孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの「助言-若い世代へ①、“低く暮らし、高く思う”　　ワーズワース

【孫崎享のつぶやき】
「助言-若い世代へ①、“低く暮らし、高く思う”　　ワーズワース
2016-01-18 08:119

ウィリアム・ワーズワース　は 1770年から1850年まで生きた英国詩人である。

“低く暮らし、高く思う”は、英語では、Plain living and high thinking で、原詩の該当部分の訳は次の様になる。

「質素なる生活、高遠な思想は既になく　昔ながらの善き主張の飾り気なき美はさり、われらの平和、われらの敬虔に充つる天真、家法となる宗教もすべて失せたり」

これは、（『ワーズワース詩集』田部重治 (翻訳)、岩波文庫）の「ロンドン一八〇二年（一）に出てくる一節である。

　この部分は日本の多くの知識人に引用され、中野孝次著は次の形で言及している。

「わたしは話を求められるたびにいつも「日本文化の一側面」という話をすることに決めて来た。内容は大体日本の古典――西行・兼好・光悦・芭蕉・池大雅・良寛など――を引きながら、日本には物作りとか金儲けとか、現世の富貴や英達を追求する者ばかりではなく、それ以外にひたすら心の世界を重んじる文化の伝統があったのだ。それは今の日本人を見ていてはあまり感じられないかもしれないが、わたしは日本の最も誇りうる文化であると信じる」

今日、若い人の多くの目指すゴールは、より高い地位に就き、より物質的に豊かな生活をすることだと思う。何故ワーズワースのような逆の生き方を求めるか。

「社畜」という単語がある。「会社+家畜」から来た造語で、勤めている会社に飼い慣らされてしまい、自分の意思と良心を放棄し奴隷（家畜）と化したサラリーマンの状態を揶揄したものだ。組織で動くものは大なり小なり「社畜」的要素を受容している。

私達には、人間としてどう生きるかの最低ラインの部分がある。「より高い地位とより豊かな生活を求める」ことは、この人間の尊厳を失うことになる場合が極めて多い。

高い地位を目指したところで、決して満足な精神状態は得られない。かつて大蔵省（現財務省）員の自殺が続いた。受験戦争の究極的な勝利者である大蔵省員に何故自殺者が出るか。彼らは「受験戦争の勝利者」という世界にはいない。新たに入省した同期二〇人のサバイバル競争の中に入っている。いつまでも満足しうる時は訪れない。

財にしたって、きりがない。世界で最も高額な絵画のランキングがある。1位 363億円ゴーギャン『ナフェア・ファア・イポイポ（いつ結婚するの）』２位、2位 331億円セザンヌ『カード遊びをする人々』。朝焼けや夕日を見、海を見、滝を見る方が、363億円の絵画を見るより感動するだろう。最高の財は最高の感動を呼び起ぅとは限らない。他方、無償で最高の感動を出すものは山のようにある。

良寛に著名な漢詩がある。

「生涯懶立身　騰々任天真　嚢中三升米炉辺一束薪

誰問迷悟跡何知名利塵夜雨草庵裡双脚等間伸」

「米が三升、暖をとる薪が一束、両脚を伸ばすスペースがあればいいじゃないか」と思った時、全く新しい人生が開ける。喜びを自分で作る、自分の人生が始まる。

　

コメント(2)

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[1] mixiユーザー 01月19日 11:21

たしかに、アメリカの経済至上主義、新自由主義が日本にはいってから、安倍政権もそうですが、
数字ばかり追及して、あたかもその数字が達成されれば、国民生活が豊かになるような
錯覚を植え付けていますね。
戦前の教育や道徳が、必ずしもいいとは思いませんが、日本人の「心の美しさ、豊かさ」を今一度
振り返ってみるべきですね、

[2] mixiユーザー 01月19日 20:30

>>[1]

戦前の教育や道徳のなかに、大切なところと反民主主義的封建主義と両方がありますね。
ただ、重要な社会教育や家庭教育のとても重要な良さが根こそぎ削り取られていますよね。

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