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メトロン星人の本棚コミュの仮面ライダー響鬼 天敵復活

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「仮面ライダー響鬼 第二十九.五乃巻  天敵復活」          

1  刀

青白い月の光が森に満ちている。
冷えきった夜の大気は、秋の深まりと冬の到来を予感させていた。
あたりはしんと静まり、暗闇の中、白く浮かび上がる参道だけがまっすぐに伸びていた。
茨城県、鹿嶋市、鹿島神宮。
常陸の国一宮、タケミカヅチを祭神とする古い由緒ある神社である。
その奥の宮に続く、細く長い参道を小さな子供達が歩いていた。
古風な白装束を身にまとった幼稚園ぐらいの子供達だ。
性別はわからない。おかっぱで三人並んで手をつなぎゆっくりと進んでいる。
すでに真夜中は過ぎている。
こんな深夜にも関わらず、明かりも持たず、親の姿も見えない。
不思議なことに闇の中だというのに、子供達の姿だけがくっきりと見える。
さくっ、さくっと砂利を踏む軽い音が、あたりに響く。
異様な光景であった。
この世の物ではない子供達、それは幽霊か、それとも物の怪なのか?
やがて目の前に奥の宮が見えて来た。白木の鳥居、大木に囲まれた古びた社殿。
その奥には多くの宝物が祭られていると言う。
「ふふっ、ふふふ・・・・」
子供達は互いに声にならない声でささやくと笑みをうかべ、ふわりと浮き上がり、門の中へと吸い込まれるように消えて行った。
秘刀「鬼切丸安綱」が盗まれた夜の事である。

2 立花

甘味処「たちばな」
外見は昭和5年に建てられたという木造の古びた老舗であるが、ここの地下には「猛士」の関東支部がある。
日々強力になる魔化魍(まかもう)を倒すため、猛士のメンバーは作戦室に集まっていた。
「いや〜よわったことになってね」
おやっさんこと、立花勢地郎が皆の顔を見回しながら、送られて来た資料を拡げて見せた。
メンバーはヒビキ、トドロキ、香須美と日菜佳、そしてみどりまで加わっていた。
突然の招集、しかもかなりな大事らしい雰囲気に、皆ちょっと緊張していた。
「私が説明しましょうか?」
じっと黙り込んだ勢地郎を見て、みどりが声をかけた。
「ああ、お願いしようか」
みどりは、深呼吸をし、心を落ち着けて話し始めた。
「吉野からの連絡によると、先週、鹿島神宮に納められていた「鬼切丸」が盗まれたそうです」
「鬼切丸〜〜?いててっ・・・」
トドロキが大声を出すと、すかさずとなりに座っていた日菜佳が、キッとにらみながらトドロキの足をつねった。
「そうです。皆さんも聞いた事があると思いますが、平安時代、渡辺綱が、大江山の酒呑童子の首を切り落としたと言われている、あの刀です。国宝であり、天下五剣と呼ばれるほどの名剣でもあります」
うんうん、と日菜佳とトドロキがうなずく。
鬼に関する事だけに、さすがにそれは知っていたらしい。
ヒビキと香須美は、常識よねといった顔で静かに聞いている。
「まぁ、鬼切丸と呼ばれる刀は、実は何本か偽物が存在します。源氏の宝とされ、室町将軍家に伝えられ、その後秀吉、家康と伝わるうちに、同じ物がいくつか作られたというのが吉野の見方ですが・・・盗まれたのは、どうも本物らしいのです。
私が吉野で研究していた頃、鬼切丸のデータを見せてもらった事がありますが、あの刀には変な力があって、変身した鬼の治癒能力を奪う力が認められました」
「そうなんだ。鬼切丸は文字通り鬼を切るための刀。変身した響鬼くんや轟鬼くんが切られると、傷が治らないうえに、最悪の場合、死んでしまう事も充分考えられるんだよ」
勢地郎が、おおきなため息をつきながら腕を組む。
「ようするに、そいつを盗んだのが魔化魍だってことなんだろ」
ヒビキが断言した。
「いや、そうと決まったわけじゃないが、警察の捜査ではとても人間の仕業ではないと。
もし魔化魍だとしたら、今まで以上に危険な戦いになってしまう」
「おやっさん、俺たちは危険だからって魔化魍と戦うのをやめるわけにはいかないんです。いままでだって充分危険だったし、みんなのサポートがあれば、やっていけますよ。なぁトドロキ!」
「そうっスよ、鬼切丸だって、なんだって怖くはないっス」
「まぁ、君たちはそういうと思ったよ、だがな危険な事には間違いない。なんらかの対策を立てないと」
「ねぇみどりさん、なにか鬼切丸を防ぐための方法はないの?」香須美がたずねる。
「それが、なにしろ国宝なもので、充分な研究が出来ないんです。今のデータだって何十年も昔の物だし・・・今回の吉野への通報だって盗まれたのがわかってから1週間もたってからですよ!」
「すぐにでも対策を考えないと」
「鹿島神宮を中心に、ディスクアニマルを使って犯人を捜索したらどうかしら?」
「姉上、それじゃ目立ちすぎます!」
「そう、とりあえずシフトを変更して、鬼は出来るだけ二人組んで行動するようにしよう。それと関東全域の「歩」の皆さんにも警戒を呼びかけてだな、魔化魍に変化があればすぐ対応できる体制を整える。私にも、ちょっと考えがある・・・」
勢地郎が思いにふける。
ヒビキはその姿をじっと見つめていた。
「そういえば、ヒビキさん、明日オフじゃなかったですか?たしか明日夢君達との山登り」
突然、トドロキが思い出したように言った。
「いけね、そういや明日だったっけ」
日菜佳が目を輝かせて身を乗り出す。
「筑波山ですよね。紅葉を見に行くんですよね。いいなぁ、真っ赤なもみじ。きれいだろうなぁ」
「日菜佳さん、そんなら僕がいっしょに・・・」
「ダメよ!トドロキ君。それに日菜佳、あんたはこれからやる事がいっぱいあるでしょ。魔化魍の予測、データの見直し、シフト管理の変更、歩の皆さんへの連絡、他にも・・・・」
「わかった、わかった。わかり・ま・し・た。はぁ〜〜私のお休みはどこへ消えたの?」
「泣くんじゃないの、私もみどりさんも状況は同じでしょ」
「なんだ。みんな休みを返上か?そんなら俺だけ、休むわけにはいかないな」
ヒビキが、ぼりぼりと頭をかいた。
「いや、行ってやりなさい。今すぐに、どうこうってわけじゃないし。それに明日夢君とひとみちゃんが、ずいぶん楽しみにしてたみたいだよ。お母さんだって仕事休んで車だしてくれるんだろう。君が行かなきゃ・・・」
「ねぇ〜〜〜」
日菜佳とみどり、それに香須美までが、顔を見合わせ妙な声を出す。
「なん、なんなんだよ。それは〜〜」
「だってヒビキさん、モテモテですもんね〜〜」
「まぁ、なんだな。慕われるってことは、ありがたい事だよ。うん」
勢地郎までが、にこにこと笑っている。
どうやら、からかわれている事に気がついたらしく、ヒビキはそっぽを向いてしまった。
「えっ、なんなんです?どうかしたんですか?」
ひとりトドロキだけが、その場の空気が読めず、おろおろと皆の顔を見回していた。


 3 魔

筑波山。
関東平野にそびえ立つ標高876mのこの山は、西の富士山、東の筑波と並び称される名山である。
古来、多くの歌に詠まれ、男体・女体の二つの峰は筑波神社のご神体として親しまれる信仰の山でもある。
山中には奇岩・怪岩も多く、森は深く、その懐には多くの原生林が存在していた。
その山中にある洞窟で、今まさに異変が起ころうとしていた。
暗闇の中に灯るロウソクのかすかな明かり。
おぼろげに浮かび上がる二つの影。
それは小さな老人の姿だった。
洞窟の中には、ぼろぼろに朽ちた畳で粗末な座敷がしつらえてあり、形だけの囲炉裏もあった。
それを囲むようにして腰の曲がった老人と老婆が歌を歌っている。
「も〜もたろさん、ももたろさん〜〜」
「も〜〜もたろさん、ももたろさん〜〜〜」
小さな声でつぶやくように、いつまでもいつまでも飽く事なく歌い続ける。
二人は火のない囲炉裏に置いてある、丸い固まりをなでさすっているのだ。
老人達は孫を見つめるような笑みを浮かべ、やさしげな表情をしていた。
どこか人間の肌に似た桃色の固まり。その固まりはぶよぶよと蠢きながら、しだいに大きくなってゆく。
それは魔化魍の肉球であった。
老人達は姫と童子、いや翁(おきな)と媼(おうな)と言うべきか。今まで響鬼達が戦って来た個体とは少し違っていた。
「じいさまや・・・もうすぐですね」
「ばあさまや・・・もうすぐじゃのう」
二人は、時折嬉しげに言葉を交わすと、また歌い始め、肉球をなでさする。
やがて、肉球の先端がぽっかりと割れ、中からべとべとした粘液に包まれた不気味な赤ん坊が生まれた。
「おぎゃ〜〜おぎゃ〜〜〜!!」
「おお、産まれた産まれた、ばあさんや」
「おお、産まれた産まれた、じいさんや」
「モモから産まれたモモタロウ、はやく大きくなって鬼を退治しておくれ・・・・・」
二人の声が聞こえたか、その赤ん坊は見る間にむくむくと大きくなってゆく。
翁と媼はモモタロウに、大きな赤黒いだんごを差し出した。
「ううう、ううう・・・・」
モモタロウは、だんごをつかみ取るとボリボリと喰らい、そしてまた大きくなってゆく。
洞窟の奥にはだんごの材料とおぼしき、行方不明になった観光客の服やリユックなどが散乱していた。
「たくさん食べて、大きくなれ、大きくなれ・・・ひひひひ」
「お前のために作った日本一のきびだんご。ほれ、それに鬼を殺すための刀も揃えておいたぞえ」
畳の上に名刀「鬼切丸」が無造作に置かれてある。
その後ろには、鹿島神宮から鬼切丸を盗んだ3人の白装束の子供がきちんと正座していた。
「さぁ、お前達にも、きびだんごをあげよう」
翁と媼が、干涸びた手でだんごを差し出す。
「おいしい、おいしいきびだんご。ひとつ食べれば、ほほが落ちるぞ、ひひひひひ・・・」
三人の童子が声を揃えてこう言った。
「モモタロウさん、日本一のきびだんご。ひとつくださいお供します」
「モモタロウさん、日本一のきびだんご。ひとつくださいお供します」
「モモタロウさん、日本一のきびだんご。ひとつくださいお供します」
感情も抑揚もない声と共に、童子達がひとりひとり、だんごを受け取る。
食べると、その姿がしだいに変わっていった。
ひとりは毛の生えた四つ足の獣に、もうひとりは人の形をした獣に、そして3人目は羽を持つ獣の姿にと。
「ひひひ、じいさんや、鬼退治のお供も揃うた」
「ひひひ、ばあさんや、ほんに立派になりおった。さあ刀じゃ、鎧じゃ」
「さぁ、モモタロウ。鬼退治に行っておくれ〜〜〜〜」
いつの間にか、成人の大きさになったモモタロウは鎧を身に着け、鉢巻きに陣羽織。そして腰には「鬼切丸」を差し込んだ。
「うおおぉぉぉぉぉう」モモタロウが叫ぶ。
その体からは、凄まじい殺気が発せられた。
鬼に対して絶対的な強さを誇る、最強の魔化魍。
古来より猛士に恐れられた、伝説の怪物「モモタロウ」が今、復活したのである。

4 宝

会議が行われた翌日の早朝。
まだ暗いうちに立花勢地郎は、トドロキといっしょに店を出た。
行き先は新宿、歌舞伎町。
不夜城と化した新宿が一時のまどろみを見せる、静かな時間を選んだのだ。
歌舞伎町の外れには「鬼王神社」がある。
正式には「稲荷鬼王神社」といい、元来大久保の稲荷神社に鬼王神社を合祀して出来た神社である。
この「鬼王」という名前を持つ神社は全国にもここしかなく。
恒例の「節分会」には「鬼は内、福は内」と言って豆をまく変わった風習をもつ。
実はこの神社。吉野と縁深い神社であった。
江戸時代に関東の猛士の先祖、田中清右衛門が吉野にあった鬼王権現を勧請してきたのが始まりであると言う。
ここには「鬼」ゆかりの古文書、道具、武器など、今は使われない多くのものが保存されており、猛士に関係のある「歩」の人々の心のよりどころともなっている。
勢地郎は社務所で宝物蔵のカギを受け取ると、トドロキといっしょに地下に降りて行った。
トドロキも鬼王神社の事は知っていたが、宝物蔵には入った事もない。
そこは大きな棚がいくつも並ぶ大きな部屋だった。
裸電球の下、勢地郎は棚の間をあちこち歩き回り、なにかを探している。
「おやっさん、何を探しているんですか?」
後ろからトドロキがたずねる。
「う〜ん・・・『雷神八連鼓』と呼ばれている昔の武器だよ」
「はぁ・・・・?」
「俵宗達の描いた『風神、雷神図』というのを教科書で見た事はないかね。その雷神が持っている太鼓だよ」
「ああ、俺知ってるっス。小さな太鼓が丸く繋がった奴ですね」
「そう、まぁ本物というわけじゃないが、清めの音で魔化魍を倒す原型となった武器のひとつだよ。これを研究して今の音撃鼓が出来たと言ってもいい。もともとその太鼓は、鬼切丸といっしょに鬼王神社に納められていたものなんだ。それが明治になって鬼切丸が国宝に指定された途端、鹿島神宮に奪われてしまったんだ。国の方針が変わったからと言ってね」
勢地郎の目が、大きな黒塗りの漆の箱の前で止まった。
「おっ、これだ。これだ!」
「トドロキ君、この箱を引っ張りだすんだ」
二人掛かりで、白くほこりをかぶった大きな箱が引き出された。
勢地郎はふっとホコリを払い、緊張しながら、大きなふたに手をかける。
「あれ、これ封印がしてありますね」
ふたには、黄ばんだ和紙で封印がしてあった。日付が書いてある。
「こりゃあ、ざっと百年は誰も開けてないな」
封印を破り、ふたを開けると、中には白い布で幾重にも包まれた細長い包みが入っていた。
「これですか?」
肩越しにのぞき込むトドロキ。
勢地郎は、布をほどき始めた。
「ここの境内に鬼の姿をした手水鉢があったろう」
「ええ、土台が鬼の姿でその上にでっかい石の水桶が乗ってる奴ですね」
「そうそう・・・」勢地郎が嬉しそうに笑った。
「あの鬼が江戸時代、毎晩夜泣きをしたそうだ。それで加賀美某という人物が鬼切丸で斬りつけたところ夜泣きは収まった。ところが今度は鬼切丸のせいで加賀美某が狂ってしまい、家人を何人も斬り殺したそうな。皆は鬼の祟りだと言って、八連雷鼓で鬼切丸を封じ神社の宝としたそうだ」
「はぁ・・・・・」
「まぁ、こんな伝説を信じているわけじゃないが、刀を封じたってところが気になってね。こうして出向いて来たというわけさ」
『雷神八連鼓』が現れた。
それは直径15センチほどの小さな太鼓がふたつ、鉄の棒で繋がっている。それが全部で4つ。
これを組み合わせると丸い形になるらしい。
中を確認すると勢地郎が八連雷鼓を持って立ち上がった。
「さぁ、これをみどりくんに見てもらおうじゃないか」
「えっ!持ち出してもいいんですか?」
「当たりまえだよ。使える時に使わなきゃ、それこそ宝のもちぐされってものだろ」
勢地郎は、さっさと包みを小脇に抱えると歩き出す。
トドロキは、あわてて後を追った。

コメント(12)

5 行楽

「いい天気ねぇ、まさに秋晴れっ!」
郁子のテンションはいつもに増して高かった。
確かに空は澄みきって風はさわやか、行楽には絶好の天気である。
本当なら明日夢にも、持田ひとみことモッチーにも楽しいはずの紅葉狩りだ。なにせ今回はヒビキさんが参加してくれるのだから。
しかし、それも明日夢の母、郁子のハイテンションの前には消し飛んでしまう。
昨晩は遅くまで弁当作り、そして愛車であるタクシーをピカピカに磨き上げる念のいれようだ。
あのね、母さんのデートじゃないんだからね。
今朝も出がけに明日夢は、そう言って母に釘を刺したつもりだったのだが、やっぱり聞いちゃいない。
後部座席にはヒビキとひとみが乗っているが、郁子の視線はちらちらとヒビキに向けられる。
一応職業ドライバーだから、運転技術は確かなのだが、助手席に座っている明日夢は気が気じゃない。
「母さん、前見て、前!」何度、そう言って注意した事か。
しかし、そんな状況も気にならないのか、ヒビキはいたって平静。
時々、ちょっと黙り込んで窓の外をながめている。明日夢には普段と変わらないヒビキさんに見えた。
「ヒビキさん、明日夢のバッグにリンゴが入ってるから食べてね!」
郁子が、カーステレオに合わせてハミングしながら振り向く。
「これですか?」
すかさず、ひとみがバッグからタッパーを取り出す。中にはウサギに切ったリンゴが入ってた。
「ヒビキさん、どうぞ」
「おっ、サンキュ!」
そう言ってフォークに刺さったリンゴをほおばるヒビキ。
と、ヒビキはバックの中に詰め込まれたドラムスティックに気がついた。
「あれ、これ少年の?」
その途端、明日夢が。
「あっ、そうです。つい持って来ちゃって・・・なんかいつも持ってないと落ち着かないんです」
この間、河原の土手でやってたドラムの練習をヒビキにほめられてから、明日夢は必ずドラムステックを持ち歩くようになった。
「少年も鍛えてるんだ!」
ヒビキのそのひと言が、嬉しくてたまらなかった。
万引き男にボコられて落ち込んで、ヒビキに誘われ山に行った時にも、ずいぶん励まされた。
「いいか、晴れの日もありゃ、雨の日もある。なんでもかんでも自分のせいにするな。やまない雨はないんだ」
あの言葉は、本当に胸に染み渡った。
そのあと、いろいろあって魔化魍に襲われて危ない時も、ヒビキさんが身を張って助けてくれた。
なんて人なんだ、この人は。
胸が熱くなって涙が出た。
あれから明日夢は自分が変わったと思う。相変わらず頼りなくって、さえない自分だけど、心の中には火が灯った。
前に日菜佳さんに言われた事があったっけ、「明日夢くん、清めの音までいっちゃう?」
笑ってごまかしたけど・・・
まさか鬼になるなんて、そんなこと今の自分にはとても出来ない。
でも、でも、目標は絶対ヒビキさんだ!

4人を乗せたタクシーは常磐道土浦北インターから国道125号に入る。
ここから筑波山の筑波山神社までは約30分。駐車場に車を止めて筑波山神社の前についたら、ちょうどお昼だった。
イザナギ・イザナミのミコトを祭っている立派な社殿にお参りし、そのままケーブルカーの乗り場に向かう。
ここから筑波山の山頂駅までは15分。
クリーム色したケーブルカーは30度の傾斜をものともせずに、ぐいぐいと登ってゆく。
目の前には筑波の紅葉した山々がパノラマのように広がっていった。
「わぁ〜〜きれい!」
いちばん喜んだのはモッチーだ。
真っ赤なもみじ、黄色いイチョウ、そしてドングリ、ナラ、シイなど、古来から保護されてきた貴重な森が、色とりどりに染まり、錦のように折り重なり、素晴らしい景観を作り出していた。
明日夢も郁子も、そしてヒビキも景色に夢中になった。
山頂駅についたところでお弁当。
明日夢が背負って来たバッグの中から弁当を取り出し、展望台のそばにあるベンチに座って、紅葉をながめながら食べる。
ここからの眺めもまた素晴らしい。紅葉ばかりか、関東平野がほぼ一望出来る。
「おっ、これはうまい。おかあさん、料理じょうずだねぇ」
おにぎりをほおばり、出巻き玉子や煮物をつまんだヒビキからお褒めの言葉をいただき、郁子の幸せは頂点に達した。
柄にもなく頬を染めて、はにかむ様子を見て、明日夢とモッチーは顔を見合わせ大笑い。
その後は、とりあえず自由行動。
山頂にあるお土産屋で、名物の干し芋や干し柿を買ったり、ずらり並ぶガマのマスコットを見て驚いたり。
「ヒビキさん、これ」明日夢が案内板を指差した。
「『自然研究路』って行ってみませんか?」
「そうだな、腹ごなしにいっちょ行ってみるか」
「あっ、私も行く〜〜!」すかさず手を挙げるモッチー。
出遅れてはならないと、郁子までもが「私も行く」とついて来た。
この自然研究路は観光客用に作られた登山道で、男体山山頂から女体山山頂をつなぐ整備された道である。
解説版があちこちに立ち、それを追いながら回ると筑波の植物や昆虫、名所などが自然に勉強出来る仕組みになっている。
途中には「ガマ石」や「北斗岩」「弁慶の七戻り」などと呼ばれる奇岩も多い。
行って戻って約1時間ほどのコースだ。
まぁ登山道と行っても観光用の散歩道だし、特に準備もいらないだろうと4人は気楽に出発した。

ところが、女体山の手前から天候が急変して来た。霧が出て来たのだ。
気がつくと、あれだけいた観光客の姿も見えない。道に沿ってまっすぐに来たつもりだったが、霧のせいで道を間違えたらしい。
「なあに、心配ないよ。ヒビキさんがいるんだし、霧だってすぐに晴れるさ」
そう言って不安そうなモッチーを励ました明日夢だったが、ヒビキの方を振り返って驚いた。
ヒビキが真剣な顔をして、まわりの気配をうかがっている。
明日夢はヒビキのこんな表情を何度か見た事がある。
そう、魔化魍出現の時の表情だ。
「少年、わかるか?」
郁子とモッチーに不安を与えないようにと、ヒビキが小声でささやく。
「はい。なんとなく・・・・・」
「よし、ここで引き返そう。なんだかわからないが、いやな感じがする」
研ぎすまされた鬼だけが持つ、敵を感ずる感覚は最大限の危険を伝えていた。
ヒビキを先頭に、郁子とモッチー、最後に明日夢。4人は急ぎ足で今来た道を引き返し始めた。
その時だ。
目の前に一匹の白いイヌが現れた。
ヒビキに向かって牙をむき出し、唸りをあげる。
「そうか!」ヒビキは悟った。
こいつ、犬じゃない!
「少年!おかあさんとモッチーを連れて走れ。いいか振り返るんじゃないぞ」
「はい!」
その言葉が終わらぬうちに、明日夢は郁子の手を引いて走り出した。あわてて、ひとみも後に続く。
「なんなの、何なのよ、これは!ヒビキさん、なに?どうしたの?」
郁子の叫びも無視して、明日夢は走った。走りながら携帯を取り出した。番号は登録してある。
すぐに連絡しないと!
明日夢は、携帯の通話ボタンを押し続けた。

6 出現

「はーい、甘味処たちばな、です」
明日夢からの緊急連絡を取ったのは日菜佳だった。
一瞬、非現実的な今の状況と、日菜佳ののんきな声が結びつかず、頭が空白になる。
「もしもーし?どちらさま?」
「あっ、僕です明日夢です。響鬼さんが逃げろって、奴らが、魔化魍が現れたんだと思います」
「えっ、明日夢君。なに?魔化魍がどうしたって!」
そこからの反応はさすがに早かった。日菜佳はすぐに明日夢の位置を確認し、状況を聞き出し、いったん電話を切ると勢地郎に報告した。
「なんだって!筑波山に」
「すぐに香須美とトドロキ君に出てもらってくれ」
「はい!」
「あれも、持ってく方がいいか・・・」
そうつぶやくと、勢地郎は地下の研究室に向かって走って行った。
ヒビキは、白い犬と戦っていた。頭上にはもう一匹、白いキジがいる。
敵は波状攻撃をかけて来る。上に注意を取られれば犬が噛み付く、下に気を取られれば上から襲われる。
ヒビキは素早く攻撃を回避しながら、変身音叉『音角』を取り出し木の幹を叩いた。
キィィィィィィンーーー!
共鳴音が鳴り響き、振動する音角を額にかざす。
と、見る間に額に鬼の顔が浮かび上がり、直後。
全身から激しい紫の炎が吹き上がる。炎に包まれ、ヒビキは異形の鬼『響鬼』に変身した。
響鬼は素早く腰につけた数枚のディスクを拡げ、音角で命を吹き込む。
ディスクはアカネタカ、リョクオオザル、ルリイロオオカミに姿を変えて飛び去った。
「頼んだぜ」思いをディスクに託すと、響鬼は敵に向き合った。
こいつらを操っている奴がいるってことだ。
「出てこい!」
霧に向かって響鬼は叫んだ。
後ろから突然、白いキジが襲いかかる。
響鬼は読んでいた。振り向きざま気合いを込めると口を開く。
「ゴォォォォォォ!」鬼幻術・鬼火。
灼熱の炎が狙い違わずキジに命中した。まるで爆発するように、響鬼の直前でキジは燃え尽きた。
響鬼は腰の音撃棒を引き抜くと、今度は飛びかかって来た犬に叩きつける。
犬は、はじき飛ばされ悲鳴をあげると、これも燃え上がり爆発して粉々になった。
そのとき、霧の中からしみだすように、ゆっくりとモモタロウが姿を現した。
黒い鎧に包まれたその姿は、まるで戦国時代の亡霊のような武者姿。
羽織った白い陣羽織には『日本一』の赤い血文字。目には狂気の光、そして全身からは猛烈な殺気が吹き出していた。
こいつは・・・・
こいつは、もしかするとモモタロウなのか!
響鬼もモモタロウの事は知っていた。
鬼になる者が、先輩から必ず聞かされるモモタロウの伝説。
吉野の古文書に記された最強の魔化魍。何百年も昔、吉野の鬼を百人も殺したと言う恐るべき怪物だ。
まさに鬼にとっての天敵と言っても良い。
「まさかコイツとやり合う事になるとはな」
ぞろり!
モモタロウが鬼切丸を抜く。
「うぉおおおおお!」
雄叫びをあげながらモモタロウが突っ込む、そのまま響鬼を真っ向から切り下げる。
ガチーン!!
響鬼は逃げなかった。十文字に構えた音撃棒で、鬼切丸を止めた。
「はぁぁぁぁぁぁあっ!」
響鬼の全身が赤く燃えあがる。
『響鬼紅』に変身。
音撃棒が真っ赤に燃えて、棒の先から炎が吹きあがり、たちまち剣となった。
一瞬、炎にひるんだモモタロウが引き、距離を取る。
じりじりと二人はにらみ合ったまま右に回り始め、再び距離を縮める。
今度は響鬼が打ち込んだ。鎧に覆われた体ではなく足を狙って、飛び込みざま、横になぎ払う。
モモタロウは飛んだ。驚くべき跳躍力で真上に飛びあがり、響鬼を狙って鬼切丸を振りかぶる。
実は、これこそ響鬼が待ち望んだ瞬間だ。真上に向け下から火炎を放つ。
もちろん炎は目くらまし、モモタロウが目標を見失い着地した瞬間、響鬼の炎の剣がモモタロウの背中をつらぬくはずだった。
ところが、炎の剣ははじき飛ばされた。
必殺の一撃が効かない。
多くの魔化魍を一瞬にして葬り去った技が、モモタロウにはまったく無力なのであった。
あぜんとする響鬼に、猛然と襲いかかるモモタロウ。
逃げる響鬼。
あたりの樹木を盾にするが、鬼切丸の切れ味は大木をも一刀両断。まるで竹でも切っているかのように抵抗がない。
「やばいな・・・」
響鬼はしだいに追いつめられて行った。


明日夢は逃げた。郁子もひとみも危険は感じたらしい。
しかし慣れない山中、濃い霧の中である。十分も走ると息が切れ、三人とも休まずにはいられなかった。
「ちょっとちょっと明日夢、待ちなさいって・・・・母さんもう走れないから」
とうとう郁子が座り込んでしまった。ひとみもぜいぜいと荒い息をしている。
あたりを見回すと、どうやら自然観察路にもどったらしい、見覚えのある「解説版」のプレートが見える。
「ヒビキさんは、大丈夫だろうか?」
明日夢は握りしめた携帯をじっと見る。応援はいつ、来てくれるのだろうか?
その時、頭上で獣の鳴き声がした。見上げるとそこには大きな白い猿が!
しかも牙をむき出し、いまにも襲ってきそうな気配だ。
「きゃっ!」
「こんどは猿?」郁子とひとみもわけが分からず、怯えている。
とっさに明日夢は落ちていた木の枝をひろうと構えた。
「ギャーーッ!!」猿が叫ぶ。
何かが飛んで来て猿に襲いかかったのだ。
「キュイーッン!」赤い鳥が見えた。アカネタカだ。
ヒビキが放ったディスクアニマル、アカネタカが白い猿と戦っている。
素早く飛び回り、真っ赤な翼で急降下をかけ、敵の目を引きつける。
リョクオオザルとルリイロオオカミも飛び出て来て、猿と戦い始めた。
いまのうちに!明日夢は郁子の手を引っ張ると再び走り始めた。

「うわぁぁぁぁ!!」
2台並んだ巨大なトレーラーの間を、ギリギリすり抜けると前方にはワゴン車が。
ブレーキをかけ、車体を右に倒しワゴン車との衝突を回避しつつ、これも間一髪すり抜けた。
「香須美さぁぁぁん、もう勘弁してくださ〜〜い」
荷物を背負い、香須美にしがみついたトドロキは半泣きだ。
香須美とトドロキを乗せた響鬼のバイクは時速200キロ以上の猛スピードで常磐自動車道を北上していた。
「なんだって、聞こえないよ!しっかりつかまっててね」
先ほどから追い抜いた車は数知れず、なかにはポルシェやフェラーリもあったような気が・・・
トドロキは巨大なバイクを見事に操る香須美の運転技術に度肝を抜かれたが、それよりもスピードがあがるにつれ別人のようにテンションがあがる香須美に恐ろしさを感じていた。
香須美さんって、こんな人だったんだ・・・・・トドロキは目をつぶって覚悟を決めた。


7 危機

霧の中をどう逃げたものか、明日夢達はなんとかケーブルカーの山頂駅までたどり着いた。
響鬼の姿は見えない。ここで待つべきか、それともケーブルカーで宮脇駅まで下るべきか迷った。
天候はますます悪化し雷雨になってきた。山頂だけに雷光が近く、激しい雷鳴が轟く。
たちばなへ連絡しようにも、携帯はまったく繋がらない。
「明日夢君、どうしよう。ヒビキさん戻ってこないよ」
モッチーが耳を押さえ、激しい雷におびえながら心配してる。
「大丈夫よ、ひとみちゃん。ヒビキさんは山のプロだから、きっと安全な場所で雨宿りしてるわ」
郁子がひとみを抱きかかえ慰めている。
三人は山頂駅に避難すると、次のケーブルカーの予定を聞いた。
駅員の説明では、この天候がやむまでケーブルカーの運転は中止。回復次第、再開すると言う。
駅の中には同じく取り残された観光客が何組も残されていた。
皆不安そうに、天候の回復を待っていた。
その中に品の良い老夫婦がいる。
まっ白な髪を束ね縞の着物を着たおばあさんと、同じ縞の着物に羽織を羽織ったおじいさんだ。
その時、駅の近くの外灯に雷が落ちた。
目の前が一瞬まっ白になり、ドーンという激しい爆発と共に、火花と煙があがった。
観光客が悲鳴を上げて、その場にうずくまる。
その煙の中から走り出る赤い影。そして追いかける黒い大きな影。
響鬼とモモタロウだった。
この激しい嵐の中、二つの異形の者は戦い続けていたのだった。
見るからに響鬼は不利だった。体には無数の傷跡。そこからは血が滴り落ちている。
じっとしていると足もとの水たまりが真っ赤になってしまうほどだ。
逆にモモタロウは無傷、ぶんぶんと鬼切丸を振り回し、樹木だろうが鉄製の外灯だろうが、まっぷたつにする。
駅前の土産物屋に響鬼が逃げ込む、モモタロウが追いかけ店内を粉々にし壁を突き破る。
「大変だ!魔化魍だ!」
明日夢は、駅員にすがりついた。
「お願いです。すぐにケーブルカーを動かしてください。あいつが来たらみんな殺される!」
茫然と戦いを見つめていた駅員が、はっと正気に戻る。その目の前で土産物屋が音を立てて潰れた。
「乗って!すぐに乗ってください」
あわてて乗り込む観光客、明日夢と郁子、ひとみ達もケーブルカーに押し込まれ、ドアが閉まると同時に、ケーブルカーは雨の中を下り始めた。
終点までの所要時間は約15分。霧に包まれた山々は景色を楽しむどころではなく、まっ白な闇の中を進んでいるのと同じだ。
突然、どすんという大きな音と共にケーブルカーの天井がへこむ。
「きゃ〜〜っ!」観光客の女性が叫びながらしゃがみ込んだ。
明日夢が窓に目をやると、上からだらりと音撃棒を持った腕が下がる。
響鬼さんだ!
明日夢が窓に駆け寄る。雨と共に血の筋がいくつも窓を伝わってゆく。
ケーブルカーの屋根に横たわった響鬼は、精魂尽き果てようとしていた。只でさえ鬼に変身しての戦いは体力を消耗する。
まして、こちらの攻撃がいっさい通用しない強敵相手だ。いくら逃げるにしても限界がある。
「くそぉぉぅ!どーすりゃいいんだ!」響鬼に打つ手はなかった。

ケーブルカーはトンネルに入った。
あたりが真っ暗になり、すぐにまた明るくなる。
響鬼はケーブルカーの天井に大の字になっていたが、トンネルを抜けた途端、真上からモモタロウが来た。
鬼切丸を振りかざし響鬼を串刺しにしようとケーブルカーに飛び乗ったのだ。
もの凄い衝撃にケーブルカーが上下に激しく揺れ、乗客全員が床に倒れた。
響鬼は紙一重でかわす。今まで頭のあった場所に鬼切丸が深々と刺さる。
刀の先端は屋根を突き抜け、明日夢達の目の前に飛び出て来た。
「うわぁぁ、みんな!頭を下げて!」
「うおぉぉぉぉぉぉう!」
仁王立ちになったモモタロウが、鬼切丸を引き抜くと何度も何度も響鬼を狙って突き刺した。
そのたびに下では泣き声と悲鳴が上がった。
「明日夢君!!」
ひとみが抱きつき身動きが取れない。
そんな中、例の上品な老夫婦だけは何事もないようにイスに腰掛けたままだ。
「なんで?」明日夢は不思議に思った。
「おばあちゃん危ない。ふせてーーーー!!」
郁子が老夫婦に気づき、二人の手を取って床に伏せさせようとしてる。
ケーブルカーの上では響鬼の上にモモタロウが馬乗りになり突き刺そうとしていた。
切っ先が響鬼の眉間をめがけて少しずつ下がる。
くっそう!あきらめねぇぞ!!響鬼は防ぐ腕に渾身の力を込めた。
突然、モモタロウに何かがぶつかった。
ケーブルカーの終点宮脇駅から、轟鬼がジャンプして、モモタロウに飛び蹴りを食らわせたのだ。
モモタロウは吹っ飛び、崖の下に転がり落ちる。
「響鬼さん!大丈夫っスか!」
音撃弦 烈雷を構えながら轟鬼が叫ぶ。
「バカやろう!おせーよ」荒い息を吐き出し、響鬼が怒鳴る。
「それより気をつけろ。すぐ襲って来るぞ」
ケーブルカーはやっと宮脇駅に着いた。ドアが開くと乗客は雪崩を打って逃げてゆく。
逆に人をかき分け登って来る女性がいた。香須美である。
「香須美さん!」気がついた明日夢が叫ぶ。
「よかった。無事だったのね。おかあさんとひとみちゃんを早く」
香須美は荷物を抱えたまま叫んだ。
「でもまだ、中にじいちゃんとばあちゃんが・・・」
「わかった、私に任せて、さぁ」
「はい」
明日夢は郁子とひとみを抱きかかえるようにして駅の外に向かって逃げた。
しかし逃げながら、ふと思った。あの老夫婦は、変だ・・・・と。
「かあさん、モッチーをお願い。僕戻るから!」
明日夢はそういうと、もと来た駅に向かって走り出した。
「明日夢どこ行くのよ!」
「明日夢君!」
郁子とひとみの叫びも、明日夢には聞こえなかった。

8 決戦

ケーブルカーの終点宮脇駅は、すでに瓦礫の散乱する戦場と化していた。
新たな敵の出現に怒り狂ったモモタロウが、鬼切丸を振り回し、あらゆるものをぶち壊してゆく。
コンクリートの壁であろうが、鉄製のケーブルカーや手すりであろうが、鬼切丸にかかるとまるで豆腐でも切るかのように、楽々と寸断されてしまう。
この状態では接近戦専門の轟鬼や響鬼は、近づく事すら出来なかった。
立ち向かった轟鬼もなす術がなく、鬼切丸の餌食となり、全身に傷を負う。
「奴の動きを止めないと・・・」轟鬼が叫ぶ。
「そんなことはわかってる!なんとか音檄鼓を奴の体にぶちこめれば!」
「ヒビキ!これを使って!」香須美の声がした。
駅の改札で香須美が何かを持ち上げている。小さな太鼓が丸く繋がった不思議な音檄武器。
「響鬼さん!八連雷鼓です!おやっさんが持ってけって!」
「よっしゃ!」
響鬼はモモタロウの攻撃をかわすとジャンプして、香須美から八連太鼓を受け取った。
轟鬼が敵を引きつけ時間を稼ぐ。
ベルトに装着すると、全身に新たな力がみなぎる。
「ぶうん・・・」という低い音と共に、見えない力に支えられ、体の前面に丸く八個の太鼓が並んだ。
響鬼は音撃棒を打ち下ろし、ドラムのように打ち鳴らす。
新たな「清めの音」が響き渡った。
雲がわき上がる。上空に雷雲が巻き起こり、バチバチと放電を始める。
響鬼のリズムに合わせ、稲妻が踊り、雷鳴がシンクロし、そしてが落雷が起こった。
モモタロウの構えた鬼切丸に向かって、青白い稲妻がいく筋も走る。
「ギャーーーッ!!」
モモタロウが両手を拡げバンザイをしたかたちのまま感電した。
無数の蛇がまとわりつくように、青い稲妻がモモタロウの全身をからめとっていた。
激しい痛みに耐えきれず、ついに鬼切丸を手放すモモタロウ。
「いまだ!刀を奪え!」
響鬼が叫ぶと同時に轟鬼が飛び、床に転がった鬼切丸をつかむ。
「ようし、とどめをさしてやるぜ!」
八連雷鼓をはずし、響鬼は、倒れたモモタロウの背中に音檄鼓をめり込ませた。
「爆裂!真紅の型」
響鬼は一声叫ぶと大きく振りかぶった。
「ハアァァァァァ!!」
ダン!ダン!ダダダン!ーーーーダン!ダン!ダダダァン!!ーーーー
清めの音がモモタロウの全身を駆け巡る。
モモタロウの中で波動が増幅し、内部から体組織を破壊するのだ。
「とりゃ!!」
響鬼はさらに叩き続ける。

「待てっ!!」
その時、香須美の悲鳴と共に異様な声が響いた。
響鬼の手が止まった。轟鬼も振り返る。
そこには白い大きな猿に捕まった香須美と、あの品の良い老夫婦の姿があった。
「わしらのかわいいモモタロウを、よくも・・・」
「動くな!動けばこの娘の首を猿が食いちぎるぞ」
老夫婦はすでに変身を解き、ボロをまとった不気味な姿に戻っている。
香須美の首には、大猿の牙が半ば食い込んでいた。
「ごめん、ヒビキ・・・私、この人たちを逃がそうとしたの・・・」
香須美が苦しそうに、やっとそれだけ言った。
「そこの鬼、鬼切丸をこちらに持ってこい」
鬼切丸を手にした轟鬼が、一瞬悔しそうに躊躇する。
「きゃ〜〜っ!」
香須美の悲鳴、牙がさらに食い込んだ。
「轟鬼、渡せっ!いいか、香須美にこれ以上何かしたら、許さんぞ!」
響鬼が怒鳴った。
響鬼が怒りに燃えている。全身が赤く燃え、両手に握りしめた音撃棒はぶるぶると震えていた。
ゆっくりと、鬼切丸を持った轟鬼が近づいてゆく。
その光景を明日夢は物陰から見ていた。
大変だ。あの刀を渡したら轟鬼さんがやられる。奴らだって香須美さんを手放すわけがない。
魔化魍だって、まだ生きているのに・・・・
この状況で、ただ見ているだけ。何も出来ない自分が歯がゆかった。
僕にも音撃が使えたら・・・心からそう思った。
・・・ぶうん・・・軽い振動が伝わる。
八連雷鼓が目の前にあった。床からかすかに浮き上がり振えながらこっちに近づいて来る。
まだ、動いてるんだ。
明日夢は背中のバッグに入ってるドラムステックの事を思い出した。
素早く取り出すと、八連雷鼓の輪の中に入る。
心を集中し、筑波の神様に祈った。
お願いです。どうか、どうか僕に力を貸してください。みんなを助けたいんです。
心を決めて明日夢はドラムステックを握りしめた。

轟鬼は翁と媼に近づき、鬼切丸を差し出した。
「ひひひひ、これさえあればモモタロウは無敵よ」
「鬼なんぞ、皆殺しにしてくれよう」
「まずはお前からじゃ!」翁が刀を振りかぶった。
その時、太鼓の音がした。ダン・ダダン、ダン・タダン。ダダダン!!
途端に稲妻が走り、再び鬼切丸に落ちる。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
翁が叫び、鬼切丸を放す。その瞬間を轟鬼は見逃さなかった。
白猿に強烈な一撃をあびせ、香須美を取り返し、返す一撃で媼を吹っ飛ばす。
一気に形勢が逆転した。
「ようし!」
それを見て響鬼は音撃を再開する。力を振り絞り、モモタロウに向かって音撃棒を叩き付ける。
振動に耐えきれなくなったモモタロウの全身がふくれあがり、みしみしと鎧にヒビが入った。
「ハァァァァァッ!!」
とどめの音撃が気合いとともに撃ち降ろされると、モモタロウの全身は木っ端みじんに吹き飛んだ。
それを見た翁と媼が逃げようとする。すかさず鬼切丸を拾い上げた轟鬼が真横になぎ払った。
「ぎゃぁぁぁ!!」
翁と媼がチリとなり、ボロボロと崩れ落ちる。
白猿までもが一枚の白い紙に変化し、あっと言う間に燃え尽きた。
最強の魔化魍、モモタロウは滅び去った。

「少年、よくやったな」
顔だけ変身を解いた響鬼と轟鬼が歩み寄る。
「明日夢君、スゴいっスね!」
香須美を介抱しながら、轟鬼が感嘆の声を上げる。
「えっ?・・・僕、ですか・・・」
実感がまったくない。八連雷鼓を前にした時から明日夢の記憶は飛んでしまった。
ハッキリ言ってなにも憶えてないのである。


後日「たちばな」に戻ってから明日夢はヒビキさんやトドロキさん、香須美さんやおやっさんにまで、ずいぶん感謝された。
でも、それが自分の事だとは、とても信じられない。
落雷のせいなのか、それともあの変な太鼓のせいなのか。
かすかに憶えているのは、ドラムスティックを握りしめた時の不思議な感覚だけだ。
その前後の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
そう、鮮明に憶えているのは、ヒビキさんの姿だけ。
怒りに燃え、魔化魍に立ち向かい、人々を救った、あの姿だけは忘れない。

明日夢はまた一歩、前に進んだ気がする。
目標に向かって。
ヒビキさんに向かって。



あとがき

「仮面ライダー響鬼」
第一話を見た時からハマりました。
思いっきり色物ライダーだと思っていたのに、この設定、このキャラ、この雰囲気。
全編に溢れる、この居心地の良さはなに?
明日夢くんという、どこにでもいそうな少年の成長物語。
下町の気さくな中年ライダー、そして「たちばな」の看板娘達。
見るたびにツボにはまり、夢中になりました。
ただ問題がひとつ・・・・29話以降、若干の路線変更。
私は何も言いません。今でも響鬼は大好きです。
このまま見続けます。
ただ、こんな話も見たい。
そう思って、書きました。
魔化魍の謎、猛士との戦いの起源、それに何かの答えを出したい。
そんな思いも少しあります。
楽しんでいただければ幸いです。
>>[9]

なんか大変気に入っていただけたようで、ありがとうございます。
響鬼の続編を書くときに、真っ先に思いついたのが桃太郎の存在でした。
ダーク桃太郎というか、デビル桃太郎と言う存在、そして鬼を切る妖刀「鬼切丸」
あとは舞台を設定して、いかに戦わせるか。
けっこう細かい資料集めに時間をかけた覚えがあります。

この作品はプロの方々にも好評でした。
まぁその後、仮面ライダーにもモモタロスが出た時には笑ってしまいましたが。
もしかして、思いましたね(笑)

良かったら他の作品、オリジナルの「天狗伝説」
これは私の地元の天狗をアクションヒーローにした作品です。
こちらも、よろしければお楽しみください。
やあ、お久し振りです。

この作品、一度読んだような気がするのですが、
私の思い違いでしょうか?

ハラハラドキドキの超スペクタクルですね。
文才の無い私には、
こういう素晴らしい作品を書ける人が羨ましいです。
>>[11]
この作品は、響鬼が放送されていた2006年の冬コミの作品です。
本棚に入れてあったのですが、響鬼ファンの方が読んで感想を書き込んでいただいたのです。

作品には当時見ていた人にはよくわかる細かい設定やひねりが加えてあります。
また戦いの舞台となる筑波山の観光地の地理なども詳しく調べた記憶があります。

今年の夏コミでは「あまちゃん」の話を書きました。
落ち着いたら、またこの本棚に入れておきます。
他にも前に書いた「キングコング対ゴジラ」 オリジナル長編
それと「ガメラ対パルゴン」 ガメラ大怪獣空中決戦の続編 オリジナル
この2本の長編も用意しております。

お楽しみに。

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