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孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】 随想 54 絵画、香月泰男「シベリア・シリーズ」

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2021-06-28 06:475


 私は比較的多く、画集を買う。展覧会で絵を見ても一瞬である。多分画家の伝えたかったことのほとんどが吸収できていない。それで画集を買ってゆっくり眺める。2017年には『香月泰男 凍土の断層』を買った。シベリアでの抑留生活がテーマである。叔父がシベリアで抑留されていた。シベリアを訪れたこともある。ウズベキスタンに勤務した時には、抑留者の墓地も訪れた。シベリアでの抑留は私の意識の中ではそう遠い存在ではない。
 戦争を描いたものには様々な名画がある。香月泰男氏の絵画「シベリア・シリーズ」全57点は日本絵画の傑作であろう。
 香月泰男氏は1943年招集され、1947年帰国までの時期を描いている。召集され満州に送られ、敗戦を迎えてソ連軍の捕虜になり、帰国するまでの間を描いているが、戦闘の場面はない。本人自身、銃を持ち戦っていない。しかし戦争に巻き込まれ、翻弄されている。シベリアでは疲労と栄養失調で多くの友が死に、彼らを埋葬している。「涅槃」「囚」「餓」「星(有刺鉄線)」等がある。
 香月氏は1911年生まれ、1931年に東京美術学校に入学。1934年の国画会初入選作「雪降りの山陰風景」や「1939年文展特選受賞作「兎」は抒情性豊かな作品である。だが絵画「シベリア・シリーズ」の作風は全く違う。具象画の中に入るであろうが、解説がなければ、作者の意図は判らない。「黒い太陽」という絵がある。何故太陽が黒なのか。「青の太陽」という絵もある。「朝陽」と赤い太陽もある。「護」という絵があり、画面の中に小さく男女の写真らしきものがあがかれている。どんなに洞察力がある人物でも、解説なしに、これらの絵の前にたって、画家の意図を理解することはあり得ない。
『香月泰男 凍土の断層』が素晴らしい本になっているのは、各々の絵についての画家の解説がついていることである。例えば、何故「黒い太陽」か。「ハイラル(満州での配属地)はほぼ北緯50度の地点にある。ここでは太陽は中天高くあがるということはない。。。西の地平線に近づく夕日は、いつも大きく見えた。この美しい太陽も、軍隊という檻につながれた私にとっては、希望の象徴であることをやめたように、その輝きを失って、中天に暗黒にみえることもあった」。「朕」という絵がある。「朕の名のため、数多くの人間が命を失った」ことを描いた。横たわる多くの死者の顔。そしておおいかぶさる軍人勅諭。
 彼の作品に「デモ」がある。1973年に描かれたこのである。「私はたまたまま東京でデモを目撃した。私もかつてインターを謳わされて柵の中をねり歩いた。日本に帰りたいばかりに。まったくむなしいねり歩きではあったがーむなしいと思いながらあるくことは悪いことであった。その根性がーそれが戦争につながるのだー。自分の考えをおしとおさねばならぬ。責任を他に転がしてはならぬ。しょせん人間は弱いものだと思い込んではならぬ。人間一人はまったく強いものである.群は強いようにみえるが本当は弱いものだ。人間は一人でいる方が強いのだー」。彼は集合体、それは右も左も、の欺瞞性に気づいている。
 香月泰男氏にとって戦争とは何であったか。「兵にとって戦争とは郷愁との戦いである」。日常を奪える正義に何があるか。「シベリア・シリーズ」の全点を是非一堂に見てみたい。だがこれらは山口県立美術館にあり、作品保護上の観点から常時公開は12−14点らしい。

コメント(3)

岡本太郎氏が「芸術は爆発」といったが、どんな絵にも、作者の心情の吐露があるはずであり、
それが芸術なのだと思う。それが、具象画であれ抽象画であれ。
この上月泰男さんの、シベリア抑留の絵を見てみたいですね。
>>[1]
はい。私も知らなかったので一度拝見したいです。

毳"毳"さん
「イイネ」を有難うございます。

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