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Antique LaceコミュのPunto Tagliato.

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第38回のトピはレースの歴史上、極めて初期の作品をご紹介致します。

以前のトピでニードルレースの先祖にあたるものがレティチェラであることをお話し致しましたが、このレティチェラはカットワークの技法から発展したことをその折に説明しました。このカットワーク技法の歴史は非常に古く、おそらく古代ギリシャ・ローマ時代には既に基礎となる技法は考え出されていたと考えられますが、これが後のレースへと発展する礎となったのが14世紀頃で、年代が判る最古の遺品がイタリアの古都シエナのプッブリコ宮に所蔵されている平和の擬人像を刺繍した作品で、1340年頃制作されたと考えられています。15世紀に入り調度品から衣服に応用されて流行しました。これをイタリア語でPunto Tagliato(プント・タリアート)と呼び、この技法は以後20世紀に至るまで伝承されていきました。15世紀の作品の大きな特徴はカットされた部分が非常に小さく、大きなモチーフが作られなかったことと、その中をボタンホールステッチで装飾していくのですが、これらは全て幾何柄であり人物や動物、植物的な図案は一切使用されなかったことです。このことはオリエンタルの文化から多大な影響を受けたと考えられ、同時代のペルシア絨毯などから図柄を踏襲したことによると考えられます。

このことから自ずと、このカットワーク技法はイタリア、殊にヴェネツィアで発達し、それは取りも直さずこの街が当時オリエントへ開かれたヨーロッパで唯一の窓であったことが関係しています。この時代、高品質のリネンはむしろフランドル地方で産されたものでしたので、イタリアのそれは前者に比べ劣るといわれていますが、このカットワーク技法に関してはイタリアは他の諸国を凌駕して、名声を欲しいままにしました。

16世紀の中頃から、このカットワークや後のレティチェラを制作する人々に図案を提供する目的で出版されたパターンブックの発刊が始まりますが、その多くはイタリアにおいて為されたことを見ても、そのことを理解することが出来ると思います。1542年にマティオ・パガン(Matio PAGAN)によって刊行された“Giardinetto novo di punti tagliati et gropposi”を嚆矢として、1557年にはイゼッポ・フォレスト(Iseppo FORESTO)とジョヴァンニ・アントニオ・ビンドーニ(Giovanni Antonio BINDONI)によって同様の図案集が出版され、これには後にカットワークから発展し、より複雑な刺繍を伴うIntagliatela(インタリアテラ)の図案も含まれていました。その後、ボローニャのアウレリィオ・パッセロッティ(Aurelio PASSEROTTI)やヴェネツィアのジョヴァンニ・オスタウス(Giovanni OSTAUS)やフェデリコ・デ・ヴィンチオロ(Federico de VINCIOLO)などによっても図案集は刊行され、どれほど当時ヨーロッパでこの手芸技法が流行したかを窺い知ることが出来ます。

世紀の終わり頃にはこのような図案集の傑作といわれるチェザーレ・ヴェッチェーリオ(Cesare VECCELLIO)や自らデザインし版木も彫刻したイザベッタ・カテーネア・パラゾーレ(Isabetta Catenea PARASOLE)、フランシスク・ペルグラン(Francisque PELEGRIN)らによる著名な刊行物となって、その流行の最後を飾ります。

今回、このカットワーク技法が衣服の装飾に取り入れられ流行した初期に当たる、16世紀中期のカットワークの作品を入手することが出来ました。これはおそらく衣服の縁取りなどに装飾されたものが切り取られたものと考えられますが、16世紀のヴァロア王朝治下のフランスで活躍した宮廷画家のフランソワ・クルーエ(François CLOUET c.1510–1572)によって1562年に描かれた調薬師ピエール・ケト(Pierre QUETHE)の肖像(ルーヴル美術館蔵)で、ケトの着用しているシャツの襟と袖口にこのカットワークと全く同じデザインの装飾が施されていることから、2?にも満たないこの小さなカットワークの遺品は1560年頃に制作されたと思われます。ニードルレースの技法はこのような極小さなカットワークから生まれ、発展して18世紀には人々に羨望されるまでの素晴らしい作品を生み出していくことになるのですが、この原始的で単純な作品がその長い歴史の源流であるのはとても興味深いことだと思います。

画像は左から幅1.5cmほどの16世紀中頃のカットワーク作品、ルーヴル美術館所蔵のフランソワ・クルーエ画のピエール・ケトの肖像とその衣装の袖口部分。

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