【孫崎享のつぶやき】
今日のテロの原点―２００１年米国同時多発テロ。信じがたい事であるが、実はブッシュ政権の主力は、かかる大規模攻撃が米国に来るのを望んでいた。
2015-11-26 07:345
昨日のブログで、２００１年米国同時多発テロの時に、その数か月前からCIAは大規模テロ攻撃が米国にあることを警告していたが、ブッシュ政権はこれを徹底的に無視したことを記した。
「何故、無視したか」これが最大の注目点である。
この点に関して、私の『日米同盟の正体』から見てみたい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
九・一一同時多発テロ前の米国の安全保障政策はどういうものであったか。
ソ連の崩壊によって米国は世界最強の軍事組織を確立した。しかし、一九九三年一月から二〇〇一年一月まで継続したクリントン大統領の政権は安全保障にさしたる関心を持っていない。米国は、せっかく築いた最強の軍事組織が弱体化する危険を持ち始めた。ここに九・一一同時多発テロが発生した。これによって、軍事行動をより積極的に行いうる環境が生まれた。では、最強の軍事組織の堅持を望むグループが九・一一同時多発テロの発生を誘導する動きをすることはなかったのであろうか。
第一章で『孫子』が、「故に上兵は謀を伐つ」と述べているように、安全保障分野では謀略の重要性がきわめて高いことをみた。では今日、軍事的に世界最強を誇る米国は謀略の分野でどのような動きをしているのであろうか。九・一一同時多発テロと謀略は結びつくのであろうか。そして、こうした動きは米国の安全保障の歴史の中で特異な現象なのであろうか。あるいはしばしば現れ、米国の安全保障を語るときに見逃せない要素なのであろうか。その点をみてみたい。
「二一世紀の真珠湾攻撃」という言葉が意味するもの
二〇〇二年一月二七日、ワシントン・ポスト紙一面は、九・一一同時多発テロが生じた日のブッシュ大統領の行動を詳細に報道した。その中で「ブッシュは『本日二一世紀の真珠湾攻撃が発生した』と口述させた」（筆者訳）と報じた。では、ブッシュが口述させた「二一世紀の真珠湾攻撃」という言葉が意味するものは何か。
その際には、まず、真珠湾攻撃の意味を理解する必要がある。じつは真珠湾攻撃は、第二次大戦の英国の状況と深く関連している。当時英国はドイツの攻撃にさらされ、瀕死の状況であった。これを打開するには米国が参戦し、ドイツと戦ってくれる必要がある。しかし、米国国民は第二次大戦に参戦するつもりはなく、中立の立場を貫いていた。ここで真珠湾攻撃が生じた。
当時、英国首相だったチャーチルは、『第二次大戦回顧録』（河出書房新社、一九七二年）に真珠湾攻撃の日の感銘を次のように記している。
「一七ヵ月の孤独の戦いの後、真珠湾攻撃によってわれわれは戦争に勝ったのだ。日本人は微塵に砕かれるであろう。私はかねて米国の南北戦争を研究してきた。米国は巨大なボイラーのようなもので、火がたかれると、作り出す力に限りがない。満身これ感激という状況で私は床につき、救われて感謝に満ちたものだった」
チャーチルは真珠湾攻撃があったから、英国が救われたと述べている。チャーチルは南北戦争を研究してきたと言っている。たしかに南北戦争の始まりは、見事なくらい、真珠湾攻撃と類似している。この事情は清水博の『世界の歴史17』（講談社、一九七八年）.に詳しい。
「リンカーンは奴隷州の独立は認めないと言っている。同時に『南部が攻撃しない限り戦争は起こさない』と述べている。（南部にある）サウスカロライナのチャールストン港入り口にあるサムスター要塞はまだ星条旗を掲げていた。リンカーンはこれに食料の補給をすると通報し、補給艦を派遣したが、南部はこれを挑戦と受け止め、要塞を攻撃した。北部では星条旗が砲撃されたとして、『疾風のような愛国心』が起こった」
リンカーンは南部が独立する動きを見せている中、米国の統一には、戦争が必要と見ている。自ら戦争を開始することはなかったが、南部を先に攻撃させる状況を作り、攻撃を受けた国民の怒りを背景に、望んでいた戦争に突入させた。
真珠湾攻撃が米国安全保障関係者の間でいかなる評価を得ているか。
キッシンジャーは『外交』（日本経済新聞社 、一九九六年）で真珠湾を次のように記述している。
「アメリカの参戦は並大抵でない外交努力が達成した大きな成果であった。孤立的な国民を大きな戦争に導いた。一九四一年五月まで米国人の六四％は平和の維持はナチの敗北より重要であると見なした。真珠湾攻撃でナチに対する勝利より平和の維持が重要とするのは三二％になった。
ルーズベルトは満州を含む中国全土から撤退するよう指示した。ルーズベルトは日本がこれを受諾する可能性はないと知っていたに違いない。アメリカは参戦するために真珠湾の攻撃を受けねばならなかった」
キッシンジャーは、並大抵でない外交努力で米国が参戦できたと書いている。並大抵でない外交努力で戦争を避けたのではない。外交努力で参戦できたという表現を使用している。米国が日本につきつけた要求は日本がのめないものとみなしている。
英戦略家ベイジル・リデルハートは、『戦略論』（原書房、一九八六年）で、四一年七月二一日のルーズベルトの対日石油禁輸命令について、「日本は戦うしかないという成り行きに陥ることはわれわれが以前行った研究によって、われわれが常に意識してきたことである。日本が四ヵ月以上も自らの攻撃を繰り延べたことは注目すべき事実である」と述べている。
これらを踏まえて、ブッシュが日記に口述させた、「本日二一世紀の真珠湾攻撃が発生した」の意味合いを考えてみたい。
英国ＢＢＣは二〇〇二年八月、「ブッシュ大統領は二一世紀のチャーチルか」との題でブッシュはチャーチルに対して崇拝の気持ちを持っていると報じた。ブッシュは、ホワイトハウスにチャーチル像を持っている。そんな彼は当然、チャーチルの代表作『第二次大戦回顧録』の真珠湾攻撃についての記述も知っているだろう。さらに、キッシンジャーはブッシュ政権下、助言者として、最も頻繁にホワイトハウスを訪れていた。こうみると、ブッシュ大統領の「二一世紀の真珠湾攻撃」は偶然出てきた言葉ではない。
「新たな真珠湾攻撃」を望んだ「アメリカ新世紀プロジェクト」グループ
一九九七年六月、米国の有力な保守主義者たちは、「二〇世紀の歴史は危機が生ずる前に状況を整える必要があり、危機が差し迫る前に対応する必要があることを教えた。われわれは地球規模の責務を追及するため国防費を大幅に増強すべきである」（筆者訳）等を主張点とする「アメリカ新世紀プロジェクト（ＰＮＡＣ）」というグループを立ち上げた。このグループは保守強硬派をほぼ網羅し、〇一年にブッシュ政権が成立するや、安全保障関係の中核を構成した。設立趣意書の署名者（ｓ）及び会員には次の人物がいる。
人物名 ブッシュ政権での役職等
アブラムズ （ｓ） 国家安全保障会議（ＮＳＣ）中東部長
ブッシュ弟 (s) ブッシュ大統領の弟、フロリダ州知事
チェイニー (s) 副大統領
フリードバーグ(s) 副大統領府 安全保障担当
ケーガン (s) ネオコンの中心的存在
リビー (s) 副大統領府首席補佐官
ラムズフェルド(s) 国防長官
ウォルフォビッツ(s) 国防次官
アーミテージ 国務次官
ボルトン 軍備管理担当国務次官補
パール 国防諮問委員会委員長
この表を見ると、ＰＮＡＣメンバーはパウエル国務長官を除き、国務省、国防省の中核をほぼ完全に押さえている。このＰＮＡＣは九・一一テロの一年前の二〇〇〇年九月、ＰＮＡＣの数々の文書の中でも最も重要な「米国防衛再建計画」を公表した。
この文書は、米国は新たな世紀において、安全保障面で世界の指導的立場を維持するために変革に取り組むべきであると主張した後、「新たな真珠湾攻撃のように大惨事を呼びかつ他の現象を引き起こしていく事件がなければ、この変革は長いものになるだろう」（筆者訳）と述べた。
つまり、軍事力強化には議会の反対などがあって容易ではないが、新たな真珠湾攻撃があればその壁も破れ、米国の軍事優位が確保できる態勢が作れると主張している。したがって新たな真珠湾攻撃の発生を歓迎している。米国は新たな真珠湾攻撃を受ける危険があるので避けなければならないと述べているのでない。歓迎するとしている。
おそろしい話であるが、同時多発テロ事件が生じた時、国防省、国務省の幹部は第二の真珠湾攻撃を歓迎する立場の人々が占めていた。勿論ブッシュ大統領も承知していたであろう。こうみると、ゴアが指摘した本章冒頭の動きも不自然ではない。
さらにブッシュ大統領のサダム・フセインに対する対応を見てみよう。二〇〇〇年の大統領選でブッシュの外交顧問の役割を担っていたライスは、同年一〇月一二日の外交評議会で次のように説明した。
「サダムが政権にいる限りなにも変わらない。われわれは政権の座から排除するためにありとあらゆる手段を用いるべきだ。ブッシュが最後に言ったことは、機会があれば行動にでるということです。サダムはときとして自分で自分の首をしめるような行動に出るので、そうした機会はたびたびあるでしょう」（筆者訳）
ブッシュがフセインの排除を目指していたことは明確である。
南北戦争、真珠湾攻撃、九・一一同時多発テロの三つを並べてみよう。この三者は実に見事な類似性を持っている。
いずれのときも、ときの政権中枢部は軍事的行動に踏み切らなければならないとの危機感を持っていた。南北戦争は南部が独立するのを阻止するため、第二次大戦ではナチスが勝利するのを阻止するため、九・一一同時多発テロは多くの異なる目的の複合で事態を複雑にしているが、少なくとも、米国が圧倒的に優位に立っている軍事体制を維持するため。
攻撃の後、�犲隻�のような愛国心�瓩�生じて、米国は新たなる軍事行動―戦争に突入できた。九・一一同時多発テロは米国を一種のヒステリック状況を招いた。二〇〇〇年の大統領選挙をブッシュと争ったゴア元副大統領は、『理性の奪還』の中で、「政治プロセスを操作するために恐怖を悪用したのだ」と記している。
九・一一同時多発テロ、ブッシュ政権、イラク戦争の真相を追求しようとする者は簡単に非愛国者、反米のレッテルが貼られる。ゴアもまた、イラク戦争反対で一気に政治生命を失っていった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
上述の表の人名を見て気が付くことがある。今、相当の人数が米国政治の中枢に戻ってきている。
ブッシュ弟 （ブッシュ大統領の弟、フロリダ州知事）は共和党で大統領候補を争っている。
チェイニー（副大統領） ケーガン(ネオコンの中心的存在）、アーミテージ（国務次官）、ボルトン（ 軍備管理担当国務次官補）が発言力を持ってきている。
今日のテロの原点―２００１年米国同時多発テロ。信じがたい事であるが、実はブッシュ政権の主力は、かかる大規模攻撃が米国に来るのを望んでいた。
2015-11-26 07:345
昨日のブログで、２００１年米国同時多発テロの時に、その数か月前からCIAは大規模テロ攻撃が米国にあることを警告していたが、ブッシュ政権はこれを徹底的に無視したことを記した。
「何故、無視したか」これが最大の注目点である。
この点に関して、私の『日米同盟の正体』から見てみたい。
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九・一一同時多発テロ前の米国の安全保障政策はどういうものであったか。
ソ連の崩壊によって米国は世界最強の軍事組織を確立した。しかし、一九九三年一月から二〇〇一年一月まで継続したクリントン大統領の政権は安全保障にさしたる関心を持っていない。米国は、せっかく築いた最強の軍事組織が弱体化する危険を持ち始めた。ここに九・一一同時多発テロが発生した。これによって、軍事行動をより積極的に行いうる環境が生まれた。では、最強の軍事組織の堅持を望むグループが九・一一同時多発テロの発生を誘導する動きをすることはなかったのであろうか。
第一章で『孫子』が、「故に上兵は謀を伐つ」と述べているように、安全保障分野では謀略の重要性がきわめて高いことをみた。では今日、軍事的に世界最強を誇る米国は謀略の分野でどのような動きをしているのであろうか。九・一一同時多発テロと謀略は結びつくのであろうか。そして、こうした動きは米国の安全保障の歴史の中で特異な現象なのであろうか。あるいはしばしば現れ、米国の安全保障を語るときに見逃せない要素なのであろうか。その点をみてみたい。
「二一世紀の真珠湾攻撃」という言葉が意味するもの
二〇〇二年一月二七日、ワシントン・ポスト紙一面は、九・一一同時多発テロが生じた日のブッシュ大統領の行動を詳細に報道した。その中で「ブッシュは『本日二一世紀の真珠湾攻撃が発生した』と口述させた」（筆者訳）と報じた。では、ブッシュが口述させた「二一世紀の真珠湾攻撃」という言葉が意味するものは何か。
その際には、まず、真珠湾攻撃の意味を理解する必要がある。じつは真珠湾攻撃は、第二次大戦の英国の状況と深く関連している。当時英国はドイツの攻撃にさらされ、瀕死の状況であった。これを打開するには米国が参戦し、ドイツと戦ってくれる必要がある。しかし、米国国民は第二次大戦に参戦するつもりはなく、中立の立場を貫いていた。ここで真珠湾攻撃が生じた。
当時、英国首相だったチャーチルは、『第二次大戦回顧録』（河出書房新社、一九七二年）に真珠湾攻撃の日の感銘を次のように記している。
「一七ヵ月の孤独の戦いの後、真珠湾攻撃によってわれわれは戦争に勝ったのだ。日本人は微塵に砕かれるであろう。私はかねて米国の南北戦争を研究してきた。米国は巨大なボイラーのようなもので、火がたかれると、作り出す力に限りがない。満身これ感激という状況で私は床につき、救われて感謝に満ちたものだった」
チャーチルは真珠湾攻撃があったから、英国が救われたと述べている。チャーチルは南北戦争を研究してきたと言っている。たしかに南北戦争の始まりは、見事なくらい、真珠湾攻撃と類似している。この事情は清水博の『世界の歴史17』（講談社、一九七八年）.に詳しい。
「リンカーンは奴隷州の独立は認めないと言っている。同時に『南部が攻撃しない限り戦争は起こさない』と述べている。（南部にある）サウスカロライナのチャールストン港入り口にあるサムスター要塞はまだ星条旗を掲げていた。リンカーンはこれに食料の補給をすると通報し、補給艦を派遣したが、南部はこれを挑戦と受け止め、要塞を攻撃した。北部では星条旗が砲撃されたとして、『疾風のような愛国心』が起こった」
リンカーンは南部が独立する動きを見せている中、米国の統一には、戦争が必要と見ている。自ら戦争を開始することはなかったが、南部を先に攻撃させる状況を作り、攻撃を受けた国民の怒りを背景に、望んでいた戦争に突入させた。
真珠湾攻撃が米国安全保障関係者の間でいかなる評価を得ているか。
キッシンジャーは『外交』（日本経済新聞社 、一九九六年）で真珠湾を次のように記述している。
「アメリカの参戦は並大抵でない外交努力が達成した大きな成果であった。孤立的な国民を大きな戦争に導いた。一九四一年五月まで米国人の六四％は平和の維持はナチの敗北より重要であると見なした。真珠湾攻撃でナチに対する勝利より平和の維持が重要とするのは三二％になった。
ルーズベルトは満州を含む中国全土から撤退するよう指示した。ルーズベルトは日本がこれを受諾する可能性はないと知っていたに違いない。アメリカは参戦するために真珠湾の攻撃を受けねばならなかった」
キッシンジャーは、並大抵でない外交努力で米国が参戦できたと書いている。並大抵でない外交努力で戦争を避けたのではない。外交努力で参戦できたという表現を使用している。米国が日本につきつけた要求は日本がのめないものとみなしている。
英戦略家ベイジル・リデルハートは、『戦略論』（原書房、一九八六年）で、四一年七月二一日のルーズベルトの対日石油禁輸命令について、「日本は戦うしかないという成り行きに陥ることはわれわれが以前行った研究によって、われわれが常に意識してきたことである。日本が四ヵ月以上も自らの攻撃を繰り延べたことは注目すべき事実である」と述べている。
これらを踏まえて、ブッシュが日記に口述させた、「本日二一世紀の真珠湾攻撃が発生した」の意味合いを考えてみたい。
英国ＢＢＣは二〇〇二年八月、「ブッシュ大統領は二一世紀のチャーチルか」との題でブッシュはチャーチルに対して崇拝の気持ちを持っていると報じた。ブッシュは、ホワイトハウスにチャーチル像を持っている。そんな彼は当然、チャーチルの代表作『第二次大戦回顧録』の真珠湾攻撃についての記述も知っているだろう。さらに、キッシンジャーはブッシュ政権下、助言者として、最も頻繁にホワイトハウスを訪れていた。こうみると、ブッシュ大統領の「二一世紀の真珠湾攻撃」は偶然出てきた言葉ではない。
「新たな真珠湾攻撃」を望んだ「アメリカ新世紀プロジェクト」グループ
一九九七年六月、米国の有力な保守主義者たちは、「二〇世紀の歴史は危機が生ずる前に状況を整える必要があり、危機が差し迫る前に対応する必要があることを教えた。われわれは地球規模の責務を追及するため国防費を大幅に増強すべきである」（筆者訳）等を主張点とする「アメリカ新世紀プロジェクト（ＰＮＡＣ）」というグループを立ち上げた。このグループは保守強硬派をほぼ網羅し、〇一年にブッシュ政権が成立するや、安全保障関係の中核を構成した。設立趣意書の署名者（ｓ）及び会員には次の人物がいる。
人物名 ブッシュ政権での役職等
アブラムズ （ｓ） 国家安全保障会議（ＮＳＣ）中東部長
ブッシュ弟 (s) ブッシュ大統領の弟、フロリダ州知事
チェイニー (s) 副大統領
フリードバーグ(s) 副大統領府 安全保障担当
ケーガン (s) ネオコンの中心的存在
リビー (s) 副大統領府首席補佐官
ラムズフェルド(s) 国防長官
ウォルフォビッツ(s) 国防次官
アーミテージ 国務次官
ボルトン 軍備管理担当国務次官補
パール 国防諮問委員会委員長
この表を見ると、ＰＮＡＣメンバーはパウエル国務長官を除き、国務省、国防省の中核をほぼ完全に押さえている。このＰＮＡＣは九・一一テロの一年前の二〇〇〇年九月、ＰＮＡＣの数々の文書の中でも最も重要な「米国防衛再建計画」を公表した。
この文書は、米国は新たな世紀において、安全保障面で世界の指導的立場を維持するために変革に取り組むべきであると主張した後、「新たな真珠湾攻撃のように大惨事を呼びかつ他の現象を引き起こしていく事件がなければ、この変革は長いものになるだろう」（筆者訳）と述べた。
つまり、軍事力強化には議会の反対などがあって容易ではないが、新たな真珠湾攻撃があればその壁も破れ、米国の軍事優位が確保できる態勢が作れると主張している。したがって新たな真珠湾攻撃の発生を歓迎している。米国は新たな真珠湾攻撃を受ける危険があるので避けなければならないと述べているのでない。歓迎するとしている。
おそろしい話であるが、同時多発テロ事件が生じた時、国防省、国務省の幹部は第二の真珠湾攻撃を歓迎する立場の人々が占めていた。勿論ブッシュ大統領も承知していたであろう。こうみると、ゴアが指摘した本章冒頭の動きも不自然ではない。
さらにブッシュ大統領のサダム・フセインに対する対応を見てみよう。二〇〇〇年の大統領選でブッシュの外交顧問の役割を担っていたライスは、同年一〇月一二日の外交評議会で次のように説明した。
「サダムが政権にいる限りなにも変わらない。われわれは政権の座から排除するためにありとあらゆる手段を用いるべきだ。ブッシュが最後に言ったことは、機会があれば行動にでるということです。サダムはときとして自分で自分の首をしめるような行動に出るので、そうした機会はたびたびあるでしょう」（筆者訳）
ブッシュがフセインの排除を目指していたことは明確である。
南北戦争、真珠湾攻撃、九・一一同時多発テロの三つを並べてみよう。この三者は実に見事な類似性を持っている。
いずれのときも、ときの政権中枢部は軍事的行動に踏み切らなければならないとの危機感を持っていた。南北戦争は南部が独立するのを阻止するため、第二次大戦ではナチスが勝利するのを阻止するため、九・一一同時多発テロは多くの異なる目的の複合で事態を複雑にしているが、少なくとも、米国が圧倒的に優位に立っている軍事体制を維持するため。
攻撃の後、�犲隻�のような愛国心�瓩�生じて、米国は新たなる軍事行動―戦争に突入できた。九・一一同時多発テロは米国を一種のヒステリック状況を招いた。二〇〇〇年の大統領選挙をブッシュと争ったゴア元副大統領は、『理性の奪還』の中で、「政治プロセスを操作するために恐怖を悪用したのだ」と記している。
九・一一同時多発テロ、ブッシュ政権、イラク戦争の真相を追求しようとする者は簡単に非愛国者、反米のレッテルが貼られる。ゴアもまた、イラク戦争反対で一気に政治生命を失っていった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
上述の表の人名を見て気が付くことがある。今、相当の人数が米国政治の中枢に戻ってきている。
ブッシュ弟 （ブッシュ大統領の弟、フロリダ州知事）は共和党で大統領候補を争っている。
チェイニー（副大統領） ケーガン(ネオコンの中心的存在）、アーミテージ（国務次官）、ボルトン（ 軍備管理担当国務次官補）が発言力を持ってきている。
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