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孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【色平哲郎氏のご紹介】 払えない人でも契約上、井戸水や雨水を使うことすら許されない

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公共サービスの再公営化がなぜ進んでいるのか
民営化の失敗を繰り返さないために
岸本聡子  岩波書店「世界」2019年6月号掲載

ーー岸本さんはアムステルダムのNGO「トランスナショナル研究所」で、
水道事業をはじめとする世界の再公営化の事例を研究されてきました。
日本では昨年末の臨時国会で改正水道法が可決成立しましたが、
世界では再公営化の波が勢いよく広がっているそうですね。


私たちが行なった調査では、2000年から16年末までの17年間で、
世界33カ国267例の水道再公営化事例を確認しました。
再公営化の理由は、民間業者のずさんな管理運営や財務の不透明性、
水道料金の高騰や投資不足によるサービスの低下などです。

2010年にパリ市が水道事業を再公営化したことが大きな転換点に
なったと言われています。
パリ市では、シラク元大統領がパリ市長時代の1985年に、水道事業の
運営をヴェオリア社、スエズ社の2社と委託契約しました。
これら民間企業との契約が2010年代に集中的に更新期を迎えた際に、
再更新しない事例が相次いだことが再公営化の背景にあります。
「水メジャー」と言われるこれらの巨大企業は、国内市場が飽和した後、
海外各地に積極的に進出しています。
その本拠地であるパリで再公営化が行なわれたことは非常に大きなことでした。


・民営化の波と「水戦争」

海外に積極的に進出している水メジャー企業は、1996年には
民間シンクタンクの「世界水会議(WWC)」を設立。
一見、国連の会議であるかのように見せかけながら、「世界水フォーラム」
という、水道の民営化を推進する世界会議を行なってきました。
2003年には第3回世界水フォーラムが京都で開催されています。

当時は、規制緩和を進めあらゆるものを市場化していく新自由主義的な考え方
が急激に台頭し、さまざまな公共サービスの市場開放が進められていました。
水政策でも、「フルコスト・リカバリー」、つまり水道にかかる費用をすべて、
使う人のお金でまかなうという考え方をベースに民営化が推進されました。
この考え方は一見、当たり前のように見えますが、先進国の水道の歴史を
見ればまったく正しくありません。
なぜなら、本来水道事業は、国が長い時間をかけて社会基盤整備として
行なってきたものだからです。
特に下水道の整備は一朝一夕ではなく、日本をはじめ世界の多くの国が100年
ほどの時間をかけ、税金を使って整備してきた。
つまり、水道インフラは国の財産であり国民の財産なのです。

実際、まだインフラが整っていない発展途上国では、必要としている人に対して
水の供給が追いついていないため、すべての人に給水できず、下水も多くが
処理されていません。
このような、社会投資ができていない地域で、貧困に苦しむ人たちが
水道料金を負担することは実質的に不可能です。

けれども発展途上国においては、国際金融機関が融資の条件として
民営化を強引に推進する一面がありました。
また、水メジャー企業もこれら世界の「水問題」を解決する手段は「民営化」
しかないと、大規模な世界フォーラムを定期的に開催し、
国際的な水政策に大きな影響を与えてきたのです。
その勢力がもっとも大きかったのが90年代後半から2000年代前半でした。

このような水メジャーの動きに対抗し、世界各地で生まれたのが「水の正義」
を求める運動です。
2001年にボリビア第3の都市コチャバンバで起こった「水戦争」
がその大きなきっかけとなりました。

コチャバンバでは90年代末に水道を民営化した結果、水道接続のために
200ドルものお金を払わなければなりませんでした。
到底普通の人が払える金額ではなく、払えない人でも契約上、
井戸水や雨水を使うことすら許されないという状況でした。
そもそも、水は人間にとって絶対になくてはならないもので、値段が高いから
節約するというような選択肢はありません。
いわば人間の生存権を否定するような民営化の動きに対して民衆が蜂起し、
死者が出るまでの衝突が起こったのです。
結果、政府は民営化を中止しました。

この象徴的な戦いがきっかけで、世界中で「 Global Water Justice(水の正義)」
を求める運動がつながりました。
人間にとってなくてはならない水の権利を守るという極めてシンプルで
分かりやすい運動で、組織化しているわけではないのに、各地の運動の
ネットワークは今も国を超えて強く結ばれています。


・民営化の何が問題か

ーー日本でも小泉政権下で、「規制緩和」の名の下に公共事業の民営化の波が
起こりましたね。

公共サービスの民営化と言っても、全ての民営化が悪いわけではありません。
たとえばホテル事業などもかつては国営だったわけですから。
しかし、水やエネルギー、住居など、人間の生存に関わる重要な部分は
きちんと区別しなくてはなりません。
すべての人の生存に必要であるということは、ビジネスにすれば必ず利益が
上がるということです。
そこに企業の論理を入れてしまうのはとても危険なことです。
・・・
現実には、企業が水道事業投資のために作った借金を、内部留保でまかなう
ことはありません。
つまり、その借金とそこに乗せられる高い利子は全部、人々の水道料金で
30年以上もかけて返済されるわけです。
民間企業の借金は自治体のバランスシートには直接載らないので、借金が
あたかもないような「イリュージョン」を生み出すのです。
公共事業であれば利益は事業に還元されますが、企業では利益はまず株主に
配当されます。
これは企業の論理として当然のことです。
つまり、どう考えても、民営水道のコストは公共でやるより高くなる。
水道料金は簡単には上げられないので、他でコストを削減するしかありません。
それは主に賃金と投資です。
・・・
民営化後は、自治体の議会が技術や財産の情報を出せと言うことはできますが、
何の情報を出すかは企業の自由なのです。
・・・
残念ながら、日本においては公的なセクターの透明性が
必ずしも高いとは言えません。
だからこそ、公企業そのものをどんどん開いていって、地域の住民や
現場の労働者の智恵を吸収していくような強さを身につけていくべきです。

水道システムを維持するための自治体の負担がどの程度か公開し、
その上で値上げを議論するべきです。
施設のダウンサイズ、組織改革、水源保全、利用者参画、人材育成、
公公連携など、民営化の前にできることはいくらでもあります。
・・・
パリの水道公営化については
・・・
コンセッションというやりかたが、高コストで非合理だと自治体が判断した
というのは、興味深い現象だと思います。

一方でドイツやイタリア、スペインなどでは、住民側から求めて議会を動かした
ケースも多々あります。
特に、草の根的な運動の力が発揮されたのがイタリア、スペインです。
これには緊縮財政の問題が大きく関わっています。
・・・
EUは今や完全に新自由主義を深化させるプロジェクトになっています。
市民や自治体の方向を見ずに、大企業が仕事をやりやすくするルール
作りに献身している。
その結果、格差社会が広がっています。

自分たちの預かり知らぬところに富が蓄積されて、ごく一部の富裕層が
恩恵を受けています。
そんな状況に対する怒りが蔓延していますが、中道左派が労働者(普通の人々)
にビジョンを示せていないため、社会民主党の勢力は各国で大幅に縮小しています。
労働者の疎外感や怒りは極右勢力に取り込まれやすく、移民や難民、
女性などさらに弱い人たちに怒りを向けています。
そんな状況で公共システムの解体が進めば進むほど、医療や教育、福祉
サービスを受けられず、影響を受けるのは普通に働く労働者や低所得者です。
社会の不安定化と公的セクターの解体は無関係ではないのです。


・・・
・わざわざ失敗することはない

ーー日本では、世界の再公営化の波に逆行するように、
水道事業の民営化が進められています。

日本では、「公」ということの定義や意義が社会で共有できていないことが心配です。
公的サービスというだけで信頼が低く、民営のほうが効率的、というような
根拠の乏しい「イリュージョン」が蔓延しています。
しかし、逆の見かたをすれば、ヨーロッパは、公の解体が進んだ結果、
市場原理が深く生活を規定し、その弊害が大きくなってしまったからこそ、
今、見直しをせざるを得ない状態にあるということです。
日本の水道や電力サービスはヨーロッパと比べれば守られています。
日本の地方自治体を見れば、非常に面白い希望の兆しは多く見えてきています。

日本のみなさんに私が強く言いたいのは「わざわざ失敗することはない」
ということです。
資本家や多国籍企業をわざわざ儲からせるために、社会の公共財を切り売り
するようなことをする必要はまったくありません。
必要なのは公的セクターやサービスの民主化です。
すべてを容易に解決してくれる魔法はなく、それぞれの地域にあった道を
丁寧に探していくことが大切だと思います。
公共サービスの再公営化は、民営化の失敗を映す「鏡」なのです。

(2019年1月18日 協力=岩崎眞美子)

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岸本聡子さんが所属するオランダのNGO、トランスナショナル研究所
が2017年に公表した
『再公営化という選択ーー世界の民営化の失敗から学ぶ』
によれば、調査が行なわれた2000年から2016年末までに、
世界45カ国、1600以上の都市が公共サービスの公営化・再公営化
に関わり、少なくとも835例が実施されている。
(以下で全文ダウンロードが可能。https://www.tni.org/en/RPS_JP

水道事業の再公営化だけではなく、ごみ収集サービスの再公営化
(ノルウェー・オスロ)、コニュニティークリニック(デリー・インド)、
郵便サービス(アルゼンチン)、新設私立電力会社(ハンブルク・ドイツ)など、
さまざまな成功例が具体的にレポートされている。

コメント(1)

すーちゃんさん

いつもお世話になりお礼申し上げます。

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