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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第五十回 作品 匿名B『ママは国民的歌手』

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ゆうのはなし

 おひるねのときに、またこわいゆめをみた。
ぼくがえんえんって泣いてたら、ままがきて、しんぱいそうなお顔をして、それからにっこりして、おやつになった。おとうとのたかちゃんといっしょにぷりんを食べました。
 ほんとうは、ようちえんに行かなくちゃいけないんだけど、まだおやすみなんだって。ままとぱぱはいっしょにおでかけしました。それはきょうじゃなくて、いっしゅうかんくらいまえかな、わすれちゃった。
 その時はおばあちゃんといっしょにあそんだの。たかちゃんはねてた。おばあちゃんのおへやであそんだ。おばあちゃんのおへやには、みどりいろの大きいみしんがあって、ぼくが近づこうとするとおこられるんだ、あぶないって。だからいつもはおばあちゃんのおへやにはいってもいけないんだけど、このときはとくべつ、って。
 ままも、あぶないからだめっていうんだ、いつもぼくがおひるねからめがさめると、ままはどっかにいて、ぼくがさがしにいくと、ままのおへやにいるの。ままー、って呼ぶと
おへやのなかからままが、「はーい、おやつね?」ってでてくる。ぼくがままのおへやにはいろうとすると、だめっていうの。あぶないからって。
 「ままなにやってるの?」ってきいたら、「きると」っていった。ぼくがようちえんにいくためのばっくとか、たかちゃんとぼくのおようふくとかも、ままのきるとでつくったんだって。はりとかはさみとかあぶないからこどもは来ちゃだめなんだって。
 ままはおへやからでてくると、ぼくとたかちゃんとおやつをたべたりあそんだりして、ゆうがたになるとおばあちゃんといっしょにばんごはんのよういをするんだ。いつも、きたかぜこぞうのかんたろうをうたいながら。
 「ままうたおじょうず。」ていったら、ままは「ありがと」っていってわらった。

 萌絵のはなし

 漸く雄一は落ち着いたみたい。それでも時々夢に出てくるらしく、激しく泣きながら
起きてくる。かわいそうで、悔しくて、あいつらへの憎悪でたまらなくなる。一体いつまで私は、私たち家族は、あいつらに生活を引っ掻き回されなきゃいけないんだろう。
 結婚前に書いた手記のせいか。これだけ稼がせてもらったための税なのか。しかしもういい加減、勘弁してほしい。私はすっぱりやめたのだから。
 妹は私のせいで学校でもいじめに遭い、一時はすっかり萎縮してしまった。アメリカ留学して日本から、そして私の妹ということから離れたことによって、随分明るくなってくれたが、今でも本当に申し訳なかったと思っている。
 雄一と孝男には、絶対に妹の轍は踏ませない。
 夫は、こうなってしまう前から人権擁護局に訴えてくれた。それでもあの日はどういう訳だか擁護局は対応してくれず、あんなことになった。夜、ふたりだけになったとき泣き叫ぶ私に、夫は静かに、しかし力強く根気強く宥めてくれ、今後の奴らへの対応を語った。
 この夫がいなければ、本当にわたしはどうにかなってしまう。
 構えて言うつもりもないが、わたしの半生は数奇なのだろう、母も妹もそんな私の運命に巻き込まれて、しかしふたりとも強くいてくれた。夫も、よく私との結婚を決意してくれたものだ。派手さはなく冷静に見えて、私なんかよりずっと豪胆なひとなのだ。感謝の念しかない。
 このまま、家族みんなで、人並みの、ささやかだけど穏かな生活をしていきたい。ちくしょう、そう思う先から、奴らのカメラのフラッシュ、突き出される何本もの槍のようなマイクが甦り、ささやかで穏やかなせーいかぁつうう?と歪んだ音声のレポーターの幻影が私を襲う。くそっくそっ冗談じゃないっ・・・。
 「萌絵、しっかりしてよ。」
 母の厳しい声に、ハッと我に返った。
 「ごめん、大丈夫。」
 母も、蒼ざめた顔つきだ。ああ、落ち着かなきゃ。
 「ゆうはいい子で居てくれたわよ。あたしの部屋のミシンにも興味シンシンで。」
 「えっ、針だけは注意してよ。」
 母の部屋には職業用ミシンが置いてある。
生活保護を受けたこともあったが、それだけは請負業者から借りて内職をし、私と妹を食べさせてくれた。父には別の家庭があり、私たちは所謂日陰者なのであった。
 私が芸能界に入り、急激に入ってくる多額のお金を見ても、母はこのミシンを手放さず、内職用のそれをそのまま買った。今では殆ど用を成していないのだが、母の部屋にそれは、埃もかぶらず置いてある。
 思えばそれは、母と私と妹にとって、家庭の象徴なのかもしれない。私も結婚後しばらくしてから、針を持った。はじめは刺繍から、
出産後は離れていたが、子供たちに手製のものを身につけさせるのは私の喜びになった。
 雄一の幼稚園入園用に、袋物やアップリケのお名前つけを、最近手を出し始めたキルトやパッチワークで彩るのが愉しみだったのに、
あの事件のせいでそれどころではなくなってしまったのだ。
 ふと、作業部屋に入る気になった。
 「お母さん、ゆうとたかちゃん、ちょっと見ててね。」
 「よく寝てるから大丈夫よ。」
 私の作業部屋。机の上には卓上ミシンとこまごました裁縫用具に、最近新しく買ったキルト用の分度器や物差し、コンパスやロットリングペンといった製図用具がおいてある。子供は入室禁止、夫も危ないからという理由であまり出入りは許していない、私の聖域。
 やりかけのまま、針の刺さった布をとりあげる。何日も経っていない、ここまで縫ったら、パパとゆうくんと三人で入園式に行こうねって・・・・・。
 涙が滲んだ。わたしは絶対に、こんなことでは負けない。次に奴らが襲来してきたら、逆にこっちが襲ってやる。ああ、夫の、私を宥める顔が浮かぶ。大丈夫よ、こないだはカメラマンを平手打ちしちゃったけど、もう暴力はしない。だけど息子たちが成人するまで、守るわ。夫と共に、守りあってみせるわ。
 地震の前の、地鳴りのような低い音が聞こえる気がする。自分のこめかみから、熱い血潮の波打つ音、闘いを誓う音なのだと秘かに思った。

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