孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】本：アメリカに潰された政治家たち（文庫本化）。序章①（追加）

②「非合法、反モラル」を行う組織が世界に公的に存在。朴正煕大統領暗殺のケース。サダム・フセインのケース、イランのシャーのケース。田中角栄追放にキッシンジャー関与。小沢一郎、意外に岸信介。
2021-05-01 07:332

「非合法、反モラル」を行う組織が世界に厳として存在するのです。
　CIAでは表に出てきている部局に特別行動部（Special Activities Division、SAD)があります。この部局は「特別行動」を行うのですが、それは非合法的活動を行い、準軍事活動を行います。
「非合法活動」ですから、いかなる行動をしているかは公表されません。工作に従事する人の名前は非公表です。これを公表することは犯罪となっています。
　従って、一般には工作内容、工作従事者が知られない体制をとっています。しかし、公表されないことは、そうした活動が存在しないことを意味しません。
　米国が行ってきた世界での直接的、間接的殺害ないし放逐の例を見たいと思います。
（１）朴正煕大統領暗殺のケース
　韓国の朴正煕大統領は任期が1963年12月17日 – 1979年10月26日です。
　長期政権で強固な支配体制を築いていますので簡単に排斥できません。
　朝鮮戦争を経た時期の大統領ですから、成立において米国の支援がなかったことは考えられませんが、国内的に弾圧政治を行っていました。そこに米国ではカーター大統領が人権重視の政策を推進します。ここでカーター大統領と朴大統領の対立が深刻化します。元大統領府（青瓦台）に勤務したことのある韓国大使が私に内密に話してくれた内容を紹介します。
「朴大統領暗殺前の米韓関係は大変に緊張していました。
　米国が大統領府に盗聴器を仕掛けました。怒った朴大統領は在韓米国大使公邸に盗聴器を仕掛けたのです。そうした中、１９７９年６月末でカーター大統領が韓国を訪問し、協議のため、朴大統領を訪ずれます。ここでカーター大統領は韓国の人権抑圧に言及します。これに対し朴大統領は“あなたの国では黒人を抑圧しているではないか”と切り返します。怒ったカーター大統領は席を立ちます（彼はこの時間を会って１０分内に生じたと述べています）。カーター大統領は憤懣を駐韓米国大使にぶちまけたいと思いますが、米国大使公邸は韓国側が設置した盗聴器が稼働している可能性があります。二人を乗せた車は韓国市内をぐるぐる回っていました」
　そして、1979年10月26日、朴大統領は側近である金載圭情報長官により暗殺されました。享年61歳。暗殺した金載圭情報長官はその場で射殺されます。こうした事件の場合、殺した本人もまた暗殺されるのが通例です。
（２）イラクのサダム・フセインのケース
　サダム・フセインはイラク戦争の中、2003年12月13日、隠れ家の庭にある地下穴に隠れているところを見つかって逮捕され、2006年12月30日、アメリカ軍拘置施設からイラク側刑務所で絞首刑による死刑が執行されました。
　サダム・フセインとアメリカとの関係はどうだったのでしょうか。
　私はイラク勤務をしていた時、元バース党幹部、閣僚であった人物から次のように聞きました。
「あなたはサダム・フセインという人物がどう台頭してきたか知っているか。
　もともとバース党員でしたが、単なる下っ端だった。バグダッドでの暗殺事件に関与したのですが、その時は単なる見張り役にしか過ぎなかった。シリアに逃げ、エジプトに行き、ここで莫大な資金を持ってバグダッドに帰ってきた。この資金を使い、副大統領になった。では誰が資金提供をしたか。米国以外に考えられない」。
　まず、サダム・フセインは米国によって育てられた指導者です。イラン・イラク戦争の米国の支援によって勝利した側面があります。この時にはサダム・フセインが化学兵器を使用しましたが、米国は黙認しています。
　イラン・イラク戦争以降、サダム・フセインは米国の指示を受けることなく独自路線を強めすぎたのでしょう。
（３）イランのシャーのケース
　イランのシャーのケースは少し複雑です。
　国王としての在位は1941年9月- 1979年2月です。
　国王の在任中、モサデク首相が1951年石油国有化を進めソ連に接近します。1953年にCIAとMI6の支援でクーデターが起き、モサデク首相は失脚し、シャーは権力を回復します。
　しかし、１９７０年代石油価格の高騰で、イランの財政が潤い、シャーは独自の行動をとり始めます。
　ここで西側諸国はシャーの排除を決めます。
　米国はイランの中の民主化運動を支援し、国民の反シャー運動を盛り上げます。米国はシャー打倒に向かうため、反対勢力の支援を行います。CIA等は、革命後米国と対峙することになる宗教家ホメイニとも接触します。そして、重要なポイントですが、米国が育ててきた軍、秘密警察に民衆の革命の動きが出ても動くなとの指示を行います。
　日本の代表的なケース、田中角栄潰しに米国は関与したのでしょうか。それを示す米側の資料はあるのでしょうか
　戦後「アメリカに潰された政治家たち」がいるとすれば、その筆頭は田中角栄元首相でしょう。田中角栄元首相はロッキード事件で逮捕され、結局政界への引退を余儀なくされました。では、このロッキード事件の背景にアメリカが存在するでしょうか。
　「うん、それはありうる」
「そんなのは誇張だ。単なる陰謀論にすぎない」
　実は、これに回答を与えているのは中曽根元首相です。政治家は引退した後、自叙伝を書くことが多いのですが、「その話は墓場までもっと行く」という姿勢から、自叙伝で重要事件の核心に言及することはありません。その中、中曽根元首相の『天地有情』（１９９６年、文藝春秋）は日本政治を切り込んだ自叙伝としては類まれな素晴らしい本です。その中次のように書いています。
「キッシンジャーは私が首相を辞めた後ですが、『ロッキード事件は間違いだった』とひそかに私にいいました。キッシンジャーはロッキード事件の真相については、かなり知っていたのではないでしょうか」
　ロッキード事件は闇の事件ですから、当事者でなければ、「真相についてかなり知る」ことはできません。「間違いだった」というのは、自らの関与への反省の言葉です。