孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】憲法９条京都の会、５月３日ビデオメッセージ内容：

初めに「私達には新思考が必要。いづれかの陣営を軍事的勝利に導く手段ではない。そうした手段は最早存在しない。どんな手段をとれば軍事的な争いを防止できるかという問題である」（アインシュタインらの声明）
2020-05-04 08:00
本日は、日本の安全と憲法について話してみたいとおもいます。
１：話の核心は、「軍事で外国の軍事攻撃を防ぐことは出来ない」ということです。大胆な問題提起です。　核兵器、そしてそれを運ぶミサイルの開発によって、防御は出来ないのです。
　　皆さん、次の発言を聞いたことがありますか。　「私たちには新たな思考法が必要である。いづれかの陣営を軍事的勝利に導く為の手段ではない。そうした手段は最早存在しない。そうではなく、どんな手段をとれば双方に悲惨な結末をもたらすに違いない軍事的な争いを防止できるかという問題である。」
　　誰が、いつ発言したのでしょう、　　実はこの発言は京都との関係があるのです。　　この発言は核兵器の危険性を前に、1955年なされました。　誰によってでしょう　　ノーベル賞受賞者など１１人です。この中にはアインシュタインもいます。バートランド・ラッセルもいます。そして湯川秀樹もいます。
　「軍事で相手の軍事行動は守れない、軍事的な争いを防止できるか」というと、しばしば、夢を述べているという人がいそうですが、1955年、世界の最も知的に優れた人々１１人がその発言をしているのです。　この時代から、事態は一段と進化しました。
　ミサイルの開発です。　ロシアや中国や北朝鮮が弾道ミサイルを撃ってくる時、落下速度は秒速２０００メートルから３０００メートルです。これを撃墜するというのは不可能の技です。
　それだけではありません。これらの国が日本にミサイル攻撃した時、どこからいつ発射したかわかりません。どう飛んでいるかも判りません。より重要なことは、これらの国が攻撃する時は、日本の政治、経済、社会を破壊するために撃ってきますが、どこに着弾するかわかりません。着地点が解らなければ、このミサイルの軌道が解らない。軌道が解らなければ、迎撃ミサイルがどこをめざして飛べばいいかわからない。
　政治、経済社会の中心を攻撃するミサイルに対する有効な防衛はあり得ないのです。
　一つの事件をご紹介しましょう。本年、米軍無人機がイランの司令官を殺害しました。それでイランは、イラクにある米国軍事基地に１０数発のミサイルで攻撃しました。８時間前に米軍はミサイルが来ることを知っています。できたことは兵隊を皆バンカーと呼ばれる防御施設に入れることだけです。その恐怖で１００人以上がPSD障害にかかっています。
　私達は米軍に守られていると思っていますが、実は守られていません。早守れないのです。　例として尖閣諸島を考えましょう。　尖閣諸島周辺で、助けに来たアメリカ軍と、中国軍が戦ったとします。　どうなるでしょう。　皆さん、米軍が勝つと思っていると思いますが勝てません。　戦争では制空権は極めて重要です。米国の戦闘機と中国の戦闘機と戦うとしましょう。中国はロシアの戦闘機を導入しているのでそう簡単に負けませんが、米国が有利としましょう。でも米軍は勝てないのです。
　戦闘機はどこかの基地から飛び立たなければなりません。途中空中給油なしに戦闘機が尖閣諸島への往復と戦闘を出来るのは沖縄の嘉手納基地しかありません。中国は日本を攻撃できる短距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル、クルーズミサイルを１２００以上持っています。中国のミサイルの命中精度が飛躍的に高まり、基地の滑走路や施設を破壊すれば飛び立てないのです。
　このことは日本の戦闘機にも当てはまります。F３５を買ったって、戦闘になれば基地にミサイルが撃たれ飛び立てません。
　通常兵器を越えて、核兵器の分野はどうでしょうか。これも存在しないのです。　「核の傘」で守られていると思いますが、ないのです。「核の傘」とういうのはどう機能するか考えてみましょう。　上空を見てください。何も傘はありません。　核の傘とは概念なのです。
① 日中で外交が決裂し、中国が日本に「核兵器で攻撃する」と脅します。
② 日本は米国に助けてと言います。
③ 米国は中国に、「日本に核兵器で脅すのは止めろ、もし攻撃したら西安や南京を核攻撃する」といいます。
④ 中国は「私は米国とは戦争してない。もし西安を撃つなら、その見返りにシアトルやユタ州に核攻撃します。
⑤ どの米国大統領であってもシアトルやユタ州への核攻撃を容認できる人はいません。核の傘はないのです。
Ⅱ我々のなすべきことは戦争をしない道を探すこと
　この講演の冒頭に湯川博士などが述べた①軍事的勝利に導く為にとられる手段はない②問いかけるべき質問は、軍事的な争いを防止できるかという問題であるが求められていることです。
　第二次大戦以降、軍事紛争は３つのカテゴリーでした生じていません。　一つは領土問題、　二つ目に内乱、朝鮮戦争、ベトナム戦争、誰が統一するか。これに大国の利害がからむ。　三つ目にアメリカが世界に展開している自国側に入れようとする「民主化への戦争」
　日本に関して言えば、中国との尖閣諸島問題、韓国との竹島問題、ロシアとの北方領土問題です。
　これはそれぞれの経緯を持っているので、解説には時間がかかるので、領土問題を画期的に解決した南極条約について言及します。
　昔、多くの国は南極に探検隊を送りました。そして領有権を主張しました。
　放置しておくと、領有権を巡り戦争になります。それで次のことを決めました。
① 領有権の主張は棚上げにする。
② 軍事施設を置かない、
③ 地下資源の開発は当面行わない。
ここで北朝鮮の問題に言及しておきたいと思います。多くの人は北朝鮮の核兵器保有に危機感を持っています。核兵器の権威キッシンジャーは『核兵器と外交政策』の中で、次のように述べています。
　・核保有国間の戦争は中小国家であっても、核兵器の使用につながる
　・核兵器を有する国はそれを用いずして全面降伏を受け入れることはないであろう、　　一方でその生存が直接脅かされていると信ずるとき以外は、戦争の危険を冒す国もないとみられる
　　・無条件降伏を求めないことを明らかにし、どんな紛争も国家の生存の問題を含ま　　ない枠を作ることが米国外交の仕事である
Ⅲ　戦争続ける国家になった米国、そして日本の関与を求める
　冷戦が終わりました。　１９９０年代初頭米国にとって最大の脅威はどこだったでしょう。日本です。　米国の鉄鋼産業、自動車産業は日本の輸出で倒れそうになります。ニューヨークのシンボル的建築ロックフェラーセンターは三菱地所が買います。文化の象徴ハリウッドの映画会社をソニーが買います。　この時代マクナマラ元国防長官は、資源を軍事から経済にと主張しますが、排斥されます。世界最高の軍事力を維持し世界に君臨していく方針が決められます。　そこで問題は敵を誰にするかです。イラン・イラク、北朝鮮の様な不安定な国々が核開発をするのを止める、つまり軍事介入する方針を出しました。　ここから、では日本とドイツをどうするか、もしこれらが軍事に介入しないと経済格差がつく、それで、日独を巻き込む方針が出されます。　第二次大戦以降の世界秩序は国連憲章を基本としました。
・この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
・すべての加盟国は、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
　これを守れば、今日のイランやイラク、北朝鮮の緊張はないのです。　日本を軍事利用しようとしても憲法があります。従って改憲せよという圧力が来ます。
　憲法改正は日本の自発的要請ではなくて、日本の自衛隊を米国の戦略のために行うものです。
　しかし、日本の指導者は国益を重視して政策判断をするのであり、米国のために王道することはないであろうとお考えになると思います。
　しかし、戦後史を見ると違うのです。
　米国は当初、日本を戦争の出来ない国、民主的国家にすることを考えました。
　しかしソ連との対立が激化すると、日本の利用を考えます。それで第二次大戦に突入させた人々を使うことを考えます。この人達は本来追放させられている人です。米軍に忠誠を計ることで、社会活動が認められました。
　政界では開戦時の大臣であった岸信介や賀屋興宣、
　最高裁裁判長には東大法学部長であった田中耕太郎、
　検察には公安検察だった井本臺吉、布施健
　マスコミでは読売の正力松太郎、朝日の緒方竹虎
　学会でのアメリカ学会等
　アメリカ学会というのは批判を含めアメリカを研究するのでなく、協力するために作られたのです。
　日本社会には政治家、官僚、裁判所・検察、マスコミ、学者等、日本の利益ではなく、米国の利益を最優先にすることで構成されているのです。
追随勢力は代替わりしても今日の日本の中枢にいるのです。それは不思議なことに右翼的発想をする人々に根強く残っているのです。
Ⅳ　戦争できる国への憲法改正は何をもたらすか
　戦争するということは非合理選択です。
　それは民主主義国家、人権を守る国では難しいことです。
　したがって九条改定は、緊急事態条項など民主主義体制、人権擁護を覆す動きとセットになって出てきます。
　実は日本はその道を歩んでいます。
　朝鮮戦争の時、警察予備隊が出来ました。後藤田正晴（後官房長官）、内海倫（うつみひとし）後防衛次官は、警察予備隊は朝鮮戦争に持っていくことを考えているとみなしました。
　この時、警察予備隊は法律で出来ていません。政令です。緊急事態の際、国会ではなくて政令で処理しようという流れが存在しているのです。
　朝鮮戦争が始まったのは１９５０年６月２５日。そして７月２９日日経新聞三面は次の出しで報道します。「報道界の赤色分子解雇」この中で、各報道機関の解雇者数を次のように報じます。朝日七二、毎日四九、読売三四、日経二〇、東京九、放送協会九九、時事一六、共同三三．「共産党シンパ」ということで言論界が解雇されているのです、
　憲法改正は日本を米国の戦略、それもイスラム圏を敵に回すという危険な中に入れ込みます。安全が増すのではありません。イランは攻撃は米国のみでなく、その同盟国にも向かう」といっています。　そして戦争に加担する国にするということは、民主主義を壊し基本的人権を踏みにじる国にするのです。