで達成できたかのような印象を与える言葉遣いだったが、具体的に動いた形跡はない」と論じる。

 まさにその通りだろう。そして、ここにこそ安倍内閣が支持された本質がある。政策が実現することに意味があるのではない。「もう少しで手に届くのではないか」と思わせることに意味があるのだ。ダイエットは永遠に始まらない。しかし、「スリムな私」という幻想だけが持続される。幻想は永遠に達成されないが故に、効力を発揮する。

 安倍内閣のコアな支持母体となってきた日本会議は、首相辞意表明に当たってコメントを出している。安倍内閣は憲法改正について「歴代の総理大臣の中でもとりわけて熱心に取り組んでこられました」と総括し、「次の総理大臣になる方には、現在の路線を受け継がれ、憲法改正の実現に向けて、積極的に取り組まれることを切に望みます」としている。

 安倍内閣は、様々(さまざま)なことを実現せずに終焉(しゅうえん)を迎えた。にもかかわらず、幻想は持続している。このイリュージョンの強度が、安倍内閣の本質にほかならない。
 菅首相は、安倍内閣のカラクリを間近に見てきた人物であり、官房長官として政策を主導してきた政治家である。総裁選では、縦割り行政の打破や地方再生、最低賃金の全国的な引き上げなどを政策として掲げたが、これらは永遠に道半ばとされることで、期待の持続に利用されるのだろうか。

 菅内閣が安倍内閣の何を継承しようとしているのか、じっくりと見極める必要がある。

(なかじま・たけし=東京工業大教授)
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