ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

メトロン星人の本棚コミュの小さき勇者達 GAMERA  ジーダス誕生

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「小さき勇者達 GAMERA  ジーダス誕生」          

 1

 真っ暗なジャングルの中を、彼らは必死に走っていた。
 明かりは手元にあるハンドライトだけ。
 濃密な闇の中を何本もの白い光の筋が交錯しながら前方を照らす。
 彼らを追うものは、本物の恐怖だ。
 奴から逃げようと、泣きながら、叫びながら、そして神に祈りながら彼らは走る。
 足もとは草むらだが踏み固められ、トラックの細い轍が前方にのびている。
 この道の先には川がある、ボートがある、そこまでたどり着けば助かるかもしれない。
 しかし左右、上下は熱帯雨林のジャングルだ。木の根に足を取られ転ぶものも多い。
 奴はどこから襲って来るか、まったく予想もつかない。
 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
 最後尾から人間の絶叫が聞こえる。またひとりやられた。
 男は腹から槍のような物を突き出したまま折れ曲がり、暗闇の中に引きずり込まれて行った。
 だれも振り返らない。
 全員の走るスピードが上がる。
 友人だった男には悪いが、あいつが食われているすきに自分だけは逃げられる。皆、そう思って神に感謝した。
 しかし次の瞬間、奴は真横から出た。
 見えなかった。
 目の前を真っ黒な固まりが横切った途端。前を走っている男の首が無くなり、激しく血しぶきを上げながら、ばたりと倒れる。男は叫びをあげる間もなかった。
 ひとり、またひとり。走り続ける男達の数は減ってゆく。
 明らかにスピードは奴の方が上だ。ジャングルの中を先回りし、上から、横から襲いかかり確実に殺してゆく。
 楽しんでいるんだ・・・
 小野寺は、そう思った瞬間、全身が激しく震え、走る事が出来なくなった。
 呼吸が出来ない。恐怖のために体が麻痺し涙が止まらない。わけのわからない言葉を叫びながら、手を振り回し、追い抜こうとする男にすがりついた。
 シャツをつかまれた男が小野寺を殴った。シャツが破れ、小野寺は無様に転がる。
 その時、突然大きな固まりが落ちて来た。
 「ぐしゃ!」
 水の入った革袋が潰れるような、いやな音がして、小野寺を殴った男は、そいつの下敷きになった。
 小野寺の顔や体に、生暖かい液体が降りかかる。
 ころがったハンドライトの光が逆光になり、奴の姿が闇に浮かび上がった。
 黒い巨大な影、生臭い臭い、そして黄色く濁った二つの瞳。そいつは小野寺を見ていた。
「ぐっぐっぐっ・・・・」
 笑っている。
 奴は笑っている・・・・そう思った瞬間、小野寺は気を失った。
 
 2

 日本から南に一直線、赤道を越えると、そこに巨大なニューギニア島がある。
 その東半分がパプアニューギニア。面積は日本の約2倍、人口は400万、数多くの少数民族の連合体で800を越える異なる言語が使われている。
 一部を除き、そのほぼ全域が熱帯雨林の大ジャングル。いまだ人跡未踏の土地も多い。
 中央にある標高1800メートルの高地から流れ出す大河セピック川は、全長1.126キロ。
 その流域は広大なジャングルと湿地帯になっている。
 川沿いには点々と小さな村落があり、カヌーや舟、そして軽飛行機が唯一の交通機関である。
 
 小野寺洋一は自分の叫び声で目覚めた。
 全身は汗でずぶぬれになっている。目は覚めているのだが、どこにいるのか全く分からない。
 白い壁、粗末なベッド、明るい日差し。
 ドアが開くと看護婦らしい黒人女性がのぞき込み、大声で誰かを呼んだ。
 すぐに男が入って来た。アロハシャツを着た初老の男だ。
「小野寺、私が分かるか!何があった!」
 抱きしめられ、肩を叩かれ、ゆさぶられるとようやく意識が戻って来た。
 そうだ、彼は親友の中村英雄博士だ。
「中村さん、来てくれたのか・・・・」
 親友の顔を見て、やっと生きている実感がわいて来た。
「よくもまぁ、よくぞ生きていたなぁ、小野寺。生き残ったのはお前だけだぞ。地元の警察が調べているが、あれは人間の仕業じゃない」
「皆はどうなった?いっしょに逃げた従業員達は・・・・」
 中村の顔に暗い影が浮かんだ。
「全滅だよ。ジョンもカディもみんな死んだ。養殖場から船着き場までの間に、点々と死体が散らばっていたと警官が言っていた。体が満足なものはひとつもない。バラバラだ。腹の中身は全部食われていたそうだ」
 目の前が暗くなる。
 奴だ、こんな事が出来るのは奴だけだ・・・・
 中村が顔をそばに寄せて、小声で話し始めた。
「あれか?あいつのせいなのか?」
 小野寺は、ゆっくりとうなずいた。中村の目が異様に輝き始める。
「そうか、やはり私の想像した通りだ。ニュースを聞いて飛んで来たんだ」
「中村さん、それよりここはどこだ?あれからどれくらい経ったんだ」
「小野寺、いいかお前はまる2日気を失っていた。ここはアンブンティの病院だ。私は昨日ここに着いた。病院に日本人が担ぎ込まれたと聞いて見に来たら、おまえだった。とにかく細かい事は、あとでゆっくり話そう。まず休んで体力を回復しろ。医者にはたっぷり金をつかませておいた。心配するな」
 そういうと、中村は大声で看護婦を呼びつけ、食事を運ばせるように言いつけた。

 アンブンティは、セピック川中域の大きな町だ。小さな滑走路もあるし、病院、警察、郵便局、マーケットも揃っている。
 しかし町から一歩離れると、あたりは一面のジャングル。まさに川沿いに作られた人間社会の孤島と言える。
 小野寺洋一は39歳、もと輸入商社の仕入担当者だった。離婚した妻と娘がひとりいる。
 景気のいい時には、オーストラリアや香港、シンガポールを飛び回り、大きな取引をまとめ、かなりの高収入を得ていたが、その後、会社が行き詰まり倒産。退職金もろくにもらえずに放り出された。
 もともとギャンブル好きだった彼には借金があり、それをギャンブルで取り返そうと、さらに借金を増やした。
 あげくの果てにヤクザの組織に見込まれ、ヤバい輸入品の手続き代行や麻薬の密輸にまで手を染めるようになってゆく。
 妻とは、そのころ離婚。さらに荒れた生活を送るようになっていった。
 
 中村洋一は63歳、生物学者。
 政府が立ち上げた、今はなき「巨大生物審議会」のメンバーでもある。
 33年前、1973年。突如日本各地に「ギャオス」と呼称された謎の鳥型怪獣が出現した。ギャオスは人間を補食、各地で大きな被害が出る。
 政府は自衛隊の出動を要請、ギャオスとの一大決戦を展開するも敗退。対処不可能となる。
 その時、後に「ガメラ」と呼ばれる新たな怪獣が出現。
 なぜか人間に味方するようにギャオスと戦うが、伊勢市高津岬でギャオスを巻き込み自爆。
 この事件のあと、政府は原因究明と、次の巨大生物災害の対応と対策を研究するために「巨大生物審議会」を発足させた。
 事件に関するデータや資料が集められ、各界の学識経験者、自衛隊の幹部など多くのエリートが集められ、特別予算が与えられた。
 中村は当時、新進気鋭の生物学者で大胆な仮説を発表、メンバーの一員として「ギャオス」の生態を研究していた。
 しかし、その後25年経っても新たな怪獣の出現はおろか、ガメラ、ギャオスの生態も解明できなかった。
 1998年、政府と委員会は「ガメラ事件は極めて特異な現象であり、巨大生物はもはや地球上では生態系を維持出来ず、絶滅した可能性が高い」と言う公式声明を発表。組織の解体を決定した。
 委員会のすべての資産、研究成果、回収したサンプルなどは、内閣直属の「内閣情報管理室」が管理、防衛庁の保管施設に凍結されることになった。
 しかし、メンバーの中には「巨大生物審議会」の解体に強固に反対したメンバーもいた。
 ガメラ班の雨宮教授、ギャオス班の中村博士である。
 しかし、結局かれらの意見は無視された。世間は事件を忘れたかったのだ。
 中村は学会からも無視された。解体当時は異説の提唱者としてもてはやされ、講演依頼が殺到したものだが、今では拾ってくれる企業も無く、自分の研究結果やギャオスのサンプルまでも、すべて政府によって取り上げられてしまった。
 彼の学説を再度世に出すためには、なんとしてもギャオスの発生源を突き止めなくてはならない。
 妻も子もなく、家族もない彼にとって、今やギャオスの研究は、なにものにも代え難い生きがいとなっていたのだ。
 このままでは、終わらせない。もう一度、私の学説の正しさを証明して、あいつらを見返してやると。

 その頃、小野寺はヤバい密輸の仕事に危険を感じていた。警察の捜査が迫っている事も知っていたし、なにより中国系のマフィアとの抗争に明け暮れる組織の行く先が見えていた。
 2003年の夏、中村は組織の金2億円を横領して逃げた。もとより表に出せる金ではない。
 警察に追われるとは思わなかったが、組織は裏切り者を絶対に許さない。
 見つかれば絶対に殺される。
 組織に見つけられるのが先か、抗争で組織が壊滅するのが先か。小野寺はそのタイミングに賭けたのだった。
 妻と娘を隠して、自分はニューギニアに逃げた。
 そこは、なによりも身を隠すには最適の場所に思えた。
数ヶ月は奥地の小さなホテルを点々とし、その後、セピック川でワニの養殖場を始めた。
 この川の流域には、ワニは山ほどいるが公には狩猟が禁止されている。しかし観光客の目当ては、木彫りの彫刻とワニの革細工、そしてワニの刃のアクセサリーだ。
 政府に金をつかませ許可を取ると、アンブンティの近くに養殖場を作った。社長はオーストラリア人のジョン。小野寺はオーナーと言うわけだ。着想がよかったのか、経営はすぐ軌道に乗った。
 原住民を集めて、土産物を加工させ手間賃を払う(金も払うが、大体は酒かタバコの現物支給だ)それを町の土産物屋やホテルに卸す。
 元手はほとんどいらず、需要は増えるばかり、大手のホテルチェーンとの契約も決まった。
 木製の彫刻やインドネシア産の土産物などにも手を広げ、いつしか小野寺は地元の顔役になっていた。
 そんな時、中村博士がやって来たのだ。
 久々に出会う日本人、しかも中村博士はワニの生態についても詳しかった。
 孤独な二人はたちまち親友になった。
 中村博士は、小野寺に秘密を打ち明け協力を求めた。
 博士はギャオスの発生源を探しに来たのだ。その場所は、このセピック川のさらに上流にあると言う。
 「そこは『虹の谷』と呼ばれている!」
 博士は地図を拡げ、ある一点を示した。
 2004年の春だった。

 3

 『虹の谷』
 その場所はセピック川の上流、アンブンティから船外機付きカヌーで約1日、さらに支流のエプリル川を半日かけてさかのぼる。
 そこに中央山脈から張り出したダブルマウンテン山脈と呼ばれる高山がある。その山々のどこかだと言うのだ。
 もちろん簡単な道のりではない。交通機関はカヌー以外ありえないし。道案内を頼む原住民も、なかなか見つからなかった。
 さらに、この地域には様々な逸話が残されている。
 1930年代、この地域に初めて白人が入り込んだ時のこと、この地方の部族には食人の習慣があったと言う。
 この部族ククラ族は、自分たちの祖先がワニだったと信じているのだ。
 かれらは全身に傷を付けワニの様な入れ墨をしている。そしてワニを部族の守り神として崇拝し、他の部族とは一切交わらない。
 また大変勇敢で好戦的。戦いで勝つと相手を威嚇するため、敵に見えるように小高い丘の上で人質を引き裂いて食べたと言う。
 その彼らの聖地ともいう場所が『虹の谷』なのだ。

「どうだ、行ってくれるか・・・」中村博士が言った。
 2004年の春、季節は乾期を迎えようとしていた。
「中村さん、いったい何があるんです?なんのためにそんな危険な場所へ・・・」
 小野寺と中村は、養殖場にある小野寺の事務所でビールを飲みながら話していた。
 外は漆黒の闇。時折、夜行性の獣の鳴き声が聞こえるだけ、静かな夜だった。
 儲かっているせいで、事務所の中にはクーラーやTV、冷蔵庫まである。
「なに・・・心配する事はないさ。人食いの風習があったのは戦前までだ、今ではククラ族も普通の部族だよ。危険はない。それに虹の谷こそギャオスの発生地点なんだ」
「本当ですか!」
 小野寺は身を乗り出した。世界中の科学者が30年かかっても発見出来なかったというギャオスの発生地が見つかったというのか?
「これを見たまえ」
 博士は数枚の古びた写真を取り出した。大事そうに透明フィルムに真空パックされている。
 一見して小野寺は失望した。
「なんだ、ジャングルの上を飛ぶ、コウモリの群れじゃないですか・・・」
「じゃあ、これはどうかな」
 続いて博士はノートパソコンを取り出すと、その写真を取り込んだ画像を拡大してゆく。
 次第にぼけてゆく輪郭を補正してゆくと・・・驚くべき物が写っていた。
「これは・・・ギャオスの幼体だ。空が背景なので正確な大きさは不明だが、翼長約10メートルはあるだろう。これが撮られた場所は、この近くエプリル川の上流だ。アメリカ人の動物学者が1973年に撮った写真だよ」
 小野寺はモニターの画像に釘付けになった。さらに数枚の写真が開かれる。
「これは中央山脈南側の集落で撮影されたもの。こちらはハイランドハイウェイを走っていたバスの観光客が撮影したもの。不鮮明な物が多いが、いずれも1973年の春から夏にかけて撮影されたものと思われる。これらの写真を撮影した場所を地図上で結ぶと、どうだ。ほぼ円状になる。この円の中心がここ、虹の谷だよ」
 モニター上の光点は、ダブルマウンテンの山の中を指し示していた。
「これらの証拠をひとつひとつ集めるのに20年もかかった。
ギャオス達は、ある日突然日本に現れ、人間を襲い始めた。
 なぜだ!南からやって来たという事はレーダーの記録で分かっているのに、台湾、東南アジア、インド、インドネシアでは、ひとりの死者も無い。だれも襲われていないんだ。ギャオスはまっすぐに日本に来た。そして日本で人を襲い始めた。人を襲えばガメラが出てくる事を知っていたのではないか?ギャオスの本当の目的はガメラを呼び寄せる事ではなかったのか?!」
 中村は、大きなため息をつくと缶ビールをぐびぐびと飲み干した。
「ギャオスには『渡り』の性質がある。卵からふ化すると群れを作り餌を狩る。そしてある程度育つと、今度は住まいの回りを中心として縄張りを作り、餌を求めて巣の回りを飛び回るようになる。そして最後は、より大きな目的のために飛び立つのだよ」
「その目的っていうのが、ガメラだって言うんですか」
「そうだ!ここに私が密かに持ち出した記録フィルムがある。1973年当時のガメラとギャオスの戦いの記録だ」
 モニターには自衛隊の車両を前景に海岸で死闘を繰り広げるガメラとギャオスの姿が映し出された。
 おそらく自衛隊の撮影班の映像だろう。画面の端には様々な解析データが表示されていた。
「見たまえ、このギャオス達の見事な連係プレーを。ガメラの火球に仲間が倒れてもひるむ様子がない。こんなことは自然界の生物にはありえん姿だ。かれらは死力を尽くして、このガメラを倒そうとしている。・・・・・なんとも美しい姿じゃないかね」
 中村博士の目が異様に輝き始めた。モニターを食い入るように見つめている。
 モニターではガメラに食いついたギャオスが、押し潰され、燃える火球に包まれていた。
 次々と襲いかかるギャオス、いく筋もの光線がガメラの体を貫き、ガメラの命を削り取ってゆく。
 前のめりに倒れたガメラに襲いかかるギャオス。その時、ガメラの体が赤く光り輝いた。
 画面がまっ白になる。
 巨大な光が出現し、おそらくカメラが破壊されたのだろう。画面は白黒の砂嵐に変わった。
「ガメラは自爆した。人間をギャオスから守るために・・・・世間ではそう言っているが本当なのか?冷静に考えてみたまえ、人間を守る巨大な生物が存在するなど、そう思う事の方が不自然ではないかね?」
 黙って聞いていた小野寺が立ち上がった。
 冷蔵庫から新しいビールを取り出すと、立ったままぐびぐびと飲んだ。
「中村さん、なるほど、あなたの説はごもっとも。確かにそうかも知れない。
でも、いまさら虹の谷に何があるって言うんです?ギャオスがいるとでも?なら、そんな危険はお断りだ。私はね、命が惜しいわけじゃない。落ちぶれちゃいるが元はれっきとしたビジネスマンだ。世界を股にかけて金儲けをしていた身だ。ビジネスのためなら命もかける。だが、あなたの学説を証明するだけなら協力はお断りですよ」
「まぁ、小野寺君。人の話は最後まで聞く事だ。確かにギャオスの生存する可能性はないだろう。しかし卵や殻の痕跡、さらに幼体の死骸が発見できる可能性はある。そう、金になるのはギャオスの遺伝子だよ」
 中村博士は、新たな画像とデータを表示した。
「これがギャオスの染色体だ」
 モニターには異様なものが映っていた。
「これが!・・・なんで染色体が一対しかない。たしか人で23対、ニワトリが39対・・・」
「ほほう、多少は知識があるらしいな、説明が簡単でいい」
 中村博士は、椅子に座り直すと笑いながら2本目のビールを開けた。
「遺伝子の情報には必ず無駄な部分がある。少なくとも進化の過程を経て来たものは、その過程で使われなくなった遺伝子情報が残っているはずだ。ところがギャオスにはそれがない、まさに突然に現れた完全無欠の生物といえる。これがどういう事か分かるか?」
「だ、誰かが遺伝子を操作して作り出したとでも・・・?」
「そう、その通りだ。今の人間が持つ遺伝子工学では、とても無理だがな」
「じゃあ誰が・・・・・」
「・・・『神』」
「本気か・・・」
 中村博士は突然、笑い出した。
「残念だが本気だよ。こんな完全な仕事は人間には出来ん。さらにこいつはメスでありオスでもある。つまり一体だけで繁殖出来る」
「ということは、もしガメラがいなかったらギャオスは人間を餌にして無限に増え続けていたと・・・」
「小野寺君。こんな考え方もある。『利己的遺伝子』という学説だ。生物は遺伝子が生き延びるための『乗り物』にすぎないという考え方だよ。重要なのは生き物の種族ではなく、その生き物が持つ遺伝子の情報そのものだと言う考え方だ。
 遺伝子は自らのコピーを残し、その過程でより生存に適した生物が出来上がる。
 生物がいるから遺伝子があるのではない。遺伝子がより進化した生物を作り上げているのだよ。
 ミツバチを見たまえ、働きバチは子孫も残せず、ただ女王蜂に使え、働き抜いて死んでゆく。生物として不自然だと思わないか?生殖も出来ない働きバチに生物としての利益はあるのか?
 そう、働きバチは女王に仕える事によって敵を防ぎ、女王を守り、結果として女王の持つ遺伝子を守る事になるのだよ。つまり遺伝子がそうさせているとも言える。女王バチと働きバチは、二つでひとつの生命体とも言える。もし、働きバチをギャオス、女王バチを『神』としたらどうだ。
 完全無欠の遺伝子を持つギャオスは、いわば神の使徒だ。この世にありえない極めて不自然な生物『ガメラ』を滅ぼすために神が使わされた究極の生物なのだよ」
「もういい。あんたの話は狂ってる。大体、金の話はどうした。ビジネスの話だったろう」
「小野寺君。ギャオスの遺伝子は高く売れるという事が、まだ分からんのかね?もしサンプルを持ち帰れば、世界各国の研究者、バイオメジャーが札束を山と積み上げるだろう」
「どうしてだ。ギャオスのサンプルは山ほどあるはずだ。爆発の残骸があるだろう」
「政府が封印した。どんな取引があったかは知らないが、すべてのサンプルは国防に関する最高機密として防衛庁の奥深くに封印されたままだ。あの遺伝子を自由に研究できれば、いったいどれだけの利益を生み出せるか・・・」
 
 小野寺は全面的な協力を申し出た。
 二人は武器、食料などの装備を整え、原住民の案内で出発したのは、それから一週間後の事だった。

コメント(6)

4

 『虹の谷』への道のりは険しく困難で危険に満ちていた。
 ただ、その物語は別の冒険談として語られる方がふさわしい。
 巨大なワニの襲撃、急流、底なし沼、毒サソリ、好戦的なククラ族との戦い。
 20数名いた同行者のうち、旅の途中で命を失ったものも少なくない。中村の持って来た強力な武器と、金への執念がなければ、到底行き着く事は出来なかったろう。
 ともかくも、一行はククラ族の聖地『虹の谷』にたどり着いた。
 そこは異様な場所だった。周囲を断崖絶壁に囲まれた洞窟で、崖の上からは細い滝がいく筋も降り注ぐ。
 滝の流れは洞窟を大きく囲むように集まり、川となって下流のジャングルに消えてゆく。
 洞窟の前面は広いテラス状の岩盤で、入り口を囲むようにいくつもの丸太を加工した不気味なワニの像が屹立していた。
 しかし古びたワニの彫像は根元から折れて横倒しになり、岩盤のテラスには動物の白骨が散乱していた。
 人が近づかなくなってかなりの年月が経つのだろう。まるで荒れ果てた廃墟だ。
「ここが『虹の谷』か・・・・」
 ここ数日の間に疲労と緊張でげっそりとほほのこけた中村博士がつぶやいた。
 小野寺が空を仰ぐ。
 頭上には、滝の水滴と光の加減で、美しい虹が見えた。
「そのようだな」
「餌を見つけては、ここに持ち帰り食べていたんだろう。見たまえ、ペリットの痕跡だ」
 乾燥した動物の糞のようなものが大量に岩場にこびり付いていた。
「肉食のギャオスは、消化しない骨や羽を飲み込んだ後で固まりにして吐き出す。ペリットはその残骸だよ」
 小野寺は洞窟の回りに見張りを置き、ククラ族の襲撃に備えさせた。そして部下を数人選ぶと、中村博士と一緒に洞窟に入った。
 内部は薄暗く湿っていて、ずいぶんと奥が深い。明かりはヘルメットのライトだけ。
 足下にはやはり大量の白骨が散乱している。しばらく進むと広いドーム型の空洞に出た。
「ここで行き止まりだ。あたりを探してくれ、うまくいけばギャオスの耐久卵があるはずだ。残骸でもいい、かけらでも・・・」
 中村博士は這いつくばり、岩の隙間をライトで照らしながら必死に足もとを探し始めた。小野寺も、部下も探し始める。
「あった!」
 部下のひとりが歓声を上げる。その声に全員が集まった。
 ライトの光の中、青白いつやつやとした直径20センチほどの楕円形をした卵がいくつも見つかった。
「これがギャオスの卵か!」興奮した小野寺が中村博士に聞いた。
「う〜む・・・・わからん。私も初めて見る卵だ。見た目は、は虫類の卵に似ている。ワニかイグアナのようだ」
「とにかく、持ち帰って調べてみよう。他には何かないのか!」
「あれから30年も経っているんだ。無理なのかも知れないな。あけだけ苦労して、成果はこれだけか。くそっ!」
 小野寺は、卵を地面に叩き付けた。
 ぐしゃりと音を立てて、卵が潰れた。
 その時、洞窟の中に異様な声が響き渡った。低い地鳴り、いや生き物の息づかいか。
 全員が中央に固まり、銃を構えると回りの壁をライトで照らし出す。
 壁には直径30センチから、40センチほどの穴が一面に開いていた。不気味な声は穴の中から聞こえる。
 その時、頭の上から巨大なトカゲが飛び出し、部下に襲いかかった。
「うわ〜〜っ!!」全員が同時にパニックに陥った。
 その声を合図に、穴から次々と巨大なトカゲが現れる。鋭い牙を持つ大きな頭、全身は球状のイボに覆われ、背中には細かいトゲがびっしりと生えている。全長は1メートルから、大きなものは2メートル近くある。たちまち囲まれた。
 誰かが発砲した。銃声が響くと、全員が出口に向かって走り始めた。
「中村さん何をしている、逃げるんだ!」
 小野寺は、床にしゃがみ込んでいる中村博士を引きずるようにして走った。
 何人もの部下達が、トカゲに食いつかれ、絶叫とともに生きながら食われていた。
 トカゲ達は餌に群がり、足や手に食いつくと頭を激しく振って食いちぎる。ゴリゴリと骨を噛み砕く音が洞窟に響く。
 小野寺と中村は、かすかに見える出口に向かって必死で走った。
 ククラ族の聖地。
 ここは、まさに人が入ってはならない禁断の地だったのだ。

 ギャオスの遺伝子を見つけるはずの旅は、無惨な失敗に終わった。
 多くの犠牲者を出しながら、小野寺達はなんとかアンブンティに戻る事が出来た。
 小野寺の地元の顔役としてのメンツは丸つぶれ。死んだ仲間の家族への見舞いには大金が必要だった。
 肝心の中村博士といえば、あれから事務所の一室に閉じこもり、何かを必死で分析している。
 後で知った事だが、中村博士はあのトカゲの卵や、散乱していた骨をバッグに詰めて持ち帰っていたのだ。
 そして一週間が瞬く間に過ぎた。
小野寺。やったぞ!」
 深夜、ひとりで寝酒を飲んでいた小野寺の部屋に、突然興奮した中村博士が入って来た。
「なんだ。いったい」
「ちょっと来い。見て欲しいものがある」
 中村博士は、小野寺を促し事務所の一角に作り上げた粗末な研究室に連れて行った。
 ぼろぼろのプレハブ小屋、中古のクーラーの騒音、無機質な蛍光灯の光の下、飛び回る羽虫。
 生活臭のしみ込んだ薄汚いベッドの横にある、大きな水槽の中に、そいつはいた。
 「これは・・・・こいつはあのトカゲじゃないか!」
 そこには、卵からふ化したばかりのトカゲの赤ん坊がいた。
 全長は20センチほど、すでにトカゲとしての形をしており、ぴいぴいと鳴き声をあげていた。
「よし、よ〜し。今、食い物をやろう」
 中村博士が、ニワトリの生肉を与えると、トカゲは嬉しそうに飲み込んだ。
「中村さん、いったいどういう事だ、これは。ギャオスの遺伝子の研究かと思えば、トカゲの飼育とは。しかもこいつはあの洞窟で仲間を食い殺した大トカゲの子供だぞ。もし従業員に知れたら、暴動が起きる」
「ふふふ、こうやって見ると、こいつもなかなかかわいいものだ。小野寺、こいつは大金に化けるかもしれないんだ、原住民の奴らには、絶対秘密にしてくれ」
「それはどういう事だ」
 博士は、トカゲに餌をやりながら、パソコンのキーボードを叩いた。
「見ろ、持ち帰った卵から遺伝子を取り出して調べてみた。こいつはな、ギャオスと同類だ。同じ遺伝子構造を持っている」
「バカな!ギャオスは鳥、こいつはトカゲだろう!」
「小野寺。現在の鳥は恐竜が進化したものだと言う事を知らんのか?それにギャオスは鳥ではない。れっきとしたは虫類だ。トカゲ型、翼竜型の違いはあるが、どちらも同じ、どこかのイカれた『神』の作った同じ創造物というわけだ」
 ぴいぴいと鳴き声をあげるトカゲの子供は、中村を親と思っているのか、甘えて餌をねだっているように見えた。
「私はこいつを育ててみようと思ったんだ。ちょうどふ化直前の卵があったしな。ここ数日は、卵の中から鳴き声が聞こえていた。鳥の場合はこの声が聞こえると親鳥が鳴き返す。私も親トカゲになったつもりで、あのおぞましいトカゲの鳴き声を真似して鳴いてやったよ。そしてついにふ化に成功したんだ」
 見ろ、このトカゲは私を親だと思っている。『刷り込み』ってやつだ。ふ化して最初に目にした動くものを親と認識する。鳥と同じだよ。小野寺、お前も餌をやってみろ」
 中村博士の勢いに押されるように、小野寺も鳥の肉を手にして、トカゲの前に持って行く。
 と、目を細めるようにして近寄って来たトカゲが、口から細い舌を出し小野寺の手から肉を取っていった。
「どうだ、かわいいもんだろ」中村博士が笑った。
「お前のことも親だと思っているかもしれんぞ。家族がない俺たちに子供が出来たってわけだ。しかも大金を稼いでくれる親孝行な子供がな!わはは・・・・!」
 中村博士と小野寺は顔を見合わせ笑った。
「私はこいつに名前をつけてやろうと思う」
「そうか、なんてつけるんだ?」
「こいつの名前は『ジーダス』あのククル族の言葉で『ワニの王』という意味だ」
「なるほど。しかしワニじゃないだろう」
「ククル族には、ワニもトカゲも同じこと、どちらも恐怖であり、神の使い、恐れ敬うべき偉大な先祖なんだ」
「『ジーダス』か、こいつを育てて、手なずける事が出来たら、大金が入るってわけだな」
「そうさ、しかもこいつは、ギャオスと同じく一匹で卵を産んで増えてゆく、楽なもんだ」
 二人はジーダスをながめながら、餌をやり続けた。
 その恐るべき、本当の姿を知らぬままに。


 
 5

 ジーダスは、たちまち大きく育った。
 小犬くらいの大きさになると水槽から出してやり、研究室で小野寺や中村博士と遊ぶようになった。
 ジーダスは、は虫類とは思えぬほど賢い。小野寺や中村の顔は、すぐに憶えたし、餌が欲しくなるとすり寄って来て鳴く。
 また、こちらの言う事がかなり理解出来るようだ。
 餌をやる時の「まて」「よし」だけでなく「お手」や「おすわり」まで憶えた。
 試しに脳の容積を量ってみたら、カラス並の大きさがある。
 食べ物はもっぱら肉。最初は鳥肉を与えていたが、試しに魚をやってみたら、あっさり食べた。
 基本的に肉や魚なら何でも食べるが、人間の作ったハムやソーセージは口に入れると吐き出してしまう。
 少々値が張るが、ドッグフードや缶詰のネコの餌なども食べてくれた。
 しかし、いつまでも研究室で飼うわけにはいかない。
 考えた結果、養殖所から離れた私有地の池に囲いを作り、そこで飼う事にした。
 これなら魚も自分で捕る事が出来るし、なにより人目につかない。
 昼はなるべく水の中か、水草の茂みの中に隠れているように教え、夜になると小野寺と中村博士が交代で肉をやりに行った。

 2006年春。
 ジーダスを飼い始めてから2年が経った。

「もう2年も経つ、そろそろ世間に公開する時が来たと思うが、どうだ」
 夕食のとき、中村博士が話を切り出した。
 テーブルにはインドネシア風のカレー、バナナのフライ、日本から取り寄せた漬け物などが並んでいる。
「もう少し待ってくれ・・・」カレーを無造作に口に運びながら小野寺が言った。
 この一年、何度も何度も繰り返された話だ。
「どうしてだ、ジーダスの遺伝子サンプルも揃ったし、私の仮説を裏付ける資料も完成した。私はいつまでもこんなところで、くすぶっているわけにはいかんのだ」
「悪かったな、こんなところで・・・俺にも都合があるんだ」
「分かっているよ、お前がここにいる事がバレるとマズいんだろう。命を狙われる身だからな。私がジーダスの事を発表すれば、マスコミが押し寄せる。すると、お前の素性も表ざたになる可能性がある」
「持って来た金は使い果たしたよ。虹の谷の件以来、仕事もうまくいかないし、研究にも金がかかる。俺も金は欲しいんだ。しかし組織は中国のマフィアと和解してしまった。思惑がはずれたよ。いま出て行ったら確実に殺される」
「じゃあこうしよう。私がいったん日本に戻る。そして信頼出来るマスコミと交渉して、独占取材の権利を売りつけるんだ。もちろんお前の顔や素性は出さない約束だ。そして利益は山分けにする。金が手に入ったら、お前はどこか東南アジアの高級リゾートに家を立ててのんびり暮らせばいい。そうだ、別れた奥さんや娘も呼んだらどうだ」
「ふん・・いまさらそんな事が出来るか」
「知ってるぞ、お前が今も仕送りをしているってことは、娘の写真も大事に持っている。どうだ、金がいるんだろう」
 中村博士は、黙り込んだ小野寺をさとすように言った。
「私は感謝している。この研究がまとまったのも小野寺、おまえの協力があればこそだ。私を信じてまかせてくれ」
 しばらく考えた後・・・小野寺はやっとうなずいた。
 翌日、資料を抱えた中村博士は日本へと旅立った。

 一ヶ月後、中村博士から小野寺にメールが入った。
 東京での交渉はうまくいっているという。マスコミの人間と接触し、秘密裏に話は進んでいる、心配するなという内容だった。
 さらに一週間。
 小野寺の元に二人の日本人がたずねて来た。
「小野寺さんですね、私たちは東京のTV局のものですが・・・・」
 名刺を見せられ、二人は局のプロデューサーだと名乗った。
 中村博士からトカゲの事を聞き、実物を確認するためにやって来たのだと言う。
 小野寺は不審に思ったが中村からの紹介状や、携帯に録音された中村本人のメッセージまで聞かされた。
「では、日が暮れてから案内しましょう」
 ジャングルに夕闇が迫る頃、小野寺は車で二人を連れ出した。
 ジーダスはもっと大きな湖に移した。成長しすぎて前の湖では小さくなったのだ。
 ここの方が人に見つかる心配は少ない。周辺には原住民はいないし、水の中に隠れている習性がついていた。
 もっとも、小野寺が呼べば必ず出て来て、餌をねだる。
 湖のほとりで車を降りると、男達の態度が豹変した。
 突然、小野寺に殴り掛かかり銃を突きつけた。
「小野寺、やっと見つけたぜ。手間をかけたな」
「お前達は・・・」
「そうさ、俺たちはしつこいのさ。やっと見つけたぜ。」
 凶悪な笑みを浮かべ男は、小野寺の脇腹を思い切り蹴った。
「ぐうぅぅぅ!」あまりの激痛に小野寺は腹を抱えてうずくまる。
「おい、2億円はどこだ。すぐに返せば、命だけは助けてやってもいいんだぜ」
「答えろ、この野郎」小野寺を殴った男が、首を締め上げる。
「ぐぐっっ・・・金は・・・金はない」
 「なにぃ!」男達の顔色が変わった。
「てめえ、殺されたいのか!」
 男達が再び蹴ろうとした瞬間、小野寺は横に転がった。そして、そのまま湖の浅瀬に飛び込んだ。
「この野郎!待てっ」男達が拳銃を構え追って来た。
 静かな湖面に拳銃の発射音が響き、銃弾が小野寺の顔をかすめた。
「ジーダス、ジーダス!!」小野寺が叫んだ。
 男達のすぐそばに巨大な水柱が立ち上がった。頭から尻尾まで全長6メートル、体重300キロの怪物、ジーダスだ。
「ジーダス、こいつらを襲え!」小野寺が叫ぶ。
 ジーダスは、一瞬体を沈めるとすばやく跳躍して男達に襲いかかった。
 拳銃は何の役にも立たなかった。
 男達は巨大な足で押さえつけられ、もがき、叫びながらジーダスの餌になった。
 惨劇はすぐに終わり、あたりはまた静かな湖に戻った。
 ジーダスが湖面から顔をのぞかせ、ゆったりと近寄って来る。
 小野寺の方をじっと見ている。その口には男の腕をくわえていた。
 何かが変わった。
 ここにいるのは、もうペットのトカゲではない。人間の味を憶えた恐るべき怪物なのだ。
「・・・・ジーダス」
 小野寺は茫然と立ち尽くしていた。涙も出なかった。
 ふと、我に返った小野寺は車に飛び乗り、湖から逃げた。
 背後からはジーダスの叫びが聞こえる。そうだ、俺を呼んでいるんだ。
 そう思うと背筋が凍り付いた。俺はなんと言う事をしてしまったんだ。あいつに人間の味を教えてしまった。
 ハンドルを握る手が、ぶるぶると震えていた。
 やっとの思いで事務所にたどり着つくと、従業員達が食事をしている食堂を駆け抜け、自分の部屋にこもる。
 戸棚からウイスキーを取り出し、瓶のまま一気にあおった。
 ひと瓶を飲み干し、小野寺がベッドに倒れ込んだ時、建物が揺れた。
 食堂の方からは絶叫と壁が激しく崩れる音がした。
「グワァァァ!!」
 ジーダスが追って来た!
 俺が逃げ出したから?餌をやった後、いつものように遊んでやらなかったから?
 それとも人を襲う楽しみを憶えてしまったのか?
「ボス!大変だ!怪物が襲って来た!」ドアを激しく叩く、工場長のカディだ。
 小野寺はライフルを手に部屋から飛び出すと、食堂に駆け込んだ。
 唖然とした。
 食堂は半壊し屋根がない。テーブルや壊れた椅子・食器が散乱し、その瓦礫にジーダスが頭を突っ込んで何かを喰っている。
 カディや男達が、何か叫びながらジーダスに向かってライフルを撃った。
 しかしそれはただジーダスを怒らせただけだ。頭を持ち上げたジーダスは、威嚇するように大きな口を開ける。
 その口の中にはボロキレの様になった人間の姿が見えた。
 ジーダスが立ち上がった。残っていた屋根が崩れ、何人かが落ちて来た瓦礫の下敷きになった。
「逃げろ!川まで逃げろ!」誰かが叫ぶ。
 それを合図に、生き残っていた全員が逃げ始めた。
 それは、まさに命がけの鬼ごっこ。小野寺は思い出した。
 そういえば子供の頃のジーダスは、この遊びが好きだった・・・・と。
6

「奴は、どこに行った・・・」
 病院のベッドでぼんやりと天井を見つめながら小野寺はつぶやいた。
 どうやら眠っている間に夜になったようだ。
 もう俺は終わりだ。この土地で築いた工場も仕事も従業員もすべてなくした。
 あの怪物のせいで・・・・・
「目が覚めたか小野寺・・・・」
 中村博士は暗い病室の片隅にあるテーブルでパソコンに向かっていた。
「奴は消えたよ。川岸に足跡が残っていた。セピック川の河口付近でジーダスと思われる怪物を見たと言うニュースが新聞に載っていた」
「あいつは上流の仲間のところに戻ると思っていたが・・・」
「奴は日本に向かう」
 中村博士は背を向けたまま、ぼそりと言った。
「なぜそんな事が分かる!中村!お前は何を隠している!」
 突然、小野寺が大声を上げた。
 くるりと椅子を回して、中村は小野寺の方に向き直った。
「私の友人に雨宮宗一郎という男がいる。そいつの専門はガメラだ。雨宮の研究では『ガメラ』は地球上の生物ではないという。
33年前、自爆したガメラは物質的な痕跡をいっさい残さなかった。細胞一個もだ。そんなことは常識では考えられん。それに火を吐いて、空を飛ぶ生物なんて信じられるか?だが、ガメラは飛んでいる・・・あれは地球の生物とは別の進化を遂げた生物としか思えん」
「・・・・・それがなんだ!」
「もしもだ、ガメラが地球外生命体だとしたら、それを排除するために地球が作り出したのがギャオス、そしてジーダスじゃないのか?ジーダスは人間を補食する。この地球上にもっともはびこる、栄養価の高い効率のいい餌だからな。そしてジーダスは人間を喰う事によって、さらに巨大化し続ける。地球、神、利己的な遺伝子、呼び方は何でもいい。そいつは、ガメラと共に人間までも滅ぼそうとしているんだ。人間はガメラと同じく、この星には不要の存在だと・・・そうだ。もし、ガメラがそれを知っていたら、きっと人間を味方にしようとするだろう、なんらかの方法で味方にしようとするかもしれない」
「バカな!」
「ガメラと意志を通じていたという少女のうわさを聞いた事がある。大人ではなく精神的に未成熟な存在なら、あるいは・・・・」
「いいかげんにしろ!」
 小野寺がベッドから起き上がり、中村博士につかみかかった。
「お前が、俺を組織に売ったんだろう。俺を殺そうとした。邪魔になったんだ!」
「く、苦しい。何の事だ・・・」
「しらばっくれるな!組織の殺し屋が来たんだ。お前の紹介でな!」
 小野寺は、中村博士の首を絞めた。
「ガメラもトカゲも、俺にはどうでもいい。そんなことより、俺は普通の生活をしたかった。それだけなのに・・・」
 小野寺の脳裏に妻や娘の顔が浮かぶ、死んでいった仲間達の面影も。
「おまえが来たせいで、おまえなんかの言葉を信じたせいで・・・・」
 泣きながら小野寺は中村博士の首を絞めた。
 
「・・・・・・」
 中村博士は、息絶えていた。
 

 実は小野寺の居場所を組織に教えたのは、TV局のプロデューサーだ。彼は中村博士の言うトカゲの話など、頭から信じてはいなかった。当然、中村博士の学説を発表する番組などない。逃げた小野寺の居場所を突き止めるために利用しただけだったのだ。
 翌朝、看護婦がベッドに寝かされた中村博士の遺体を見つけた。
 病室に小野寺の姿はなかった。
 どこに行ったのか。その後の小野寺の消息を知るものはいない。

 了
あとがき

 え〜悲惨な話ですみません。この続きはどうなるのか・・・
 ぜひ「小さき勇者達 GAMERA」をごらんください。
 ジーダス、大活躍します・・・(苦笑)

 「小さき勇者達 GAMERA」大好きです。
 小さな子供達に見て欲しい、いい作品でした。
 ただ、気になったのがジーダスという新怪獣。突然現れ、人間を補食しガメラに倒される。
 悪役怪獣としては正統派ですが、もっと掘り下げたい。
 そんな思いからこの作品を作り上げました。
 ジーダス・・・ジラース?
 そう、ウルトラマンの怪獣です。中村博士はジラースを育てた博士ですし、ジーダスの武器、長く伸びるハープーン舌から、バルゴンを連想し、虹の谷も登場させました。
 小野寺は「ガメラ対バルゴン」の名悪役。登場人物でもあります。
 そんなわけで、思いっきり大人の葛藤を盛り込んだ妄想小説です。
 楽しんでいただければいいのですが、映画本編とはまったく違うテイストの作品になっています。
 田崎監督、ごめんなさい(笑)
 
 ついでに言わせていただければ、私はあの赤い石のリレーのシーン。
 泣けたなぁ・・・

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

メトロン星人の本棚 更新情報

メトロン星人の本棚のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。