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メトロン星人の本棚コミュの「あまちゃん  おら、ラゴンを見ただ !」

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 1

 2008年9月20日(土) 

 この日は東北の過疎の町、北三陸町にとって忘れられない日になった。
 観光協会の作ったホームページにアップされたミス北鉄のユイちゃんの映像の効果で、北三陸町に鉄道オタクが大挙して襲来したのだ。
 北三陸駅の駅長大向大吉と副駅長の吉田正義は、大慌てでユイを呼び出し、撮影会の準備や車両を増やしたりと対応に追われた。
 駅舎の中にある喫茶リアスのウニ丼も売り切れ、天野家では夏ばっぱが大慌てで追加のウニ丼を作った。
 お祭り騒ぎは夜まで続き、その日の北鉄には普段の五倍、二千三百人の乗客があった。
 まさに北鉄にとって奇跡のような一日であった。
 しかし騒ぎはそれだけでは終わらなかった。
 観光協会に努めるヒロシが、数日後アキの海女姿の動画をホームページにアップしたのだ。
 翌週には袖が浜のアキのところにも、オタクや観光客が押し寄せた。
 北三陸町に、時ならぬアイドルブームが巻き起こったのである。

 
 袖が浜の夜は暗い。潮の香り、浜に打ち寄せる波の音。 
 そしてぽつんと見えるのは、堤防の先にある灯台の明かりだけ。
 カメラマン志望のアイドルオタク、ヒビキ一郎は、酔い覚ましをかねて浜をぶらぶらと歩いていた。
 袖が浜の夜景を撮ろうと思っていたのだ。
 首から下げているのは自慢のキャノンEOS40D。かれはいつでもカメラと、その機材を詰め込んだバックを手放さない。
 実家は東京だが、ユイの個人ブログに注目し、この北三陸市にやってきて観光協会にねじ込んで、ホームページにユイの動画をアップさせた。
 今回のにぎわいも、その動画が原因だった。
 北鉄始まって以来、二週続けての、にぎわいは初めてだった。
 観光協会の菅原にリアスでおごってもらい「これからも頼むなと」頭を下げられ、駅長の大向からも「北三陸を頼む」と肩をたたかれ、いい気持になった。
 もっとも全員酔っぱらっていたので、そんなことは全然覚えていなかったのだが。
 「俺の写真が、このブームを巻き起こしたんだ。がんばるぞぉ」と、ひとりで気勢をあげながら歩いていた。
 
 岩場に続く道の先から、大きな黒い人影がこちらに歩いてくる。
 ぺたり、ぺたり・・・と湿った足音、そいつはぼろぼろのシャツを頭からかぶっているように見えた。
 こんな時間に誰だ・・・
 あたりには民家もなく、まして夜潜る海女なんて誰もいない。
 道に迷った観光客か。
 と、思ったとき、その影が電信柱の明かりの下を横切った。
 背筋が凍りついた。
 ぼろぼろのシャツと見えたものは、体中を覆うウロコやひれだった。背の高さは2メートル以上ある。
 顔はアンコウかオコゼのようにつぶれ、ぎょろりとした目だけが異様な光をたたえている。
 両手は細く、肘から肩にかけて魚の背びれのようなものがついていた。
 海からあがったばかりのように、全身からぽたぽたと海水をしたたらせて、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
 ヒビキ一郎は腰が抜けた。
 人間じゃない、本物の怪物だ。あわわ・・・・・
 そいつは、ヒビキに気が付いたのか、ゆっくりと両手を伸ばし口から異様な臭気を吐きながら、こちらに向かってきた。
 逃げたいけど、動けない・・・足がいうことをきかない。
 しかし習慣とは恐ろしいもので、手が自然に動きカメラを構えた。

 はっと気が付くと、そいつはまさに目の前にいた。
「うわーーー」
 叫びながら、オートシャッターを切る。
 ストロボがつづけさまに強烈な光をあびせると、化け物はたじろいだ。
 ヒビキは立ち上がると、這うようにして逃げ出した。
 怪物は、ぐわーーと叫びながら目を押さえている。手を振り回すと、あたりをなぎ払い軒下の植木鉢などを破壊しつつ海の方へと消えて行った。
 ヒビキ一郎は、後も見ずに走った。
「やった、スクープだ。怪物を撮った。怪物を撮ったぞぉ・・・・・」
 そのぼやけた一連の写真が、あらたな騒動を袖が浜にもたらすことになるとは。
 天野家で、眠りこけている天野アキには、まったく想像すらできなかった。
 あたりまえだけど。

 
 2

 そんな事件が起こる数日前。
 漁協の中にある海女クラブでは仕事のあと、海女達が集まっていつものバカ話が始まっていた。
 丸いちゃぶ台、古い扇風機に麦茶。古びた座敷だが居心地はいい。
「アキちゃんも、うまくなっだな、息もつづくようになったし、泳ぎも早くなった」 
 
菓子鉢の中の南部せんべいをかじりながら今野弥生がアキをほめた。
「いやぁ、まだまだだ。こないだ溺れてから、底まで潜るのがコワぐなってるべ」
 熊谷美寿々が麦茶片手に言った。溺れかけたアキを助けたのが美寿々だったのだ。
「でも、おら潜りてぇ、たくさんウニがとれるようになりてぇ」
「いいやアキ、あせったらだめだ」と、夏ばっぱ。
「いいか海には化けもんがいる。昔っから無理して潜った海女は必ず化けもんに襲われて死んでしまうんだ」
「そんなの迷信だべ」
 黙っていた長内かつ枝が言った。
「いいや迷信じゃねぇ。海女に伝わる本当の話だ」 
 かつ枝は息子を海難事故で亡くしたこともあり海の恐ろしさをよく知っていた。 
「昔から日本のあちこちに海女がいた。そんな海女たちに伝わる話だ。全部が全部、迷信ではねぇ」
 かつ枝は、冷えた麦茶をひとくち飲むと続けた。
「伊勢の方の海女に伝わる話だ。小かんという海女が曇りの時にひとりでアワビを取りに潜った。沖の岩場に船をつなぎ潜っていったんだ。
 ところが底まで潜ると、自分と同じような格好の海女がいるでねぇか。
 おかしいな。船は見なかったが、と思って・・・・よく見るとその海女の足元がかすんで見えねぇ。
 しまった、これはトモカズキだ。
 小かんが気づくと、その海女はくるりと振り返りアワビをすうっと差し出したんだ。
 その途端、ふわっと体になにかが巻きついて動けなくなった。
 息も続かなくなり、女も近づいてくる、小かんは持っていたノミを振り回し体に巻きついていたなにかを切り裂いて必死に浮かび上がった。
 村に帰った小かんがその話をすると、年寄りの海女が、よかったなぁ、トモカツギがもし、にこりと笑ったら、お前の命はなかったろうに。
 と、いったとさ」
「じぇじぇじぇ・・・・怖ぇえええ」
 アキが震えあがった。
「他にもあるぞ。この辺ではニイギョっていう子供の化けもんがいるだ。毛が生えた子供のようなかっこをしてるらしい。
沖で漁をする時は、ニイギョが来ないように船べりを叩いて追い払うんだ」
「あ、それならオラも聞いたことがある」
 あんべちゃん、安部小百合が話に加わった。
「浜の岩場の奥の方に、ちっこい祠(ほこら)があるべ、あそこにはニイギョ様が祀ってあるって聞いただ。漁協でも時々お神酒をそなえたりしてるんだ」
「あーーーーあの祠かぁ、なんだろうと思ってたけどニイギョの祠なんだべか、でも中には、なんも入ってねぇべ」
 弥生が相槌をうった。
「いーや、あれはニイギョじゃねぇ。たしか羅厳(らごん)様という、海の神様の祠だ」
 えーーー、みんなが夏ばっぱを見た。
「おらが子供頃、ばあちゃんから聞いた話だから、ずいぶんと昔のことだ。この浜には羅厳様と言う海の神様がいるんだと。
 恐い神様で怒らせると海の底であばれて津波を起こすということだ。だから漁師は祠におそなえをして、浜の無事を祈るんだ」
「さすが夏ばっぱ、そんなことは漁協長も知らねぇべ」
「いやーー、あんべちゃん。あの人は、海女のことも女のことも、なんもわかってね」
 もと夫婦だったかつ枝が、あきれたように言い捨てた。
「んだな。あいつは、金の事しか考えてねぇ」
 弥生の言葉に海女クラブのみんなが、げらげらと笑った。

 アキは、そのちいさな祠が気になった。明日見に行って手を合わせよう。
 どうかウニを取らせてくださいと、お願いしてみようと思った。


 3

 翌日は変な天気だった。えらく蒸し暑くて、空はどんよりと曇り、沖では波が大きくうねっていた。
「なんかいやな天気だな、夏ばっぱ、どうすべえ」
 弥生が沖を眺めながら、ぽつりと言った。
「うーーん、午後からは荒れるかもしれねぇ、はやぐ切り上げた方がいいかもなぁ・・・」
 二人は岩場に続く堤防の上から、沖の様子を眺めていた。
 そこに、アキが売店から走ってきた。
「夏ばっぱ、もうお客さんさ来てる、海女さ潜るのを待ってるだ」
 ここしばらくは観光客の出足が早い。午前中から何組もの観光客が袖が浜にやってくるのだ。
「かっきゃねぇ。あんべちゃんと美寿々に頼むか。とりあえず潜って、ウニを取って、あと足りない分は漁協のいけすから持ってくんだ」
 夏ばっぱが指示をだす。
「アキ、おめぇ、弥生といっしょに売り子しろ」
 アキは、あからさまにがっかりした顔をした。
「えーーーおらも潜りたい。もうすぐ漁の時期も終わるべ、少しでも潜って練習しねぇと・・・」
「だめだ。今日は天気がおかしい。こんな時は海の潮の流れがいつもと違う。沖から早い流れが来たり、逆に沖さ流されたりする。
おめぇはまだ、潮の流れが読めねぇ。売り子さ、してろ」
 アキは、おぼれた時のことを思い出した。
 夏ばっぱの言うことを守らねぇと、また海女禁止ということになりかねない。
 とぼとぼと売店に戻っていく。その背中に夏ばっぱの大声が響く。
「アキ、観光海女はサービス業なんだぞ。笑ってけぇーー」
「はい !」
 アキは、ぴょんと飛び上がった。

 ところがお昼をすぎると、天候が回復してきた。
 空は青く、波もおだやかになり、からっと晴れて夏が戻ってきたかのようだ。
「夏ばっぱ、これならおらも潜ってもいいべ」
 お昼休みがすむと、アキがにこにこ顔で走ってきた。
「うーーん。いいかアキ、海の中はまだ流れが落ちついてねぇ。気をつけて潜んだぞ」
「うん」
 アキはあんべちゃんといっしょに潜ることになった。
 水の中は、いつもと違って濁って視界が悪くなっていた。
 相変わらず底まで潜ってウニを取ることができないアキは、ウニのいる場所までなかなか届かない。
 おまけに夏ばっぱの言うとおり、底の方に早い流れがあって、いつのまにか入り江の入口まで流されていた。
 何度目かの息つぎのあと、アキは岩場の途中に引っかかっているおかしなものを見つけた。
 (・・・・・なんだべ、こんなの見たごとねぇ・・・・)
 それは瓜のような形をした赤い固まりだった。岩場のくぼみに引っかかってゆらゆらと揺れている。
 近寄って触ってみると、意外と固くどっしりとした重さもある。
 ナマコでもウニでもねぇ。アキはその固まりを抱えると水面に向かって浮上していった。
「アキーーーーどこさ行ったーーーー」
 浜では、アキの姿が見えないので美寿々や弥生が、声をあげて探しいた。
「心配ねぇ、おらここだーーー」
 アキは赤い固まりを抱えたまま、浜に上がってきた。
「なんだ、そりゃ。」ベテラン海女の面々が皆おどろいた。
「え、みんなも知らねぇの・・・・」
「おら四十年も海女やってるけど、この浜でこんなもんが揚がったのは、はじめてだ、でっけぇ珊瑚の玉見てえだな」
 ベテラン海女のかつ枝も、首をひねってる。
「夏ばっぱ、これ見てけろ」
 アキは夏にも、その赤い固まりを見せた。
「うーーーん、こんなものは見たことねぇ。きっと沖の深いところから流されてきたんだな」
「なんか気味が悪ぃなぁ、捨てた方がよぐねぇか」
 弥生が言うと、夏は首をふった。
「とりあえず、漁協のいけすに入れとけ、もしかして珍しいもんなら観光客が喜ぶべ」
「うん」
 アキはたらいに海水を入れてその赤い玉を漁協に持って行った。

 
 意外にもいちばん喜んだのは、漁協長の長内六郎だった。
 夕方観光客が帰って海女たちが海女クラブに戻ってみると、長内は電話口ではしゃいでいた。
「そう、そうですか。いやーーー取材に来ていただけると。はぁーーありがとうございます。はい、はい・・・ではーー」
 拝むようにして電話を切ると、長内はにこにこしながら言った。
「岩手新聞が、明日取材に来るってよ。ひょっとしたら、こいつはお宝になるかもしれねぇ」
「じぇじぇ」
 海女たちが一斉に叫んだ。
「そんただ珍しいもんだったのけ」美寿々が目をむいた。
「ああ、おれも見たことがねえし、図鑑で調べても載ってねぇ、新聞社に電話したら水産の先生に見てもらうことになった」
もし珍しい生き物なら新聞に載るし、ひょっとすると龍涎香(りゅうぜんこう)なんて宝物だったら、すごい金になるかもしんねぇ」
「そりゃホントか」と、かつ枝。
「龍涎香ってなんだ」
「美寿々、知らねぇのけマッコウクジラの腹の中にできる石みてぇなもんだ。いい匂いがするんで高くうれるんだぁ。ちっこい奴でも百万円はするとよ」
 漁協長が腕組みして考え込む。
「そうさな、この大きさなら、まず五百万だ」
「そんな金みたこともねぇ、えーーーと、百万でもウニ、二千個分だ。五百万なら・・・・あわわ・・・一万個」
すばやくあんべちゃんが、計算する。
「じぇじぇじぇ!!!!」
「漁協長。おら達も新聞に載るのか」と弥生。
「ああ、北の海女がとったんだ。この機会に、うんと宣伝してもらうべ、したら今よりもっと観光客が増えて儲かるべーーーー」
 長内の目がキラキラと光っている。
 海女のみんなは、写真撮られるなら、おめかししねぇとなぁ、などとはしゃぎ始めた。
 そこに夏ばっぱのカミナリが落ちた。
「バカこくでねぇ。みんなして、なに夢みてぇなこと考えてるだ。アキ、けえるぞ、さっさとしたくしろ」
 意外な剣幕にあっけにとられる海女の面々。
 アキは、自分の取った赤い固まりをもう一度ゆっくりと見たかったが、夏ばっぱに手を引かれて、引きずられながら帰っていった。
 家に続く坂道の途中で、アキは聞いた。
「なぁ夏ばっぱ、なして怒るんだ。せっかくおらが獲った珍しいもんだべ。みんなは喜んでるのに」
 なぜか夏ばっぱは、その問いには答えずに、厳しい顔をして黙って坂を上ってゆく。
 その顔を見たアキは、それ以上話しかけることが出来なかった。

 4

 北三陸市と袖が浜に異変が起こったのは、その翌日の事だった。
 観光協会に朝から変な電話がひっきりなしにかかってくる。
「え、なんですって怪物、そんなの聞いてないですよ。え、隠すなって。なんの事ですか」
「あのーそんな事、知りませんよ。警察、自衛隊・・・・来てませんてば」
 観光協会会長の菅原と事務員の栗原しおりは、電話口で困惑していた。
 とにかく相手も興奮してるし、怪物だの被害だの、警察だの自衛隊だの、言ってることもおかしい。
 どうも要約すると、袖が浜に怪物が現れて人を襲ったという・・・・
 そこにホームページ担当の足立ヒロシが、飛び込んできた。
「見ましたか、これ!」
 大慌てで、パソコンを立上げ北三陸市観光協会のページからリンクをたどる。
 北鉄応援団という、ヒビキ一郎のホームページだった。
 そこにアップされている写真を見て、一同はあぜんとした。
 フラッシュの激しい光に驚き、怒り、目をむき、鋭い歯の生えた口を開けた怪物の写真が載っていた。
 連続写真で何枚も取ってあり、それをつなぎ合わせた動画もある。
 まさに怪物に襲われるホラー映画の1シーンのようだ。
「この写真や動画、あちこちのサイトに拡散して、すごい勢いで広まってます。出どころはあのヒビキ一郎ですよ」
「じぇじぇじぇーーーー」
 また電話が鳴る。ちっ! と舌打ちした栗原しおりが電話を取ると、袖が浜の漁協長長内六郎からだった。
「菅原ぁーーーいったい何があったんだぁ、ゆるぐねぇ。浜に変な奴らが集まってきとる。怪物はどこだって、えらい剣幕だ。おめぇ、何しでかしたぁ」
 菅原は、突っ立ったまま呆然として受話器を戻した。
 ふつふつと怒りが湧いてくる、せっかく盛り上がってきた北三陸市のイメージをぶち壊しやがった。
「あのオタク野郎めぇーーーー」
 菅原はこぶしを握りしめて吠えた。

 一方、袖が浜も大変な騒ぎになっていた。
 いつもの鉄道マニアや、ユイちゃん、アキちゃんファンとは違ったオタクやマニアが押しかけたのだ。
 海岸線の道路は渋滞になり、浜にはカメラを持ったオタク達があふれている。
 オカルトマニア、妖怪マニア、特撮ファン、トンデモ物件愛好家、怪獣オタクまで、完全にジャンルが違っていた。
 その中心にいるのは、ヒビキ一郎だった。
 自分の撮った動画を再生しながら、現場を歩き回り、何度も浜と襲われた現場を行き来しながら解説していた。
 また一部のファンは、海岸に降りて怪物の痕跡が残ってないかと、岩をひっくり返して写真を撮ったり。
 袖が浜の町中を、うろつきまわって民家の庭に侵入して、どなられたりと、迷惑行為を繰り返していた。
 そのうち誰かが通報したのか、パトカーまでやってきた。
 するとそれを見たマニアたちは、やはり警察が来るなら本物だと勘違いして、パトカーを取り囲んで質問攻めにする。
 あわてた漁協から有線放送が流れ、海女たちも急ぎ漁協に集まってきた。

「漁協長、なしたことだ、この騒ぎは! 」弥生がすごい剣幕で詰め寄る。
「俺は知らねぇ、なんのことか見当もつかねぇ」
「あいつらは観光客じゃねぇ。なんか違うものをさがしてんだ。怪物とか妖怪とか言ってだな」
 かつ枝は、すでにマニアからいろいろと聞き出していた。
「じぇじぇ、怪物が浜に現れたのけ」アキが身を乗り出す。
「おら、あのオタクの一郎が、オタクどもを連れまわしてるのを見ただ。自分が襲われた本人だと言いふらしてただ」
「じぇ、美寿々、ほんとか」
「あの野郎、とんでもねぇ騒ぎを起こしやがって、まだそのへんにいるだか?」
 夏ばっぱは、腕組みしてじっと考え込んでいたが、突然口を開いた。
「とにかく、あのオタクの一郎をここに引っ張って来て問い詰めるべ、どうやら騒ぎのもとはあいつだ」
「ようし、まかせとけ。あの野郎、とっ捕まえてやる」
 そう言うなり、漁協長は飛び出した。

 30分後、ヒビキ一郎は漁協長と漁師の男たち、それに駐在所の警官に確保され、漁協に連れてこられた。
 漁協のまわりは、事の成り行きを見守るカメラを構えた大量のオタク達が取り囲んでいる。
 ヒビキ一郎はイスに腰掛け、まわりを海女や漁師たちに取り囲まれていたが、臆する様子はなかった。
「この騒ぎは、いってぇどうゆうことだね。こっただ騒ぎを起こして、人騒がせにもほどがある」
 駆け付けた初老の警官が事情聴取をする形になった。
「僕は真実を語ってるだけですよ。見たでしょこの写真を。この出来事は昨夜、この浜で起こったんだ。そして襲われたのはこの僕なんです」 
 テーブルの上に置かれたノートパソコンのモニターには、問題となった映像が繰り返し再生されている。
「するとなにかね・・・・昨晩、袖が浜にこの怪物が現れて、君を襲ったというのかね」
 警官も窓越しにのぞきこむ大量のオタクが気になるらしい。
「そうですよ。何度も言ってるでしょ。袖が浜は危険なんだ。またあの怪物が現れて人を襲うかもしれない。いや絶対に襲う。襲われるんだ。僕はそれを警告してるんだ。
真実を伝えるのは真のジャーナリストの義務と言える。昨夜は僕の機転でからくも怪物を退けたが、深海からの侵略はすでに始まっている。
それは人類に対する挑戦だ。深海の怪物、そうだ海底人、いやクトゥルーかもしれない。この海は人間のものだ。奴らに渡してなるものか」
 ヒビキ一郎は、すっくと立ち上がり、拳を振り上げて大声で叫んだ。
「我々は、立ち上がらなければならない!!」
「おおーーーー!!」
 窓の外のオタク達から大きな拍手が巻き起こった。バシャバシャとフラッシュが焚かれ、室内が騒然とする。

「このバカどもがぁ !!!」
 夏ばっぱの大声が響く。その勢いはすさまじく、窓の外のオタク達も一瞬で黙り込んだ。
「おら、この袖が浜で五十年も海女やってるが、そんただ怪物のことなんぞ、聞いたことも見たこともねぇ。
こんなぼやけた写真ひとつで大騒ぎするなんて、おめぇら頭どうかしてんんじゃねぇのか。いいか、オタクの一郎、おめえ、まわりのオタクさ連れてとっとと帰れ、この浜からでてけぇ!」
 今度は漁協に集まった漁師と海女たちが、気勢をあげた。
「そうだ、そうだ。けぇれ、けぇれ!!」
 漁協の外では、集まったオタクと漁師がもみあいを繰り返している。まさに一種即発の事態だった。
 それからが、また大変だった。
 無線で警官の応援が呼ばれ、乱闘寸前のところ、なんとか騒ぎをおさめてヒビキ一郎とオタク達を浜から追い出した。
 その騒ぎで海女クラブのメンバーはくたくたになり。本日の観光海女は休業。
 漁協長も海女クラブの海女たちも、ばったりと座敷に倒れ込んだ。
 そこに今度は、観光協会の菅原と北鉄の駅長の大向大吉が、声を揃えて怒鳴り込んできた。
「あのクソオタク野郎は、どこだーーーー!!」
「あぁーーーー」
 そこにいた全員が脱力のためいきを吐く。
「もうーー遅いよ。オタク達は浜からいなくなったべ。みんなしてやっと追い出したとこだ」アキが答える。
「ええっ、帰っちゃったの・・・・・」
「なんてこった。この俺がぶん殴ってやろうと思ったのにぃ・・・・・」
「駅長さん、それやったらおまわりさんに捕まるべ」アキが笑った。
「とりあえず、騒動は収まっただ。でもこんなことが続いたら、漁どころじゃねぇ・・・・」漁協長ががっくりと肩を落とす。

「あのーーーすみませーーーん。お取込み中ですか」
 恐る恐る漁協の入り口から中を覗き込む白いシャツ姿の男性。
「え、だれ?」
 そこにいた、みんなの声が揃った。


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 5

「初めまして、岩手水産技術センターの古谷といいます」
 名刺を差し出して男は、そう名乗った。
 すらりとしたなかなかのハンサムで、物腰の柔らかい知的な感じの青年だった。
「昨日岩手新聞の友人から連絡をもらいまして、なにか浜で珍しいものが獲れたということで、それを見せていただきに来たのです」
 古谷が言うと。
「おお、そうでしたな。では早速・・・・・」
 漁協長は、立ち上がるといけすから赤い玉をスチロールのトロ箱に入れて持ってきた。
「おおーーーーーー」
 あらためて全員が歓声を上げた。
 いけすに入れておいた赤い球は、最初に見た時と違い、あきらかに大きくなっていたのだ。しかも色も鮮やかになり、つやつやと異様な輝きを見せている。
「これ、おおぎくなってねぇか」弥生が触ろうとすると、古谷が止めた。
「さわらないで、これは私も初めて見たが・・・・・もしかして」と声を詰まらせた。
「先生さ、これはいったいなんだべ」
 夏ばっぱが皆を代弁するように聞いた。
「これは・・・・ラゴンの卵ではないかと思います」
「じぇじぇじぇ、ラゴンって、夏ばっぱの言ってた神様。本当にいたのけぇ」
 アキが叫ぶ。
「なんだ、そのラゴンってのは」
 大向大吉と菅原も身を乗り出してきた。
 古谷は、しばらくじっと黙り込んでいたが、やがて思い切ったように語りだした。

「ラゴンと言う生き物は、日本海溝に住んでいると思われる深海の生物です。私の恩師にあたりる石井博士という方がその存在を予言してました。
昭和四十一年、1964年当時、博士は伊豆半島沖の海底火山を調査するため、近くにある岩根島という島に滞在しておりました。
そこで、このラゴンを目撃したというのです。残念ながらその後、噴火の影響で岩根島そのものが津波に襲われ、ほぼ壊滅。現在は岩礁だけの無人島になっています。
幸いにも住民は船で避難できましたが、家財や資料は、すべて失われ、唯一博士の持ち出した日記とノートのみが伝わっています。
私は学生の頃、石井博士にそのノートを見せてもらったのです。そこにはこの赤い球のことも書いてありました。
そう、ここにあるのが、ラゴンの卵であると思われます」
 漁協にいた全員が黙り込んだ。

「アキ、おめぇとんでもねぇものさ獲ってきたんだな」夏ばっぱが、ぼつりと言った。
「その石井先生は、どこさいるんだ」かつ枝がたずねると。
「もうずいぶん前にお亡くなりになりました。学会からは異端として無視されつづけ、失意のまま病気で・・・・」
「じゃあ、このことを知ってるのは」
「はい、私と他の弟子数人、そして妹さんだけだったと思います」
「お願いです。この卵を私に研究させてくれませんか。ご迷惑はかけません。石井博士の無念を晴らしたいのです」
 古谷はすがるような眼をして、皆に深く頭を下げた。
「そりゃ、ダメだ」夏ばっぱが、ハッキリ断った。
 えーーー、全員が夏ばっぱの方を見た。
「これで納得がいっただ。あのオタクの一郎が見たのはラゴンにまちげぇねぇ。この卵さ、とりけぇしにやってきたんだ」
「じぇじぇじぇーーーーーー」
 全員が叫ぶ。
「昔々の事だ。おらのばあちゃんから聞いた話だ。浜に羅厳さまの卵が揚がったことがあった。
羅厳さまは卵をけえしてくれと頼んだが、村のもんは欲に目がくらんで羅厳さまを追い払っただ。
その夜、村は大津波に襲われて、みんな死んでしまったが、生き残った海女が卵さ、羅厳さまに返してゆるしてもらったとよ。
あの祠は、その時の事を忘れねぇ用にと、その海女が作ったんだ。
おらは、この卵を羅厳さまにお返しするだ。そうしねぇと、また大津波がくるだぞ」
 海女たちも漁業長も、観光協会の菅原も駅長の大向も、そして古谷までもが驚きに包まれた。
 長い沈黙があった。
「夏ばっぱ、わかった。この卵はかえすだ」アキが言った。
「よく言った。それでこそおらの孫だ」
「そんな、貴重な資料なんですよ。金儲けじゃないんだ。太古から続く神秘の生物の謎が解明されるんですよ。大発見なんですよ」
 古谷は、力説したが、すでに遅かった。
「そういうことなら、協力すんべ」大向が賛成する。
「そうだ、大津波が来たら観光どころのさわぎじゃねえべ」と菅原。
「あああ、五百万が、消えたぁ」と漁業長
「水産センターのあんちゃんよぉ、もうあんた、あきらめな、子は親にかえしてやんのが人情ってもんだべ」
 あんべちゃんと美寿々が、古谷にくっついて、くねくねと体を寄せる。
「あんた、よく見るといい男だねぇ・・・」
 ひっーーーと美寿々に手を握られて、古谷が震えあがった。

 いきなり漁協で「K3NSP 北三陸をなんとかすっぺ緊急サミット」が始まった。
 簡単に言うと作戦会議である。
「問題は、どうやって卵をラゴンに返すかだな」観光協会の菅原がホワイトボートを引っ張り出して議題を書きこむ。
「でもよう。ラゴンさんは、いつ来るんだべ」と弥生。
「ラゴンは深海の生物です。光を嫌います。卵の様子から見て孵化は近いでしょう。今夜きっとまたやってきます」
「おっ水産センターのあんちゃん、あきらめて返す気になったね」
 にやにやと、かつ枝が笑っている。
「ははは・・・もう卵より、自分の身の安全の方が大事ですから・・・・」
 古谷の横には美寿々とあんべちゃんの二人が、べったりと寄り添い離れない。
「夜になったら、あのオタクどもも、またやってくるべ。あいつら、とてもあきらめたとは思えねぇ」
 漁業長が腕組みしてため息をつく。
「そうだなあ、あいつらの事も考えねぇとな、警察も帰っちまったし、なんとかあいつらに邪魔されねぇ方法を考えねぇと・・・」
 夏ばっぱの言葉で、古谷がなにか思いついた。
 美寿々とあんべちゃんを振り払うと、古谷は立ち上がった。
「それなら、いい考えがあります」

 6

 その日の夜、九時過ぎから袖が浜の駅前には、例のオタク達が集まってきた。
 最初は二、三人だったが十時過ぎには二十人を超えた。その中にはヒビキ一郎の姿もある。
 皆、カメラを持ち、中にはサバイバルゲームのように戦闘服を着てモデルガンを隠し持っている男たちもいた。
 その様子は、北鉄駅長の大向大吉が駅舎の中から監視しつつ、携帯で作戦本部のある漁協に報告していた。
「こちら袖が浜駅、オタク達が海岸に向かって動き始めた。ほぼひとかたまりだぁ」

「了解。俺もこれからそっちへ向かう。おめえはあいつらの後さつけて報告してくれ」
 作戦本部のある漁協で待機していた漁業長の長内が、携帯を片手に自転車で飛び出した。
「菅原ぁ、やつらもうすぐ来るぞ。用意はいいかぁ」
 駅と海岸の中間にある天野家では、菅原と古谷が待ちかねていた。
「漁業長、こっちは準備完了だぁ。まかせとけ」菅原が返す。
 しかし、心配なのはむしろ海岸にいる海女クラブの方だった。

 夏ばっぱと海女クラブのメンバーは、二人一組になって海岸沿いに分かれて待機していた。
 ラゴンが上陸しそうな所を見張り、ラゴンを見つけしだい卵を返すためだ。
 あんべちゃんと美寿々、弥生とかつ枝、そして夏ばっぱとアキ。卵はアキが持っていた。
 それぞれ携帯に懐中電灯、そしてラジカセを持っている。
 古谷からラゴンは音楽が好きだって教えてもらったのだ。
 博士の手記には、岩根島にラゴンが現れた時にラジオの音楽を使っておびき寄せることが出来たと書いてあった。
 どこに現れるかわからねぇラゴンだが、卵を取り返しに来るのは間違いない。
 現れたら、うまく音楽で誘導して時間をかせぎ、卵をもった夏ばっぱとアキが駆けつけることになっていた。
「ラゴンを見つけたらかけつけるんだ。その間の時間稼ぎを男たちがやってくれる」
 夏ばっぱは、アキにそう言った。
「卵・・・・またおおきぐなってる。おめえもかあちゃんの所に帰りたいんだべ」
 スチロールのトロ箱に入った卵をアキは、じっと見つめていた。
 
 ヒビキ一郎を先頭にオタク達は、あたりを警戒しながら海岸に向かっていた。
 やはり突然襲われるのが怖いのだろう、ひとかたまりになり、カメラを構えつつゆっくりと海岸に向かっていた。
 袖が浜の集落の中ほどは、ちょっとした広場になっている。そこまで来た時、突然に大声が響いた。
「怪物がでたぞーーーー」
 誰が叫んだのかは確認できない。あわてて物陰に隠れるもの、カメラを構えて駆け出すもの。集団は一気に緊張した。
「出たか、海底人め。こんどは捕まえてやるぞ」ヒビキ一郎は奮い立った。
「こっちだーーーー」
また叫び声がする。分かれた数人が声のする方に走った。
 と、また「こっちに出たぞーー」と別の声が叫ぶ。また数人が分かれて走っていった。
「おい、バラバラになるなぁ。襲われるぞぉ」
ヒビキ一郎が止めるが、すでに浮足立った集団は分散を始めた。
 
 菅原の携帯に着信が入る。
「奴らの一部が最終防衛ラインを突破、海岸に向かいそうだぁ」大向だ。
「ようし、あれを出せ、最大出力で頼むーーー」菅原が携帯で古谷に指示をだす。

 少なくなった取り巻きとおろおろしていたヒビキ一郎の真後ろから、突然怪物が現れた。
 民家の庭に潜んでいたのだろうか、うおーーーと奇声をあげて襲い掛かった。
 驚いたヒビキ一郎は、写真を撮る間もなく悲鳴を上げて仲間と逃げた。
 前とは違うすばやい動きで後を追う怪物。追われた集団は、別の集団と合流し雪崩をうって逃げ始めた。
 あたりからは、怪物だぁ。こっちだぁ。こっちに逃げろぉと、声がする。
 袖が浜の町中は、一歩奥に入ると細い道が入り組んで迷路のようになっている。
 路地を逃げ回っていたヒビキ一郎たちは、前方に明かりを見た。
 助かった、と思い全力で駆け抜けようとした瞬間、体の自由が利かなくなった。
 もがくように倒れ込むと、その後ろからまたオタク達が走ってきて、倒れ込む。
 路地の出口には漁網が張り巡らせてあったのだ。
「ようし、群れはここで一気に殲滅すっべ」
 屋根の上に待ち構えていた長内漁業長が携帯を切る。
 下を見るとオタク達が網にからまってじたばたしてる。屋根の上からそいつらめがけて、古い漁網を投げた。
「うわぁーーーーー」もうどうにもならない。幾重にも重なった網にからみつかれてオタク達は身動きできなくなった。
 そのときヒビキ一郎は見た。目の前に、あの怪物がいたのだ。
 しかしその怪物は、頭を両手で持ち上げるとすっぽりと外した。怪物の顔はよくできたマスクだったのだ。
 体は黒いウェットスーツにぼろ布をまいたもの。その正体は古谷だった。
 古谷は研究のために、石井博士のスケッチをもとにして実物大のラゴンのマスクを造っていたのだ。
「えーーーーっ、怪物の正体って着ぐるみぃーーーー」
 オタク達の悲痛な叫びが響く。

 そのころ海岸ではついにラゴンが出現した。こっちはもちろん本物だ。
 最初に見つけたのはあんべちゃんだった。海から上がって浜を歩く姿を見つけた。
 すぐに携帯で連絡を取る。弥生とかつ枝の二人もかけつけたが、アキと夏ばっぱが遅れている。
 ラゴンは浜から町中に続く坂を上ろうとしていた。
「あああ・・・そっちに行ったらダメだ」美寿々が思わず声を上げた。
 その声に気付いたラゴンが吠えた。昨晩のこともあるのか、かなり怒っている様子だ。
「音楽だ、音楽」あんべちゃんがラジカセのスイッチを入れる。
 流れてきたのは高田みずえの「潮騒のメロディ」だった。流れるようなピアノのメロディーが違和感たっぷりに流れる。
 しかしラゴンは、首をかしげただけで音楽に気を取られるような素振りはない。
 うがーーーーと声を上げつつ、海女たちに向かってくる。
「話がちがーーう」涙声になるあんべちゃん。どうやらすべてのラゴンが音楽好きではなかったらしい。
「あわわわ・・・この曲がだめなんだべか」弥生がうろたえていると、かつ枝が言った。
「おめえ、歌うまかったろう、あれ歌ってみれ」
 えっ! 
 一瞬、わけがわからなくなった弥生だったが、こちらを襲おうと近寄ってくるラゴンを見て、いきなり歌いだした。

「わたしのーーーお墓のまーえでーー泣かないでくださいーーーー♪」
 なんと「千の風になって」である。野太いその声は、美声と言うよりは破壊力抜群のかくし芸と言った方がいい。
「そこに私はーーいません。眠ってなんかいませんーー♪ 千の風にーー千の風になーーあっってーー♪」
 なんとラゴンが苦しみ始めた。頭をかかえてしゃがみこんでしまった。
 おそるべし弥生の歌唱力。
 
 その時、夏とアキが卵をかかえて走ってきた。
 しかし目の前の光景が信じられずに、ちょっと立ち尽くしたが、気を取り直して夏が声をかけた。
「弥生、もういいべ。早く卵を返すだ。アキ、おめえが獲ったもんだ。おめえが返せ」
「えーーーー」アキが叫ぶ。
「なしておらが・・・・」
 ラゴンが立ち上がった。そして目の前にある卵に気が付いた。スチロールのトロ箱の中の卵に変化が起こったのだ。
 赤い卵の殻がはじけるように割れて、小さなラゴンの赤ちゃんが生まれてきた。
 箱を抱えていたアキが恐る恐る近づき、そっと箱を砂浜に置くとラゴンの方に押し出した。
 ラゴンとアキの目があった。恐い怪物だと思っていたラゴンだが、その目には意外なやさしさがあった。
 ラゴンは、そっと赤ん坊を抱えると、海に向かって歩み始めた。
「帰っていくんだ・・・・・」夏がぽつりとつぶやく。
 暗い海に向かって去ってゆくラゴン、それは怪物などではなく、子供を思う普通の母親だったのかもしれない。
 やがて、白い波に飲み込まれるように、その姿が消えた。
「夏ばっぱ・・・・・ニイギョってラゴンの子供のことだったんだな。おら、なんか気持ちが通じたような気がする」
 すがすがしい笑顔でアキが振り返る。
 夏はうなずいた。
「これで袖が浜は助かった。アキ、よくやったな」
「うん」
 北の海女たちは、袖が浜の海をじっと見つめていた。

 で、この怪物事件だが、ひとりだけまったくこの騒ぎを知らなかった人がいる。
 アキの母親、夏の娘、天野春子である。
 後日、スナック「リアス」で盛り上がったときも「へえーーーそんなことがあったの」といたってクールであった。
 やっぱり春子さんは、大物だべと・・・大向大吉は惚れなおした。とか・・・
 


 おわり



 
 
 あとがき

 NKKの朝ドラ「あまちゃん」見てますか。私は大ハマり。毎日楽しみにしています。
 視聴率も抜群で、平均20%を越える国民的ドラマになりつつあります。
 今回は、この「あまちゃん」とウルトラQの「海底原人ラゴン」を合わせた話を作ってしまいました。
 まぁ無理やり特撮にしてしまった感はありますが、楽しんでじぇじぇじぇとかなんとか、言っていただければ本望です。

 岩手水産技術センターの古谷さんは、ラゴンのスーツアクターをやっていた古谷敏さんをイメージしてます。
 古谷さんといえば、もちろんウルトラマンの中の人、そしてウルトラ警備隊のアマギ隊員でもあります。
 他にも観光協会の会長役、吹越満さんは、ガメラ2でもNTT北海道のエンジニア帯津役で特撮ファンにはおなじみです。
 その辺の、お遊びも気が付いていただければ幸いです。
 
いやあ、なかなかタイムリーな作品ですね。

私も、6月下旬に仕事をリタイアして実家にもどってからは毎日「あまちゃん」を観ています。

今年の流行語大賞は「じぇじぇじぇ!」が取るのか、はたまた「倍返し」が取るのか、楽しみですね。
>>[5]

今回は力を抜いて軽い感じで書きました。
ただ事前に北三陸市の地理(観光協会と袖が浜はかなり距離がある)や、方言(本物の方言で書くと理解不能)などがネックになって思わぬ苦労をしました。

うちは特撮同人誌なので、なにか特撮に絡めないといけないのですが、これでなんでもありの世界に突入です(笑)
さあ「半沢直樹」も特撮になるか。無理だろうなぁ・・・・
こんにちは
今日初めてお邪魔させていただきました、これは大変♪ありがたい内容で嬉しい限りです!?
これをベースに妄想映画を撮影しようと思います。
どうもありがとうございます♪
>>[7]
読んでいただき、ありがとうございます。
あまちゃんも、そろそろ最終回。また北三陸に戻ってくれてうれしい限りです。

他の作品も、よかったら読んでみてください。
楽しく読ませていただきました。(「特撮が来た」はずっと購読しています)
次はオリンピック関連で「2020年の再挑戦」とかお願いします。
>>[9]
「特撮が来た」いつも読んでいただきありがとうございます。
というか、「グループO.E.S.」凄まじいですね(笑)
SF大会でも、同じような事やってましたが、そんなに続けられているとは驚きです。

私も「特撮が来た」の前の「ガメラが来た」からずっと書いてます。
うーーん、かれこれ18年。
いっこうにうまくならないのが、悩みの種。
見捨てないでお付き合いください(笑)
>>[10]
もちろん「ガメラが来た」の頃から購読しております。最近はコミケにいっても男性向け同人誌よりも評論系同人誌の方を買う方が多くなって・・・
「グループO.E.S.」の歌会は今年の12月で240回目の歌会になります。毎月やってますのでご都合の良い時があれば是非。
>>[11]
ありがとうございます。それはそれは、本当にお得意様ですね。
アニソン・特ソンカラオケは、地元でも仲間と一緒に楽しんでいます。
もういい年なのに、
なんて嫁さんには言われてますが、こればっかりはやめられない(笑)
今年、「あまちゃん」再放送を見て、はまった者です。
大変面白く拝読させていただきました。
袖が浜にラゴンが上陸するとは…!!
配役ひとりひとりの顔、声、仕草がイキイキと浮かんできて、感激しました!!
NHKと円谷が協力して、
こんなスピンオフ番組ができたら面白いですね!!
本当に実現させたいです。
>>[13]
読んでいただきありがとうございます。
私は特撮ファンで、しかも朝ドラのファン。ふたつをくっつけたらこんな話になりました。
あまちゃんは、キャラクターが立っていて書きやすかったです。
他にも「ゲゲゲの女房」でも作品書いてます。
よかったら、そちらも読んでみてください。

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