孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】絵画と政治⑥

【孫崎享のつぶやき】
絵画と政治⑥ノーマン・ロックウェル「「我々すべてが共有すべき問題」
2022-01-24 08:354

ノーマン・ロックウェル（1894年- 1978年）は、軽いタッチで米国の市民生活を描き、米国内で高い人気を有している。

アメリカ合衆国で幅広い大衆的人気を持つ。たまたまあるサイトで著名な米国絵画のランキング（「10 MOST FAMOUS PAINTINGS BY AMERICAN ARTISTS」）を見ていたら、ロックウェルの「欠乏からの自由（FREEDOM FROM WANT）」が９位にランクされている。ちなみに１位はアンディ・ウォーホル作「「マリリン二連画」である。

ノーマン・ロックウェルは日本でも人気がある。アマゾンを検索すると、「少年と犬が出会うポスター」「ノーマン・ロックウェルの若い愛」「暴走」「プロムの後で」等様々な版画、ポスターが売られている。さらにノーマン･ロックウェル湯布院美術館もある。

彼が1916年から1963年にかけて『サタデー・イーブニング・ポスト』紙の表紙を飾り、これ
らの３３２点を集めた『ノーマン・ロックウェル』に解説があるが、その標題は「ノーマン･ロックウェルはアメリカ人が自分自身を見たいと思うようにアメリカ人を描いた」である。つまりおおむね政治色を除いて描いている。

だが、彼の代表作ともいえる１９４３年に描かれた連作「４つの自由」（演説の自由）（信仰の自由）（欠乏からの自由）（恐れからの自由）は政治色の強い作品で、その内の（信仰の自由）は絵画として彼の最高傑作ではないか。又「リベット打ちのロージー」は男性労働者たちが戦争で出兵している間、従来女性が行うものとは思われていなかったような仕事に従事する女性を描き、後の女性運動の象徴的存在になっていく。

しかし、これらは政治的対立を描いたものでない。･ロックウェルの作品で政治的対立を生み、評価の別れたのは「我々すべてが共有すべき問題」である。

１人の黒人の小学生が文房具を持ち、きりりと前を歩いている。４人の男性が前に二人、後ろに二人護衛する形で歩いている。連邦保安官に守られている。画面を見ると、壁にNIGGER、KKKと書かれトマトが投げつけられている。１９６０年、ニューオルリンズの６歳の少女ルビー・ブリジスが白人専用小学校に行くこととなった。その図である。問題は、黒人の少女が保安官に守られて登校しただけではない。白人専用の学校にいっていた全学生がこの学校に通わなくなったのである。それだけに限らない。先生がこの少女に教えるのを拒否し、先生はボストンから来て彼女だけに教えた。ロックウェルは『サタデー・イーブニング・ポスト』紙の表紙を描いてきたが、政治的表紙の掲載を断られ、１９６３年辞める。

その後１０年ロックウェルは「Look」誌で絵画を掲載する。この絵は「Look」誌に掲載されたものである。

ロックウェルの黒人問題への関心はこれにとどまらず、１９６５年「ミシシッピーでの殺人」を描いている。これは公民権運動活動家ジェームス　チャニー、アンドリュー・グッドマンが殺害された事件である。絵画は極めて強烈だ。多分多くのアメリカ人が見たくない絵画だ。「アメリカ人が自分自身を見たいと思うように」ではなく、見たくない絵である。多くのロックウェル・フアンもこの絵は知らない。