孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】2018-05-06 07:38

【孫崎享のつぶやき】2018-05-06 07:38

外国人の眼、自然③、モリス（英国人、日本文学研究者）、日本の田園と気候が文学に与える影響は決定的。西洋社会は自然に打ち勝つことを志向。自然崇拝は日本に土着したしゅうきょうにおいて中心的役割。移ろう自然の相を情緒的に歌い上げるのは日本詩歌の極めて強い関心事。

自然③―自然と調和、源氏物語―モリス
　。モリスは一九二五年生まれ一九六五5年に日本文学研究で英国ダフ・クーパー賞を受賞。

・日本の田園と気候が文化に与える影響は決定的である。

・平安朝文学における自然の役割は誇張してしすぎることはあるまいと思う。日本では四季の変化がはっきりしている。ここでは自然を意識せずに生きることが特に難しい。

・しかも怖ろしい自然のさまざまな災難―台風、津波、洪水、またほとんど毎日の地震―が人々を襲い、人々をして人生に対する自然の影響を強く意識せしめてきたのである。

・西洋社会では自然のもつ非人間的な力に対して人間が真正面から取り組みやがては打ち勝って人類の利益のために自然を順応させるという理想である。われわれ自身の二〇世紀に特に大きな成果を持って実現されている理想である。しかも逆説的なことではあるが、人間社会の安寧のみならず、人類という一種族の存続そのものまでも、切迫した危機にさらす結果を生んでいる理想である。それほど劇的ではないにしろ、現代の大都会は物質的な世界を制服するという理想を反映している。そこでは季節というものを抹殺しようとする努力がなされている。宣伝文句に「夏涼しく、冬暖かく」の文句が大方の西洋人の態度を要約していると言っていい。

　ところが極東においてはそうではない。宗教的・知的伝統は生の統一を強調している。人と周囲の自然との間に二元性を見る考え方には抵抗している。自然崇拝は日本に土着した宗教において中心的な役割を演ずると言えよう。この宗教は仏教ならびに道教から影響を受けつつ、人間は自然界の枢要な一部であること、人間の勤めるべき本分は自然との闘いではなくむしろ自然との調和であること、またもし必要ならままならぬ生活の不便さをこのような認識を人々の頭にたたきこんだのである。

・光源氏の世界の人々は決して外界の自然環境から自らを断絶しようとはしなかった。むしろ彼らは取り巻いている自然と溶け合うように努力していた。

・移ろう自然の相を抒情的にうたいあげることは、古の昔から、日本詩歌の極めて強い関心事であった（中略）。この伝統は、平安時代の散文、特に女流文学に承け継がれてゆく。
春秋夏冬の独特の自然美に、また風情に、彼女らがいかに没頭していたことか。そのことを日記、覚え書、物語などが伝えている。

「考察への問」：（１）平安時代の女流文学において、移ろう自然の相を抒情的にうたいあげた代表的作品は何か。多くの人は「春はあけぼの、夏は夜」の枕草子を指摘すると思う。
今や、「夏涼しく、冬暖かく」は完全に日本人のライフ・スタイルになった。この中で、日本人の自然への対応は変化したか。

（３）モリスは「自然崇拝は日本に土着した宗教において中心的な役割を演ずると言えよう」と指摘しているが、今日私達の生き方で、このような傾向はみられるか。