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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第136回文芸部 ロイヤー作 『檻』  テーマ選択『鍵』

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 差出人のない茶封筒から滑り落ちたのは【鍵】だった。その鍵に付けられている不格好なキャラクターのキーホルダーを見た瞬間、彼女の顔が浮かんだ。

(これは彼女の部屋の鍵だ。間違いない)

 それは二人で旅行に行き、初めて体を重ねた翌日、観光地の寂れた土産物屋で買ったものだった。御当地キャラかなにかのブサイクなキャラクターを、彼女は無邪気に「かわいい」と言って手にとったのを見て、そのキーホルダーを買ってあげたものだ。

 僕たちが暮らしていたのは田舎の町でラブ・ホテルなど近くにはなく、どこへ行っても人目があった。
 そのうえ、当時、僕は高校生だった。
 だから、深い関係になった後、既に社会人として働いていた彼女は実家を出て部屋を借りた。
 僕は、その部屋で、いつでも彼女を抱けることを喜んだ反面、その気遣いというか献身を重いとも感じていた。
 そのマンションの一室は、僕にとってセックスという餌につられて入ってしまった見えない檻のようなもので、中に囲い込まれてゆくような気がした。
 そして彼女の檻の中に囲われることは、自分の可能性を試すことなく、この退屈な田舎町で一生埋もれていくことだと思い、なんとも言いようのない焦燥感に駆られることもあった。

 そこで高校を卒業すると東京の会社に就職して、田舎の町を出ることにした。
 彼女とは別れた。
 別れを告げた日、泣き崩れる彼女の手へプレゼントしたブサイクなキャラのキーホルダーにぶら下がっていた合鍵を無理やり握らせた。

 あれから3年経つ。
 東京での一人暮らしにもすっかり慣れ、その間、何人かの女性とお付き合いをした。

(なぜ今になって、これが僕の元へ? 何があったんだ?)

 気がついたら僕は会社から休暇を取り、あの田舎の町へ向かう電車に乗っていた。
 車窓を流れる景色は、すでに深い秋の装いに染まっていた。山々を覆う燃えるような【紅葉】が、傾きかけた午後の日差しを受けて鮮やかに輝いていた。かつてこの同じ路線で、逃げるように東京へ向かったあの日は、冷たい雨が降る陰鬱な日だった。ガラス越しに広がるむせ返るほどに美しい赤や黄色の色彩は故郷に近づいていく実感をもたらした。

 彼女と過ごしたあのマンションは当時のままそこにあった。
 オートロックはないので、そのままエントランスを抜けてエレベーターに乗り、3階で降りた。
 303号室が彼女の部屋だ。
 息を呑み、チャイムを鳴らした。
 返答はなかった。
 僕は恐る恐る震える手で鍵を鍵穴に挿し込んだ。
 カチャリという音が響き、鍵が開いた。
 僕はドアをゆっくりと開いた。

 部屋に足を踏み入れた瞬間、頭上のセンサーが反応し、無機質な白い明かりがパッと点灯した。
 そこには異様な光景が広がっていた。壁、天井、床の隙間まで、無数の写真がびっしりと貼り尽くされていた。近づいて見ると、それは僕が東京の居酒屋で笑っている顔、僕が別の女性と歩く後ろ姿、ゴミ捨てに出る寝起きの姿……すべて、東京で生活している僕の3年間の記録だった。

  部屋の奥から、ガサリと音がした。
 振り向くとローブを羽織り、その下には扇情的な下着姿をのぞかせている彼女がいた。
「おかえりなさい」
 彼女が僕を見て微笑んでいた。
 僕は背筋がゾッとした。
 彼女は玄関のドアを後ろ手で施錠した。
「やっぱり来てくれたのね。嬉しい。もう離さないわ」
 彼女は妖艶な笑みを浮かべながら近づいてきた。
 僕は彼女を押しのけて玄関から逃げようとした。
 しかし、玄関のドアの内側には閂があり、それが南京錠で施錠されていた。
 南京錠は、暗証番号をダイヤルで合わせるタイプで、彼女から番号を訊き出さないと解錠できなかった。
 振り返ると勝ち誇ったような顔をした彼女がいた。
 ついに彼女の檻に捕らえられたのだと僕は悟った。

コメント(1)

ビデオはネタバレになるので、作品の下に投稿し直しました。

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