＝アレックス・ナンズ著、藤澤みどり、荒井雅子ほか訳
今週の本棚 伊東光晴・評 （岩波書店・３９９６円）
激しい内部抗争描く 毎日新聞 2019年4月21日 東京朝刊
コービンは現英国労働党党首。
この本は、労働党の激しい内部抗争を描いた、類のない本である。
対立は、議員団の多数派（主として、旧ブレア、ブラウン派）対
多数の党員の支持の上に立つ党首コービン。
対立する政策は、新自由主義の前者と福祉国家をめざす左派である。
２０１５年５月の総選挙で、新自由主義に堕した労働党は、
保守党に敗れ、永年の地盤であったスコットランドを、
福祉国家を求めるスコットランド国民党に奪われ、党首は辞任する。
こうしてはじまる党首選の４カ月が本書の大部分である。
左派は、０７年と１０年と、２度の党首選に候補者をたてることが
できなかった。
立候補に必要な議員の推薦、３５人を確保できなかったからである。
左派の歴史は衰退の歴史だった。
温厚なコービンが皆に立候補を促される。
左派議員は２０人いるかいないかである。
そうしたなか、『ガーディアン』紙に大企業との対峙（たいじ）を
いとわず、反緊縮財政を提示する新党首を、という公開書簡がのる。
投稿もある。
コービンは立候補を決意する。
立候補締め切りまであと１２日ほどである。
推薦議員を集めるのは、文字どおり薄氷をふむ思いで、やっと、
どうにか確保する。
党首選は１３年に改革されていた。
間接選挙から直接選挙に。
党員１人１票。
党員でなくともサポーターになれば投票できる。
ただし立候補には議員推薦３５人が必要。
立候補したのは４人で、マスコミはコービンを泡沫（ほうまつ）
候補視している。
コービンはただ一人反緊縮政策を高くかかげる。
時がコービンを利していく。
サッチャーによる弾圧と緊縮財政によって痛めつけられた労働組合が、
左傾し、ただ一人の反緊縮政策のコービンを強く支持する。
本書にはないが、イギリスを代表する名監督ケン・ローチが
労働党の再生を願って１３年末に発表した映画「１９４５年の精神」
が大ヒットし、多くの人、とくに学生、若者、知識人に、戦後の福祉国家
建設への熱い思いを想起させ、これが、コービン支持の大きな波となる。
さらにこの時、保守党が提出した、いっそうの緊縮政策に、議会労働党が
反対せず、４８人が党議拘束に反して反対票を投ずる。
これらのことが、コービン支持をかりたて、コービンの集会は、
コンサート会場のように、人がつめかけだす。
結果はコービンが５９・５％と圧勝である。
だがこれで終わらない。
反コービンの書記局と職員は、多数の議員団とともに反コービンを続け、
翌１６年６月に議員たちによる党首批判の集会が開かれ、
罵声がとびかい、辞任をせまる。
だが９月にかけての再度の党首選でコービンは６２％を得て再選される。
本書初版はここで終わっている。
この訳書は、第二版で、これに続く総選挙ーー労働党の混乱に乗じて、
保守党が行った総選挙の一章が付加されている。
世論調査では、保守党指示が５０％、労働党は２５％である。
これを保守党の過半数割れにまで持ち込む。
本書を読んで不可思議なことは、反緊縮というケインズ的政策が、
なぜ左派の政策なのか、正しい政策ではないのか。
と同時に、労働党多数派が、なぜこれほどまでに変質したのか、である。
本書を読むと労働党についての先入観が変わるだろう。
訳者あとがきは、とても良く一読をすすめたい。
＝＝
今週の本棚 伊東光晴・評 （岩波書店・３９９６円）
激しい内部抗争描く 毎日新聞 2019年4月21日 東京朝刊
コービンは現英国労働党党首。
この本は、労働党の激しい内部抗争を描いた、類のない本である。
対立は、議員団の多数派（主として、旧ブレア、ブラウン派）対
多数の党員の支持の上に立つ党首コービン。
対立する政策は、新自由主義の前者と福祉国家をめざす左派である。
２０１５年５月の総選挙で、新自由主義に堕した労働党は、
保守党に敗れ、永年の地盤であったスコットランドを、
福祉国家を求めるスコットランド国民党に奪われ、党首は辞任する。
こうしてはじまる党首選の４カ月が本書の大部分である。
左派は、０７年と１０年と、２度の党首選に候補者をたてることが
できなかった。
立候補に必要な議員の推薦、３５人を確保できなかったからである。
左派の歴史は衰退の歴史だった。
温厚なコービンが皆に立候補を促される。
左派議員は２０人いるかいないかである。
そうしたなか、『ガーディアン』紙に大企業との対峙（たいじ）を
いとわず、反緊縮財政を提示する新党首を、という公開書簡がのる。
投稿もある。
コービンは立候補を決意する。
立候補締め切りまであと１２日ほどである。
推薦議員を集めるのは、文字どおり薄氷をふむ思いで、やっと、
どうにか確保する。
党首選は１３年に改革されていた。
間接選挙から直接選挙に。
党員１人１票。
党員でなくともサポーターになれば投票できる。
ただし立候補には議員推薦３５人が必要。
立候補したのは４人で、マスコミはコービンを泡沫（ほうまつ）
候補視している。
コービンはただ一人反緊縮政策を高くかかげる。
時がコービンを利していく。
サッチャーによる弾圧と緊縮財政によって痛めつけられた労働組合が、
左傾し、ただ一人の反緊縮政策のコービンを強く支持する。
本書にはないが、イギリスを代表する名監督ケン・ローチが
労働党の再生を願って１３年末に発表した映画「１９４５年の精神」
が大ヒットし、多くの人、とくに学生、若者、知識人に、戦後の福祉国家
建設への熱い思いを想起させ、これが、コービン支持の大きな波となる。
さらにこの時、保守党が提出した、いっそうの緊縮政策に、議会労働党が
反対せず、４８人が党議拘束に反して反対票を投ずる。
これらのことが、コービン支持をかりたて、コービンの集会は、
コンサート会場のように、人がつめかけだす。
結果はコービンが５９・５％と圧勝である。
だがこれで終わらない。
反コービンの書記局と職員は、多数の議員団とともに反コービンを続け、
翌１６年６月に議員たちによる党首批判の集会が開かれ、
罵声がとびかい、辞任をせまる。
だが９月にかけての再度の党首選でコービンは６２％を得て再選される。
本書初版はここで終わっている。
この訳書は、第二版で、これに続く総選挙ーー労働党の混乱に乗じて、
保守党が行った総選挙の一章が付加されている。
世論調査では、保守党指示が５０％、労働党は２５％である。
これを保守党の過半数割れにまで持ち込む。
本書を読んで不可思議なことは、反緊縮というケインズ的政策が、
なぜ左派の政策なのか、正しい政策ではないのか。
と同時に、労働党多数派が、なぜこれほどまでに変質したのか、である。
本書を読むと労働党についての先入観が変わるだろう。
訳者あとがきは、とても良く一読をすすめたい。
＝＝
|
|
|
|
|
|
|
|
孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見 更新情報
-
最新のイベント
-
まだ何もありません
-
-
最新のアンケート
