孫崎享のつぶやき
２１日発売『日本外交 現場からの証言』、正論を述べる人を排除する外務省�▲ぅ薀�戦争、自衛隊派遣に異を唱えた天木直人氏
2015-08-19 08:024
今日、米国のイラク戦争は行うべきでなかったというのが、米国を含め世界の世論である。
その中、当然日本も自衛隊を派遣すべきではなかった。
当時外務省内で、自衛隊のイラク派遣を行うべきでないと主張し、退官させられたのがお真紀氏である。今日、天木氏を評価する人は、日本社会の一部に存在するが、復権しないままが、基本である。
他方、イラク戦争に自衛隊を派遣すべしとの論を述べていたのが北岡東大教授であった。彼は安倍政権で、理論的支援の中心人物となっている。イラク戦争時の歪みを今日まで日ッパンているのが日本社会だ。
以下、『日本外交 現場からの証言』の記述。
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イラク戦争――天木直人元駐レバノン大使の義憤
二〇一一年「三・一一（東日本大震災）」による「福島第一原子力発電所事故」が起こる前に、原発に対する警鐘を鳴らしていた村田氏が、外務省内で�狠躇姚甅瓩鮗�け、それを仕掛けた甘利氏が一切のマイナスを被らず、今、自民党の中枢にいる。
どこかがおかしい。
イラク戦争では、米国が主体となり、二〇〇三年三月二〇日から、英国、オーストラリア、ポーランドなどが加わる有志連合によって、イラクを攻撃した。
日本は、自衛隊のイラク派遣を二〇〇三年一二月から二〇〇九年二月まで実施した。
この戦争は、次の点で問題がある。
� 屮ぅ薀�が大量破壊兵器を持っている。テロ組織アルカイダとの結びつきがある」ことが戦争の口実に使われたが、現実にそれは事実ではなかった。それは、二〇〇四年、米国の公的機関がその存在を否定している。
�▲ぅ薀�においては、この戦争によって一段と国内情勢が悪化している。
現在、米国国民は圧倒的に、「イラク戦争は行なうべきではなかった」とみなしていると言える。こうした状況から、イラク戦争に疑問を持つのは当然である。私はこの時期、防衛大学校教授であったが、参議院外交安全保障委員会で疑問の発言を行なっている。
一方で、まさにこの時期、天木氏は駐レバノン大使として、次のような二本の意見具申を行なっていた。
�〇扱邂貉容�付「対イラク攻撃に対するわが国の立場」（意見具申）
国連安保理における対イラク攻撃決議の採択が不透明な中にあって、米国は単独攻撃を辞さずとの強硬な態度を一層明確にし、情勢は緊迫の極に達しつつある。
そのような状況の中にあって、日本はどのような立場をとるべきか（省略）
一．国連決議なしの対イラク攻撃は何があっても阻止すべきである（詳細省略）
二．中東和平交渉の一日も早い再開が必要である。
今こそ、わが中東外交が試されると本誌はレバノンに勤務して実感するのである。
�∋扱酘鷸容�付「今、わが国が行うべき外交努力」（意見具申）
一．対イラク攻撃が始まってしまった今、日本が全力で取り組むべきは、米国のイラク攻撃は正しかったと支持表明を繰り返すことでも、戦後復興の貢献策を急いで発表することでもなく、一日も早く戦争を終わらすべく国連による戦争停止の合意を実現させることである（省略）。
二．我が国が早期停戦の国際協調体制づくりにイニシアチブを取るべきと考える理由は次のとおりである。
《1》反米感情の高まり（詳細省略）。
《2》国連の弱体化（詳細省略）。
《3》日本の信頼の低下（詳細省略）。
《4》被爆国である日本、戦争を放棄した日本であるからこそ、世界に先駆けて平和の重要性を訴え、その実現に貢献すべき。
外務省には、伝統的に電報で各大使が意見を述べる「意見具申」という制度がある。
外務省がとっている政策に何らかの問題点がある時に、「意見具申」する。
本来であれば、こうした「意見具申」に対して、外務省が、「われわれの見解と異なるから、
けしからん」とはならなかった。
さて、天木氏の場合はどうなったか。
彼は、『さらば外務省！―― 私は小泉首相と売国官僚を許さない』（講談社、二〇〇三年）で次のように書いた。
二度目の意見具申の電報を出した三日後、レバノン大使公邸の私の元へ、外務省の北島信一官房長から一本の電話がかかってきた。（中略）
「あんな電報を打ってくるとはどういうつもりなんですか。（中略）あなたが小泉首相の政策に異を唱えていることが外部に明らかになれば、責任をとらされますよ。辞職するつもりなのですか」
脅しの電話であった。（中略）
竹内行夫事務次官から、一通の通知書が届いたのは、それからしばらくしてのことだった。
「（中略）勇退をお願いすることで取り進める。（中略）若返りを図る人事の必要がある
……」。
ここでも、天木氏が述べていることが正しいか否かに関しては、何ら議論されていない。
「あなたが『首相の政策に異を唱えていること』が、辞職に相当する」となったのだ。前述の村田元駐スイス大使のケースと同じだ。
ひょっとすると、読者の中には、「外務省員は官僚である。したがって、首相の指示に従うのは当然」と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、海外情勢に関しては、国内問題と違って、日本の閣僚よりも、外務省の幹部や現地の大使、大使館員の方が圧倒的に知識が高い。
だからこそ、外務省は「意見具申」という制度をとってきた。
私は、一九九〇年代初めに本書を書くにあたり、若き外交官への教科書のつもりで書いた。したがって私の見解だけにならないように、多くの人の発言を引用した。
その中の一つに、柳谷謙介氏の言葉がある（「第五章 政策決定過程 ―― ２ 外交政策
その中の一つに、柳谷謙介氏の言葉がある（「第五章 政策決定過程 ―― ２ 外交政策決定過程変化の持つ課題」を参照）。
「外交は綺麗事ではない。人気とりや手柄話の具でもない。外交は国益と国益とが正面か
ら切り結ぶ真剣勝負の修羅場である。
もとより外交は外務省の独占物ではない。とくに民主主義体制下において、公正な批判
や積極的意見開陳は大歓迎である。けれども、それは外交のプロの存在が前提であって、
プロを軽視してよいのではない。……
この際、外務省当局にも二つのことを注文しておきたい。まず、各界の有力者、実力者
の言動に屈することなく、正しいと信じる主張は辞表を懐にしてでも貫いて欲しい。省内
に無力感、挫折感が漂っているとしたら、ゆゆしきことである。
同時に、内外の世論に謙虚に耳を傾けるとともに、我が国外交の基調についての啓発も
怠ってはならない。」
いずれにせよ、外務省は変わったのだ。
私の知る限り、一九二〇年代にはすでに、首相、外務大臣の見解と異なる「意見具申」が出されている。ところが、その伝統がもはや、外務省にはなくなった。
そして言えることは、村田氏や天木氏や私は、古き時代の外務省のの空気で育っていたのだ。
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２１日発売『日本外交 現場からの証言』、正論を述べる人を排除する外務省�▲ぅ薀�戦争、自衛隊派遣に異を唱えた天木直人氏
2015-08-19 08:024
今日、米国のイラク戦争は行うべきでなかったというのが、米国を含め世界の世論である。
その中、当然日本も自衛隊を派遣すべきではなかった。
当時外務省内で、自衛隊のイラク派遣を行うべきでないと主張し、退官させられたのがお真紀氏である。今日、天木氏を評価する人は、日本社会の一部に存在するが、復権しないままが、基本である。
他方、イラク戦争に自衛隊を派遣すべしとの論を述べていたのが北岡東大教授であった。彼は安倍政権で、理論的支援の中心人物となっている。イラク戦争時の歪みを今日まで日ッパンているのが日本社会だ。
以下、『日本外交 現場からの証言』の記述。
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イラク戦争――天木直人元駐レバノン大使の義憤
二〇一一年「三・一一（東日本大震災）」による「福島第一原子力発電所事故」が起こる前に、原発に対する警鐘を鳴らしていた村田氏が、外務省内で�狠躇姚甅瓩鮗�け、それを仕掛けた甘利氏が一切のマイナスを被らず、今、自民党の中枢にいる。
どこかがおかしい。
イラク戦争では、米国が主体となり、二〇〇三年三月二〇日から、英国、オーストラリア、ポーランドなどが加わる有志連合によって、イラクを攻撃した。
日本は、自衛隊のイラク派遣を二〇〇三年一二月から二〇〇九年二月まで実施した。
この戦争は、次の点で問題がある。
� 屮ぅ薀�が大量破壊兵器を持っている。テロ組織アルカイダとの結びつきがある」ことが戦争の口実に使われたが、現実にそれは事実ではなかった。それは、二〇〇四年、米国の公的機関がその存在を否定している。
�▲ぅ薀�においては、この戦争によって一段と国内情勢が悪化している。
現在、米国国民は圧倒的に、「イラク戦争は行なうべきではなかった」とみなしていると言える。こうした状況から、イラク戦争に疑問を持つのは当然である。私はこの時期、防衛大学校教授であったが、参議院外交安全保障委員会で疑問の発言を行なっている。
一方で、まさにこの時期、天木氏は駐レバノン大使として、次のような二本の意見具申を行なっていた。
�〇扱邂貉容�付「対イラク攻撃に対するわが国の立場」（意見具申）
国連安保理における対イラク攻撃決議の採択が不透明な中にあって、米国は単独攻撃を辞さずとの強硬な態度を一層明確にし、情勢は緊迫の極に達しつつある。
そのような状況の中にあって、日本はどのような立場をとるべきか（省略）
一．国連決議なしの対イラク攻撃は何があっても阻止すべきである（詳細省略）
二．中東和平交渉の一日も早い再開が必要である。
今こそ、わが中東外交が試されると本誌はレバノンに勤務して実感するのである。
�∋扱酘鷸容�付「今、わが国が行うべき外交努力」（意見具申）
一．対イラク攻撃が始まってしまった今、日本が全力で取り組むべきは、米国のイラク攻撃は正しかったと支持表明を繰り返すことでも、戦後復興の貢献策を急いで発表することでもなく、一日も早く戦争を終わらすべく国連による戦争停止の合意を実現させることである（省略）。
二．我が国が早期停戦の国際協調体制づくりにイニシアチブを取るべきと考える理由は次のとおりである。
《1》反米感情の高まり（詳細省略）。
《2》国連の弱体化（詳細省略）。
《3》日本の信頼の低下（詳細省略）。
《4》被爆国である日本、戦争を放棄した日本であるからこそ、世界に先駆けて平和の重要性を訴え、その実現に貢献すべき。
外務省には、伝統的に電報で各大使が意見を述べる「意見具申」という制度がある。
外務省がとっている政策に何らかの問題点がある時に、「意見具申」する。
本来であれば、こうした「意見具申」に対して、外務省が、「われわれの見解と異なるから、
けしからん」とはならなかった。
さて、天木氏の場合はどうなったか。
彼は、『さらば外務省！―― 私は小泉首相と売国官僚を許さない』（講談社、二〇〇三年）で次のように書いた。
二度目の意見具申の電報を出した三日後、レバノン大使公邸の私の元へ、外務省の北島信一官房長から一本の電話がかかってきた。（中略）
「あんな電報を打ってくるとはどういうつもりなんですか。（中略）あなたが小泉首相の政策に異を唱えていることが外部に明らかになれば、責任をとらされますよ。辞職するつもりなのですか」
脅しの電話であった。（中略）
竹内行夫事務次官から、一通の通知書が届いたのは、それからしばらくしてのことだった。
「（中略）勇退をお願いすることで取り進める。（中略）若返りを図る人事の必要がある
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ここでも、天木氏が述べていることが正しいか否かに関しては、何ら議論されていない。
「あなたが『首相の政策に異を唱えていること』が、辞職に相当する」となったのだ。前述の村田元駐スイス大使のケースと同じだ。
ひょっとすると、読者の中には、「外務省員は官僚である。したがって、首相の指示に従うのは当然」と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、海外情勢に関しては、国内問題と違って、日本の閣僚よりも、外務省の幹部や現地の大使、大使館員の方が圧倒的に知識が高い。
だからこそ、外務省は「意見具申」という制度をとってきた。
私は、一九九〇年代初めに本書を書くにあたり、若き外交官への教科書のつもりで書いた。したがって私の見解だけにならないように、多くの人の発言を引用した。
その中の一つに、柳谷謙介氏の言葉がある（「第五章 政策決定過程 ―― ２ 外交政策
その中の一つに、柳谷謙介氏の言葉がある（「第五章 政策決定過程 ―― ２ 外交政策決定過程変化の持つ課題」を参照）。
「外交は綺麗事ではない。人気とりや手柄話の具でもない。外交は国益と国益とが正面か
ら切り結ぶ真剣勝負の修羅場である。
もとより外交は外務省の独占物ではない。とくに民主主義体制下において、公正な批判
や積極的意見開陳は大歓迎である。けれども、それは外交のプロの存在が前提であって、
プロを軽視してよいのではない。……
この際、外務省当局にも二つのことを注文しておきたい。まず、各界の有力者、実力者
の言動に屈することなく、正しいと信じる主張は辞表を懐にしてでも貫いて欲しい。省内
に無力感、挫折感が漂っているとしたら、ゆゆしきことである。
同時に、内外の世論に謙虚に耳を傾けるとともに、我が国外交の基調についての啓発も
怠ってはならない。」
いずれにせよ、外務省は変わったのだ。
私の知る限り、一九二〇年代にはすでに、首相、外務大臣の見解と異なる「意見具申」が出されている。ところが、その伝統がもはや、外務省にはなくなった。
そして言えることは、村田氏や天木氏や私は、古き時代の外務省のの空気で育っていたのだ。
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