徹真斎の妄想徒然草子コミュの仮面ライダーD.V.L vol. 4

陽は西に傾き、空にはやや赤みがさしてきていた。
アミーゴから一時間程の峠道。
二人は道路脇の待避所にバイクを停めていた。
「じゃ そろそろ帰ろっか」
さおりの提案を受け入れ、ミキは今ひとつ晴れない気持ちを無理矢理押し上げた。
「なんか今日はごめんね さおり アタシばっか愚痴々々言っちゃって… でも 久しぶりにアンタと話せて良かったよ」
いくらかホッとしたような表情でそう言いながらミキはバイクに跨がる。
さおりもまたアモンに跨がり、キーをまわそうとした時 周囲の異常に気が付いた。
ー しまった！囲まれた?!
見回すと静かに近付いてきた黒いセダン4台が道路を封鎖するようにゆっくりと停まる。
黒いスーツ、黒い帽子とサングラスに身を包んだ男達が中から十数人バラ撒かれる様に出てきた。
さおり達の正面は崖… 山の壁面があり、背後のガードレールの向こうは切り立った崖、そして二人を囲む男達は口許を歪めて薄く笑いながら包囲を縮めて来る。
「吉田さおりだな…」
リーダーとおぼしき一人の男が訊く。
「え 違いますよぉ？ 人違いじゃないですかぁ？」
「え? 違うの?!」
しれっととぼけるさおり、黒ずくめの男達に動揺が走る。
「と… トラタイガー様?!」
トラタイガーと呼ばれたのは先程のリーダーとおぼしき男だった。
「お前ちゃんと調べたつったよな?!」
「はい！バッチリ調べましたよ!!」
「あいつ違うつってんじゃんｯ!」
「あ いや だだだ大丈夫ですって!! スッとぼけてるだけですって!!」
「なんだと?! そうなのか?! このクソアマ〜！」
トラタイガーと部下のやり取りを見てさおりは思った。
ー この人ばかなのかな…
げんなりする思いとは別の処で さおりはある事を思い出していた。
ゴールとの戦いが始まってすぐ 一文字隼人の提案でアモンに発信器を取り付けた。
かつてのライダー達は互いにモニターし合う事が出来るが 根本的に"改造人間"ではないさおりにはそれが出来ない。
いつどんなタイミングで襲って来るかわからないゴールに対して、何処に居ても連絡がつくようにしなければならない。
さおりとて携帯電話くらいは持っている。
しかし 携帯電話で連絡する時間をくれるほど ゴールも呑気ではなかろう。
そこで 本郷猛や一文字隼人らの周波数に合わせた"救難信号発信器"を取り付けたわけである。
「ふぅ」
まさか こんなにも早くこの発信器を使う日が来ようとは… 小さく一つため息を吐いて、さおりはミキの前に出た。
「ミキ、エンジンかけて アタシが道を開けるからアンタは逃げて」
トラタイガーを睨み付けたまま、ミキだけに聞こえる小声でさおりは囁いた。
しかし これを聞いたミキはその柳眉を逆立てた。
「あぁ？なに言ってんの？アタシがアンタを見捨てて行くとでも思ってんの？」
予想通り過ぎる答えに頭を抱えるさおりの横でミキはポケットに手を突っ込んでいた。
「そりゃあそうだろ お友達見捨てて自分だけ逃げる訳にはいかないよなぁ？」
残忍な声色で言うと トラタイガーの全身が闇に包まれる！
闇の中から表れたトラタイガーは既に黒ずくめの姿ではなく、黄色に輝く体毛に漆黒の縞模様 虎の頭に人間の体をした化物に変じていた。
「！」
ミキの全身に衝撃が走る。
「ふふふ… 驚くのも致し方ないか 我々ゴールの科学りょ…」
トラタイガーの言葉が終わらぬうちにミキの悲鳴にも似た絶叫が峠道に谺する！
「っいィヤァァァ〜ｯ! なにこれなにこれ?! っ超かわいーんスけど！っ超かわいーんスけど！もふりたいもふりたいもふりたぁぁぁぁぁいぃぃ」
「え？ あ いや もふ？いや あの…」
ミキの反応のコレジャナイ感にトラタイガーは狼狽する。
「ぶっふぅ」
困惑と狼狽 あわてふためくトラタイガーのありさまにさおりは吹き出してしまった。
「くっ くそっ ゲラゲラ笑ってんじゃねぇｯ!」
涙を流して笑うさおりにトラタイガーが吠える！
「ﾁｯ 乱暴な言葉使ってんじゃねぇよ!! あぁ?! スッゾコラ!! てめ んなヴィジュアルなんだから"○○だにゃ〜"とか言ってろよハゲ!!」
ドスの利いた声で怒鳴るミキのポケットから抜かれた手にはきらめく小さな金属が握られていた。
メリケンサック 或いは拳鍔、そう呼ばれるこの金属は拳に嵌めて使う武器である。
メリケンサックの放つ鈍い光がさおりの眼を射る。
「ちょっとミキそれ?!」
さおりと背中合わせの位地に立ちながらミキはしれっと答えた。
「最近はなにかと物騒だからねぇ 乙女のたしなみさ！」
ー スパナの代わりか…
さおりはよくわからないものを色々あきらめた。