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めどうのエッセイ&写真コミュのチロル会音楽部 その13

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 何日も前から楽しみにしていたその日がやってきた。誘い合わせて、会場の中央公園に行ってみると、仮設舞台の周りに人が集まり始めていた。子供の自分たちが上がることのできない、憧れのステージ空間を、羨ましげに見上げていると、開演前に、ミスター鹿児島のコンテストが始まった。半裸のボディービルダーたちが、次々に登場し、胸の筋肉をピクリと動かすたびに、水商売らしき女性郡から嬌声が上がるのが、中学生たちには大層気色悪く思えた。中年になった現在であれば、そういった光景に大して特に抵抗も感じないが、時代的にもまだボディービルダーたちのマスコミへの露出度が低かったうえに、とにかくみんな子供だった。そういったものに対する耐性というものが全く無かったので、何故に真面目な演奏の競い合いと、悪趣味なコンテストを同じステージで行なうのか、主催者の考えを疑い、お陰で見たくもないものを見させられて大迷惑だと、散々陰口を叩きあっていた。
 大いに気分を害した後、ようやくお目当ての「勝ち抜きエレキ合戦」(書くたびに笑ってしまう言葉だ)が始まった。気分を入れ替えて、演奏開始を待った。
 最初の演奏は、まだまだギターに触れ始めたばかりという感じで、すぐに興味がそがれ、次の登場を待ちながら、雑談に興じた。続く何組かも似たようなもので、最初の方に初心者を固めたのだろうか、などと話しながら、碌に耳を傾けず、上級者が登場する後半を待ちながら雑談に興じていた。一組、また一組と入れ替わってゆく参加者たち。しかし、演奏のレベルが、上がってゆく気配が一向に感じられない。段々と嫌な予感に包まれ、それと共に、自然としかめっ面になった。
 「この様子じゃ、たぶんこの後も期待できないんじゃないかな?」
 「もしかすると…、そうかもしれないね」
 「だけど、よくこんなので、人前に出てくるよね」
 「何か、腹が立ってきた」
 「拍手してる人たちの気が知れないよ」
 「知り合いなんだろうけどね」
 「これに比べたら、俺たちのほうがま〜だマシだよ」
 「こんなもんだと前もって分かっていたら、来るんじゃなかった」
 「まったく何しに来たんだか分からないね」
 「だけど、一応最後まで聴こうよ。もしかして一組ぐらいはまともな人が出てくるかもしれないよ」

 今考えてみると、そこはただの宴会場だったのである。企画者周辺の人々が、知り合いを集めて、ちょっとした自己満足に浸りながら、面白おかしく盛り上がれればそれで良かったわけで、そのついでに一般に呼びかけて「勝ち抜き合戦」という名称を付け、ステージをでっちあげたみたいな感じだった。要するに、現在のカラオケ感覚である。見知らぬ大人たちのカラオケ・ルームに、真面目な発表の場と勘違いして迷い込んだ子供たち、それが僕らだったのだ。
 がっかりして、ひそひそ声で陰口を交わしあっていると、集団の中に、盛り上がっている周囲の人々とは明らかに様子の違う、高校生くらいの2人組がいるのに気付いた。どうやら、自分たちと同じように落胆しているらしかった。
 彼らに近づくと、どちらからともなく声を掛け合い、期待を裏切られた胸のうちを互いに明かし、バンドを組んで演奏している同士だということも分かり、意気投合してしまった。
年を訊くと、高校生ではなく、同じ中学3年だということがわかった。鹿屋市からこの企画を楽しみに来たのだという。高校生のように見えたのは、被っていた学生帽が、鹿児島市のある高校の制帽のようによく似ていたためだった。
 親の転勤で今は鹿屋在住。鹿児島市にも泊まれるところがあって、ちょくちょく来ることもあるということだったので、互いの連絡先を教えあい、再会を楽しみにしてその夜は別れた。

 少し時間を戻して、これまでの話で、「その7」の中に、自称イジョージ・ハリスンこと伊集院T君という、2年のときの同級生が登場したのを覚えているだろうか? 彼の話の中に、ギターの上手い友だちが出てきたのだが、その噂の人物こそが、こうして中央公園で知り合った日高康寛君だった。
 当時の鹿児島の中学生で、ロックを演奏する子がごく少数で、生の演奏に触れる機会がほとんど無かったということを象徴するかのような、当時ならではの出会いである。
 砂漠で水を求めるかのように、そのステージに期待し吸い寄せられ、それ故に落胆し、その落胆振りを、まるで合言葉のようにして知り合ってしまった中学生。今となってはなかなか考えられないストーリーだ。
 
 次に末原君の家で会ったとき、日高君は自分たちの演奏を録音したものを聴かせてくれた。曲はベンチャーズや寺内タケシといった、いわゆるエレキ・バンドのものがほとんどで、まだ新しく起こりつつあったロックのムーヴメントには触れていないようだったが、演奏の水準は高かった。日高君のギターだけでなく、ドラムの技術もしっかりしていて、パワーと勢いが感じられることに感心して聴き入った。
 その後、自分たちの録音を聴いてもらったが、比較すると、演奏に勢いが欠けているように感じられた。録音を意識して、間違えないようと気にするあまり、小ぢんまりと縮こまった演奏になっていた。その時は、そんな感想を持ったが、その他に、むしろもっと大きな理由があった。周囲から苦情がくるのを畏れ、小さな音でこそこそと合わせているうちに、勢いのない、生き生きとした表情の感じられない演奏になっていた。
その後、どんな音楽を目指しているのかを、互いに話し合った。その時点で、音楽的志向の開きが気にならないでもなかった。心酔していたレッド・ツェッペリンのレコードを聴いてもらったのだが、その時の反応が極めて分かりづらいものだった。
 こちらは、聴き終った途端の、共感と驚きに満ちた好反応を期待し、すぐさま意気投合することを想像していた。当然そうなるだろう、ぐらいに思っていたのだが、日高君の反応はちょっと意外なものだった。
 反応を待つ僕らの視線を少しだけ避けるように、鋭い視線で空中を見つめ、ただ黙って小刻みに数回頷いた。何かを確信したというような顔付きだったが、その口からは何の感想も聞かれなかった。
 その日、彼が帰ってから、一体どう感じていたのかが、当然話題になった。せっかく腕の確かな仲間に出会ったというのに、もし目指す方向が全く交わらなければ、一緒にやっていけるかどうか分からない。ああだ、こうだと、しばし論議は続いた。
 分かり易い反応ではなかった。しかし、はっきり拒否感を示したわけでもなかった。また会おうという約束にはなっているのだから、今、あれこれ考えても仕方がない。それが、ひとまずの結論だった。
 その日聴いてもらった曲は、ジミー・ペイジの無伴奏ソロが含まれる『ハート・ブレイカー』だった。後でわかったことだが、日高君には、そのソロ部分が、メチャクチャに弾いているみたいに聴こえ、ヴォーカルもただうるさいだけで、好い印象が残らず、ほとんど無関心だったのだ。

 (つづく)
  ↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=4734340&comm_id=631230


鹿児島市と鹿屋市の位置関係をご存知ない方のために、鹿児島県の地図が出ているサイトを貼っておきます。平成合併後の地図で、当時のものではありませんが、ふたつの市の位置関係は、分かります。
鹿児島市は薩摩半島、鹿屋市は大隈半島の、それぞれほぼ中心にあります。
http://www.mapion.co.jp/html/map/web/admi46.html

コメント(2)

 久し振りに、ここを覗いてみたら、この時期に「本」という言葉が出てきているのですね。このころは漠然と考えてはいたけど、どうやったら出版できるのか具体的なことは全く知りませんでした。末原君と、鮫島君の鹿児島でのジョイント・ライヴもまだまだ先のことでした。
 現在、出版準備中。少しずつ状況も変わってきてますね。

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