孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの「東條が近衛を首相から追い落としにゾルゲ事件を利用した可能性大（『日米開戦へのスパイ』）」

【孫崎享のつぶやき】

日本史の学者は何故ゾルゲ事件の尾崎秀実氏の逮捕が１９４１年１０月１４日である事実を検証しないのか、そうなら近衛首相の辞任決定の前、つまり東條が近衛を首相から追い落としにゾルゲ事件を利用した可能性大（『日米開戦へのスパイ』）

2017-12-27 08:574

１：近衛首相辞任と関係

第２次大戦へ日本が突き進む道を見れば、重大な分岐点は首相が近衞文麿から東條英機に代わった時です。
近衛文麿は１９４１年１０月１５日辞任しました。そして10月18日東條内閣が成立しました。
近衛文麿は「何としても戦争を回避したい」と思っていましたし、東條英機は近衛内閣時代、陸相として強硬に開戦を主張し、東條内閣成立時、誰もがこれで「日本は戦争に行く」と判断しました。近衛文麿内閣が続くか、東條内閣が成立するかは、日本が戦争に突入するか否かを左右する状況でした。

この時にゾルゲ事件が起こっているのです。

そして、このゾルゲ事件は近衛内閣崩壊と関係しているらしいのです。
近衛首相の側近と言われた尾崎秀実が１５日逮捕されています。尾崎秀実が１５日逮捕されたというのは尾崎秀実が「１５日逮捕された」と述べ、定説になっています。
１０月１５日の辞任は多くの人の予想より、突然に行われたものでした。
日本と交渉を行っていた米国は当時の近衛首相の立場を熟知しています。
時の駐日米国大使グル―は『滞日十年』の中で次のように述べています。

「早晩近衛内閣崩壊はほとんど確実だと思っていたが、こんなに早くこようとは期待していなかった」

　近衛内閣は首相、陸相と対立して内閣府統一で崩壊したとしても、陸軍大臣を更迭して新たな近衛内閣を作るという選択もあったのであり、この点は東久邇稔彦著『皇族の戦争日記』で東久邇宮は、相談にきた近衛首相に「陸軍大臣の後任については私も尽力する」と言い、近衛首相は勇気づけられ「それでは第四次内閣を作ってやってみます」と述べています。
　したがって、①時期的にみても、②第三次近衛内閣の後をどうするかについても、近衛首相が東條陸相に負けた形で辞任する必要はなかったのです。この際どいタイミングでゾルゲ事件が起こっているのです。

したがって、近衛首相の辞任はゾルゲ事件、つまり尾崎秀実の逮捕と関係があるのでないかは、近衛文麿の辞任の唐突さや、尾崎秀実と近衛文麿の関係を考えると、当然考えるシナリオです。でも不思議と、この分野の見解はあまりありません。

日本近現代史研究者保阪正康氏は、次の記述をしています。
保阪正康氏は『東条英機と天皇の時代』、『陸軍省軍務局と日米開戦』『昭和陸軍の研究』などの著作のある昭和史の大家ですが、彼は『昭和史七つの謎　Part2』の中で次の記述をしています。

「大胆な仮説を言えば、第二次近衛内閣はゾルゲ事件によって脅かされ、内閣を投げ出したのではないかという事である。誰によってか、陸軍の政治将校によってである。」

、森正蔵氏、1924年東京外国語学校を卒業し、2年後に毎日新聞社大阪本社に入社。毎日新聞ではハルピン・奉天特派員を経てソ連特派員としてモスクワに駐在。帰国後大阪本社外信部ロシア課長になり、当時の新聞界において有数のソ連通と言われた。
1945終戦後に東京本社社会部長・出版局長等を歴任し、1950年取締役に就任し論説委員長となった。

（尾崎が逮捕された翌日に近衛内閣が倒されたことに関して）
「日米開戦に導こうとする軍国主義者達のうった手とみられないだろうかということである。　両者は単なる偶然かもしれない。
ここで日米関係とゾルゲ事件の関係を見ておくと次のようになる、

１０月１２日　　「荻外荘五相会議」
　　　　　　　近衛首相対東條の対立
　　　　　　　但し、暫定的合意成立
１０月１４日　　定例会議
　　　　　　　豊田外相対東條の対立
　　　　　　　会議前に近衛首相対東條の対立
１０月１５日　近衛首相辞任　　　　　　　　尾崎秀実逮捕（１４日？）
１０月１８日　　東條内閣成立　　　　　　　　ゾルゲ逮捕

２：尾崎秀実の逮捕

逮捕が何時かと言うのは、一見、何でもないようですが、実は東條、近衛がこれをいつ知ったかという意味で、重要な意味合いを持っています。

（１）尾崎秀実の記述
　「尾崎秀実の手記」
・「10月15日の朝、検事の一隊に襲撃されました。
これより前2，3日の間、私には多少不安がありましたが、この時、大体において、私の生涯の総決算の日が遂に来たことも覚悟しました。

（２）尾崎秀実の妻
『愛情はふる星のごとく』は、監獄にいる尾崎秀実が妻へあてた手紙を収録しています。ここに妻、英子が追悼の言葉を記載しています。
ここも「「１９４１年１０月１５日の朝、尾崎は検挙されました」で始まっています。

（３）尾崎秀実の逮捕は１５日ではなくて１４日だという説
サイト地球座に渡部富哉氏著「尾崎秀実の10月15日逮捕は検事局が作り上げた虚構のひとつ?その２」があります。

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「特高捜査員に対する褒賞上申のための内務省警保局内部資料」がある。
この「特高捜査員に対する褒賞上申書」はゾルゲ事件の検挙に功労があった特高警察官の功労の内容が具体的に書かれている。
宮下弘の項目には、「尾崎秀実が1941年10月14日に逮捕されるや否や、彼は直ちに尾崎を取り調べ」云々と書かれ、河野啓警部補の欄には、「10月14日から10月16日にかけて、高橋与助警部を助け、当該事件の主犯の一人、尾崎秀実を取り調べ」云々とある。

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３：尾崎が１０月１４日に捕まったか、１５日に捕まったかは極めて重要な意味を持つ。
　そして、１５日逮捕の根拠は逮捕された尾崎秀実とその妻の証言である、
　もしこれが強制されて書かれたものであれば、ゾルゲ事件は当局が作ったものの根拠になる、
　こうした中である人から次の連絡をうけました、
「前略、まだお探しかどうか判りませんが、孫崎さんのご著書で探しておられる尾崎秀実の検挙日付に関する警視庁の目録が手元から見つかりました、米軍の押収資料のマイクロフイルムから作成したものです、逮捕日は１４日となっていますのでコピーを同封します、フイルムの現物は横浜開港資料館にあります、」

押収資料のマイクロフイルムから作成したもの
尾崎秀実、勾引月日１０月１４日、勾留月日１０月１４日、留置所目黒、命令検事玉沢19:30 2017/12/27