孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの１２月１７日、早稲田大学大隈記念講堂シンポジウム「早稲田から安保法制を撃つ」時の発言内容・日本では認識されていないが尖閣周辺で米中が戦えば中国が勝つ時代に入っている

【孫崎享のつぶやき】
１２月１７日、早稲田大学大隈記念講堂シンポジウム「早稲田から安保法制を撃つ」時の発言内容・日本では認識されていないが尖閣周辺で米中が戦えば中国が勝つ時代に入っている
2015-12-22 07:159

今日、日本の国家が「民主主義国家」か、「法治国家」かが問われる状況にあります。

「民主主義国家」の点では国民の過半数が集団的自衛権に反対、安全保障関連法案の成立に反対しています。それを無視して強行に安保法制を採決しました。

「法治国家」であるかの点については

大森、宮崎、角田元内閣法制局長官が集団的自衛権を違憲ないし疑問と発言

山口（繁）元最高裁長官も「違憲」発言、憲法学者の約９５％が違憲と述べています。

　これらの点については、長谷部教授や青井教授が詳しく説明されるため、私は別の側面を話してみたいと思います。

　そもそも集団的自衛権の本質は何なのか、日本を守るためか、米国のためか。

　集団的自衛権は日本の防衛とは関係がありません。集団自衛権は、自衛隊を米国戦略のために使わせるシステムである。そのことを認識すべきです。

集団的自衛権は中国の脅威に対処するように言われているが、それは新たに制度を作る必要がない。日米安保条約がある。第５条で、「日本国の施政の下にある領域に攻撃があった時各々は自国憲法に従って行動をとる」と決めている。

国際関係学者の中には「国際社会が不安だから協力しなければならない」という論を述べる人がいる。事実を見れば、「全く逆だ」という事が解る。

　米国国務省は毎年、テロ活動報告書発表している。テロの犠牲者数は２０００年代初めは年間４００名から７００名だった。２０１４年には32,727です。テロとの戦いの中で相手側の組織化、殺傷性の向上は飛躍的に高くなっている。テロとの戦いでテロを産み、増殖させている。テロ戦争は完全に失敗している。

　皆さんはシリアで後藤さんが殺された時、イスラム国側が何を言ったか記憶あるでしょうか。「安倍総理よ。勝てない戦争に参加した向こう見ずな決断によって、このナイフは後藤を殺すだけでない。今後もあなたの国民はどこにいても殺される。日本の悪夢は始まる」

　テロ戦争参加は解決しないだけでなく、テロを日本国民、日本国に呼び込む。

安倍政権は「集団自衛権は、自衛隊を米国戦略のために使わせるシステムである」ことを国民に説明できない。だから、嘘と詭弁を言う。

　安倍首相は日本人を救出してくれる米国の船を守れないから集団的自衛権が必要と説明した。しかし、米国国務省のホームページでは①危機に於いて我々の優先は米国市民を助けることである。その他の人は自分で手配するように、②軍事エスコートがついた米国雇用輸送手段は現実と言うよりハリウッドの脚本であると言っている。

次いでペルシア湾での機雷敷設の除去を言った。しかしイランを巡る核開発問題で合意が成立している今、強行採決までして憲法違反を行わなければならない緊急性は全くない。

唯一、根拠としていわれているのは、中国の脅威にどう立ち向かいかだ。

時に「憲法９条を守っているだけでは国を守れない」とすら言う。

したがってこの点に焦点をあてて話してみたい。

確かに中国の力は増している。購買力平価ベースのGDPで本年中国は米国を抜いた。したがって中国は軍事面でも米国に追いつくことを目指している。

この中国の軍事力をどう判断するかが問題である。米国国防省は毎年議会に中国の軍事力について報告書を提出している。

　「２００９年中国の軍事力についての国防省報告に次を記述した。

「中国共産党の体制としての生き残りと永久化が中国指導者の戦略的見方を形作る。

共産党のイデオロギーは政治的支援を得る役割を果たし得ない。よって、政権維持に、経済的成果とナショナリズムに頼る。

過去、中国は愛国主義的感情を煽ってきた。しかし、これで国民が抗議を始めると、不満の制御が困難となり、逆に国家に刃向う危険性を国は知っている。　

中国の経済が拡大するにつれ、（海外の）市場と、金属や化石燃料等資源へのアクセスに依存する、これが中国の戦略的行動を形作る重要な要素となる。（省略）このことは中国の発展に導く環境を維持するため、緊張を管理せざるをえない。

（例外は周辺国との国境問題。これを管理すれば、冒険主義的な行動は避ける）」

私はこの分析は正しいと思う。

領土問題を解決すれば、中国が軍事力を使うことはない。

そして、尖閣問題では、すでに外交的枠組みで解決している。１９７２年周恩来首相と田中角栄首相、１９７８年の鄧小平と園田外務大臣の間で、日本の管轄権を認める「棚上げ」で合意している。この点は１９７２年当時条約課長として責任者であり、後、外務次官になった栗山氏が明確に述べている。そのことを日本政府と外務省は認めない。嘘を拡散している。

しかし、やはり米国の力を頼りに、力で抑え込もう、そのために集団的自衛権が必要といういう人がいる。

尖閣周辺で米中が戦えば、多くの人は米国が勝つと思っている。だが、この時代は終わった。

米国軍事最有力のランド研究所報告が次の報告を行った。

中国は今日、１２００の短距離弾道ミサイル）、中距離弾道ミサイル、クルーズ・ミサイルを保有している。

台湾（つまり尖閣周辺）で米中が戦う時、嘉手納米軍空軍基地は燃料補給を必要としない距離での唯一の米空軍基地である。

台湾周辺の米中軍事バランスは１９９６年米軍圧倒的優位、２００３年米軍圧倒的優位、２０１０年ほぼ均衡、２０１７年中国優位。

米軍ですら尖閣周辺で中国と戦えない。自衛隊が戦って勝てる状況はない。　　　　　　　　　

日本には軍事的に中国に対抗する選択はない。

米軍がいるから日本が守られるという時代は終わっている。

外交的に処理するしかないし、それは実現可能だ。日本は１９７２年の周恩来・田中首相の合意に戻ると言えば何の問題もない。

米国の有力な研究者が「日本人の中国への懸念を利用して、我々が望むことを日本政府にさせよう、それは①集団的自衛権を認めさせること、②防衛費を増大させてそれを自分達のために利用すること、③辺野古での基地建設を推進するである。（参考１）

中国との危機を煽り、それによって自衛隊を意味のない米軍軍事戦略に使う、この本質を見極めて欲しいと思います。

参考１

ヘリテージ財団2012年11月14日極めて興味あるレポート発表。クリングナー著「米国は日本の政治的変化を利用し同盟を進化させるべきであるである」。