孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの『日米開戦とゾルゲ事件』（７月発売)ゾルゲにまつわる情報を吟味している

孫崎享のつぶやき

『日米開戦とゾルゲ事件』（７月発売）①ゾルゲ事件の情報で、ソ連が日本に害を与える行動はとってない。俗に言う「ゾルゲ情報でソ連は日本軍がソ連極東侵攻しないことを知り、極東ソ連軍はソ連欧州部に移し、独攻撃下のソ連を救った」は事実でない。

2017-06-05 06:204

１：　一般的に、「ゾルゲ情報でソ連は日本軍がソ連極東侵攻しないことを知り、極東ソ連軍はソ連欧州部に移り、ドイツ軍の攻撃下のソ連を救った」は元占領軍G２のウイロビーガ広げた説である。

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ウィロビーが１９５２年『赤色スパイ団の全貌－ゾルゲ事件－（SHANGHAI CONSPIRACY THE SORGE SPY RING）』を出版しました。　「非米活動調査委員会」は共産主義の脅威を追求していました。

　『赤色スパイ団の全貌－ゾルゲ事件』の記述の一部を見てみたいと思います。

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　太平洋戦争の直前、ソヴィエト赤色スパイ団の一味が日本において検挙された。

　このリヒアルト・ゾルゲを首魁とする赤色陰謀団は、世界スパイ史に空前のものと言われているのである。

　ゾルゲ博士およびその一味の仕事の方法は現在及び未来の警告となりうるに十分である。

　九か年の長きにわたって、彼らは精神的祖国ソヴィエト・ロシアのために日本に於いて巧妙かつ大胆なスパイ団として働いていた。

　１９４１年６月以降のゾルゲ・スパイ団の主要目標は日本のソ連攻撃計画に関する情報蒐集であった。

　当時、ソ連はドイツ軍の西部ロシアの侵攻をうけて、ソ連陸軍は大打撃を蒙っていた。依って、シベリア方面の駐屯軍を西部戦線に補充する必要を生じたが、日ソ関係も微妙な状態にあったので、赤軍はシベリアの防備をゆるがせに出来なかったのである。

　ソ連は西部にドイツの侵入を受け、東部に日本軍の脅威を感じ、全くの窮地に陥ち入っていたので、日本のソ連攻撃の意志の有無を確聞したかったのである。

　ここにおいて、ゾルゲの『日本軍はソ連攻撃の意志なし』との情報に基き、ソ連はシベリア師団を西部戦線に送付することが出来、モスクワの防備を全うすることが出来たのである。

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２　このウィロビーの説は正しいか。

　正しくありません。

７月１１日付で「関東軍特別演習」が決定され、大軍がソ連との国境に配備されました。

　第二次大戦の戦史で最も権威あるのは、防衛研究所の「戦史叢書」でその中に、『関東軍〈2〉関特演・終戦時の対ソ戦』があります。この当時の模様を見てみます。

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　独ソ戦の報とともに、陸軍本部は興奮の坩堝と化した。

　陸軍内部の意見のごとき、必ずしも積極論が支配的であったわけでもなく、慎重論者もあり、また積極論者も南北両論があった。

　北進論者は「情勢の極めて有利になった時に、初めて武力を行使すべし」という基本に立っていた。

　原嘉通枢密院議長は７月２日の連絡会議の席で強く北進論を表明した。

　北方増強は、対ソ攻撃実現の前触れのような印象を与えた。

　関特演は、北方に対する動員が７月上旬に発令され、７月１１日付で「関東軍特別演習」との呼称が与えられた。

　大本営が６月２５日にまとめた動員等は次のとおりである。

　・警戒態勢まで（第一段階）

　動員決意　６月２８日

　動員下令　７月　５日

　集中輸送開始　７月２０日

　警戒態勢完了　８月２４日

・侵攻作戦実施の場合

　動員決意　６月２８日

　開戦決意　８月１０日

　開戦開始　８月２９日

関特演は、人約５０万人、軍馬約１５万を増強した動員だった。

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７月６日以降、５０万の兵士が、ソ連との戦争の可能性を持って、増員され、満州に送られています。

８月２４日までの間、「日本のソ連攻撃がない」という情報は完全に間違いになります。

　ゾルゲ情報で、ソ連は、「極東軍を西部戦線に動かすことが出来た」という状況は８月中旬まではまず出来てきません。

３：８月１８日の段階で、ジューコフ元帥はスターリンに極東軍の西部方面への移動を進言しています。極東情勢がどうあれ、モスクワがドイツ軍の脅威にさらされる中、極東軍を移動させるのは当然の選択です。

４：ゾルゲが日本のソ連極東への攻撃がないと報告するのは９月になってからです。

　つまり、ウイロビーが述べ、その後座折る下事件の定説となった「ここにおいて、ゾルゲの『日本軍はソ連攻撃の意志なし』との情報に基き、ソ連はシベリア師団を西部戦線に送付することが出来、モスクワの防備を全うすることが出来たのである」は事実ではない。

５：ではウイロビーは何故このような嘘をついたか。

　ちょうど米国では「赤狩り」の時期である。ソ連の脅威を煽る必要があり、それにゾルゲ事件を利用した。。

　